都会の愉しみと安らぎのある暮らし「赤坂」

2023.10.20

日本有数のビジネス街港区「赤坂」。一丁目から九丁目まである赤坂の街は、北側は赤坂御所、東側は首相官邸や国会議事堂に接しており、まさに日本の中枢といえます。数多くの企業が本社をこの地に構えるほか、赤坂サカス、東京ミッドタウン、アークヒルズなどの多彩な施設が建ち並び、街は華やかさと活気にあふれています。
今回は、約10年赤坂にお住まいの照明デザイナー、村角千亜希(むらずみ ちあき)さんにお話しを伺いました。

江戸時代の武家屋敷が、赤坂のランドマークに

歴史を紐解くと、赤坂に人が住み始めたのは、江戸時代になってからのようです。嘉永年間(1848~54年)に描かれた、歌川広重の浮世絵「赤坂」には、野山のような風景が描かれており、まだ街の賑わいは見られません。

その後、武家屋敷が複数建てられ、赤坂は武家地として発展していきます。現在の東京ミッドタウンがある場所は、江戸時代に毛利家の下屋敷があった場所です。毛利家下屋敷跡地は、明治維新後、陸軍駐屯地となり、第二次世界大戦後は米軍将校の宿舎、防衛庁の檜町庁舎に。そして、2000年の防衛庁が移転したことに伴い、その跡地に東京ミッドタウンが建設されました。そのほか、赤坂サカスは、安芸藩松平家中屋敷跡、サントリーホールは川越藩松平家中屋敷跡に建っています。

幕末ファンに人気の赤坂。歴史散歩も楽しめる

幕末期には、勝海舟がこの地に屋敷を構え、この地で生涯を終えました。勝海舟は、赤坂が気に入っていたのか、明治維新後も住み続け、赤坂内で三度も住所を変えています。赤坂氷川神社との縁が深く、しばしば参拝に訪れたのだとか。

その後、大正、昭和と歴史が進むにつれ、赤坂の街は華やかに変貌していきます。ここに花柳界(かりゅうかい)が誕生し、道を歩けばどこからか三味線の音が聞こえたり、粋な着物姿の芸妓さんとすれ違ったり…と、風情ある街に。黒塀に囲まれた料亭が建ち、夜になると、政財界の要人を乗せた黒塗りの車がずらりと並びました。

昭和の時代の赤坂は、政治家の会談や接待の場などに利用される華やかな街でしたが、100軒以上あった料亭は、1軒、また1軒と姿を消し、現在は数軒が残るのみ。料亭が数多くあった一ツ木通り付近は、ホテルやオフィスなど、近代的なビルの並ぶ街へと姿を変えました。現在は、再開発が進み、街のあちこちで工事も行われています。

赤坂の工事現場。昔の街の写真を貼り出している

都会の真ん中で、人と自然のやさしさに触れる暮らし

江戸の屋敷街から、長い歴史を経て現在の街へと変貌を遂げた赤坂。最先端のオフィスビルだけでなく、古い一軒家やヴィンテージマンション、住居も少なくなく、学校や公園なども点在し、街にはしっかりと人々の暮らしが息づいています。近年はタワーマンションの建設も進められ、若い世代の人口流入も顕著です。

「赤坂」での暮らしはどのようなものなのでしょうか。今回は、赤坂に暮らす照明デザイナー、村角千亜希(むらずみちあき)さんにお話を伺いました。村角さんは新宿生まれの新宿育ち。10年ほど前からご家族で赤坂にお住まいです。

――どのようなきっかけで赤坂に引っ越しされたのでしょうか?

村角千亜希さん(以下、村角):長男の誕生後、子育てしやすい環境をと、赤坂に転居しました。赤坂には私の母が暮らしているので、仕事と子育てを両立させるため家族と近い場所を希望したのです。ところが、赤坂はなかなかファミリー向け物件が動かないんです。長い間じっと待っていて、希望していたマンションの売り物件が出た時に『今だ!』と購入しました。いわゆるヴィンテージマンションで、自分たちの暮らしに合った内装にリフォームをして住み始めました。

お母さまがお住まいだったとのことで、もともと赤坂には馴染みがあったと思いますが、暮らすようになってあらためて感じたことはありますか?

村角:まず、一番に感じたのは『便利な街』ということですね。私は新宿育ちなので都会の便利な暮らしには慣れているつもりでしたが、まだまだ上があったなと…(笑)。青山でも銀座でも、どこへ行くにもタクシーですぐ。通りに出ればすぐにタクシーがつかまるので、地下鉄に乗らなくなってしまいましたね。

千代田区と渋谷を結ぶ青山通り

赤坂というと、ビジネス街というイメージを持つ方が多いかと思います。“住む” 街としての魅力はいかがでしょうか。

村角:たしかに赤坂はオフィスビルや商業施設が多いのですが、意外に緑も多いですし、路地に一軒家があったりと、普通の街並みの一面もあります。また、坂が多いので、見晴らしの良い場所も多いです。
自宅の窓からも木々が見えて、眺めが良いんですよ。赤坂氷川神社の隣のアメリカ大使館宿舎の敷地にはたくさん木が植えられていて、森のようになっています。自然に触れながらゆったり暮らせる街ですね。

村角:私のお気に入りは赤坂氷川神社で、都心にあることが信じられないくらい神々しい場所です。境内の木々が森のようになっていて、まさに都会のオアシスですね。赤坂氷川神社では毎年お祭りをやっていて、今年もお神輿を担いだんですよ。そんな地元ならではの楽しみがあるのも、赤坂の魅力ですね。私の夫はアメリカ人なのですが、昔からのものが残る落ち着いた街並みにほっとすると言っています。

――日常の買い物はどうされていますか?

村角:自宅から東京ミッドタウンまで歩いてすぐなので、そこで買い物をしています。東京ミッドタウンには、ハイブランドのショップだけでなく、普通のスーパーマーケットや日常使いできる食料品店も入っているんです。
休日は、新鮮なお野菜を買いに、青山の国連大学前のファーマーズマーケットへ出かけることもあります。赤坂から車ですぐなので、夫と一緒によく行きますね。

それから、赤坂はおいしいものがたくさんあるのも魅力です。歩いて行ける場所に老舗の和菓子屋さんがあって、気軽に季節のお菓子を買うことができるのはうれしいですね。

――子育て環境はいかがでしょうか。

村角:公園があちこちにあり、小さな子どもと散歩に出かけてちょっと遊ばせるような場所がたくさんあるので、子育ての環境はよいと思います。
子どもが通った保育園では、場所柄か第一線で活躍する働くお母さんが多かったので、ママ友は戦友のような関係でしたね。皆さんお忙しいので、何かイベントがあるとパッと集まって濃密な時間を楽しんで、パッと解散、というような気持ちのいい時間の使い方をしていました。今でもママ友の方々とはつながりがあって、赤坂で集まることもあるんですよ。飲食店を経営している方がいらっしゃるので、その方のお店で集まったり。友人が住むタワーマンションのパーティールームを利用したりもします。これも赤坂ならではの楽しみかもしれませんね。

今、赤坂はタワーマンションが増えたりと若い世代の人口流入があるので、小学校や中学校ではクラスを増設しているようですね。これから、もっと子ども人口が増えていくのかもしれません。

――そのほか、赤坂に住んで良かったと感じることはありますか?

村角:『情報が入りやすい』ということでしょうか。新しいもの、美しいものを敏感にキャッチできる街ですね。

「新国立美術館」「サントリー美術館」や「21_21 DESIGN SIGHT」、東京ミッドタウン内のギャラリーなど、アートに触れられる場所が徒歩圏にあるので、ふらっと出かけた先で素晴らしい芸術に出会うことができます。子どもにはできるだけ本物を見せたいと思っているので、子どもを連れて出かけられるのも、この街だからこそですね。学校や習い事の帰りに家の近くで待ち合わせしてパッと一緒に見に行ったりできますが、遠いとなかなかそうもいかないですよね。

また、音楽鑑賞に「サントリーホール」へ家族で出かけたりもします。「サントリーホール」には聴きに行くだけでなく、ピアノやゴスペルの発表会でブルーローズ(小ホール)の舞台に立ったことも。こういったことができるのも、赤坂に住んでいるからこそのご縁があるからかもしれません。

「21_21 DESIGN SIGHT」

――お話を伺っていると、毎日の生活がとても楽しそうですね。最後に、村角さんにとって、豊かな生活とは何かを教えていただけますか?

村角:豊かさのキーワードは“バランス”でしょうか。都会にいながら自然に触れられること、仕事で思い切り頑張って家では心からくつろぐこと…。そんなバランスがとれた生活が豊かさと言えるかもしれません。

私は照明デザイナーとして、いろいろな施設で“リラックスできる灯り”、“日常のワンシーンを楽しくする灯り”を調光して演出をする仕事をしています。
光をデザインするという仕事柄もあって、自然の光と共に生活するような暮らし方を心がけています。家の中は、誰かに見せるためではなく、そこに暮らす人が自分の時間を大事に思えるように工夫をすると良いですよね。

赤坂氷川神社の手水に季節の花が活けられ、訪れる人を和ませている


忙しい現代人は、くつろぎの時間、癒しの時間を大切にしようと思っても、仕事や家事に追われて後回しになりがちです。その点、どこに行くにも便利で、徒歩圏で欲しいものが手に入る「赤坂」という地の利の良さは、時間的・精神的余裕を生み出し、暮らしにゆとりをもたらしてくれるのでしょう。

都会的なものだけでなく、神社や公園に豊かな緑があり、人の温かさを感じるコミュニティがあることも、大きな魅力です。インタビュー中、村角さんは『誰かに見せるためではなく、自分たちが本当に心地よいと思える暮らし』と表現されていましたが、この街では、地に足ついた “ほんとうの” 豊かな暮らしを実現できそうです。

DATA

村角千亜希|Chiaki Murazumi

スパンコール 代表、照明デザイナー 
http://www.spangle.jp

1972年東京新宿生まれ。女子美術短期大学 生活デザイン卒業。照明デザイン事務所「スパンコール」代表。ホテル、レストランなどの商業施設、オフィス、幼稚園、保育園、イベント、ランドスケープ、個人住宅など様々な空間の「光の設計」を手掛けている。 著書に『照明で暮らしが変わる あかりの魔法』。 IALD(国際照明デザイナー協会)会員。
(Photo by Ayako Mizutani)

Text & Photos by Sayoko Murakushi
         

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