“空間を満たす芸術品” エドラの哲学を紐解く5つのキーワード
“空間を満たす芸術品” といわれるイタリアのハイエンド家具ブランド Edra(エドラ)。今年、南青山に日本初の路面旗艦店「Spazio Edra Tokyo Aoyama by LIVING HOUSE.」がオープンし、話題を呼んでいます。創業者であり、副社長兼コミュニケーション部門マネージャーを務めるMonica Mazzei(モニカ・マッツェイ)さんにブランドの哲学を伺いました。これから5つのキーワードに沿ってご紹介していきましょう。
1. 1987年トスカーナで創業
約40年前に、イタリアのトスカーナ州で誕生したエドラ。伝統的なクラフトマンシップと最先端のテクノロジーを融合し、独創的なクリエイターとの協業で生み出される数々の家具は極めてアート性の高いもの。世界各地のラグジュアリーホテル、美術館、高級レジデンスで採用され、その存在感は国境を越えて支持を集めています。



日本では2023年10月より株式会社リビングハウスがエドラ社の国内総代理店となり、本格的な展開が始まりました。

――最初にモニカさんご自身についてお伺いできますか?
モニカ・マッツェイ(以下モニカ):私は兄のヴァレリオと1987年にトスカーナ州ペリニャーノで設⽴したエドラ社の、副社長 兼 コミュニケーション部門マネージャーを務めています。⽗が 1949年から家族経営で家具を製造していた⼯場の2階に、私たちの家がありました。常にお客樣が⾏き来する様子や、事務所の隣で製品が展⽰されている光景、工場に漂う⽊材の⾹りが記憶の中にあります。

2. 時を超えて輝く、独創的なクリエーション
――エドラというブランドはどのような発想や意思から⽣まれたのでしょうか。
モニカ:エドラは独⾃のビジョンを追求できる、⾃由で独⽴した企業として生まれました。そのビジョンというのは、絶対的な品質、素材への挑戦、技術と⾰新、アートと伝統の融合を基本原則としたものづくりです。
エドラが目指しているのは、一般に言うノスタルジックな古典主義ではありません。イタリアの人文主義文化に根差しながら、時代を越えた優雅さで現在や未来に語りかけるような、生き生きとした古典主義です。私たちを取り巻く土地や建築、芸術の美しさを常に意識しながら、新しい表現を探求し、単なるモノとしてではなく、美と快適性が共存する環境や体験をデザインしたいと考えています。

モニカ:結果として「Flowers Collection(フラワーズコレクション)」や「Tatlin(タトリン)」、「Flap(フラップ)」など、30年経った今なお愛され続けるモデルを⽣み出すことができたのです。



3. 素材開発への圧倒的な情熱
ものづくりへの情熱を物語るのが、オリジナル素材の開発です。
モニカ:エドラは製品に使用する布を、“単なる布地” とは考えていません。それぞれが覆っている製品のスピリットを最⼤限に表現するようデザインされており、多くの場合 “発明” され、モデルに合わせて裁断され、縫製されます。決して装飾のためではなく、プロジェクトの不可⽋な部分であり、本質的な構成要素だと考えているのです。



4. “創作者” たちの思想から傑作が生まれる
“創作者”と呼ばれる稀有な才能を持つクリエーターとの協業も、エドラにとってとても重要。彼らの直感やアイディアが、時代を超えた独創的な製品の出発点となっています。代表的な4組の創作者についてモニカさんは以下のように語ります。
Francesco Binfaré(フランチェスコ・ビンファレ)

モニカ:フランチェスコは、快適性を解釈することに決して妥協しない、深い感性を持っています。彼の “柔らかさ” の表現は、特許素材「Gellyfoam®」[*1]や、「スマートクッション[*2]」のような動作性の開発とともに展開されました。
*1 柔軟で特殊なポリウレタン素材。体を跳ね返さず、体型に合わせて形を変えながら包み込むようにサポートする。
*2 驚きのしなやかさで前後左右に曲がる“肘掛け”と“背もたれ”。あらゆる体勢にフィットする。

Jacopo Foggini(ヤコポ・フォッジーニ)

モニカ:ヤコポはポリカーボネート[*3]を⽤い、フォルム、光、⾊を常に異なる⽅法で操る、唯⼀無⼆の芸術作品を⽣み出しています。
*3 透明な樹脂。通常はプレートで流通している素材だが、手作業で樹脂を練り出すことでチューブ状に成型。芸術的な表現が可能になった。

Fernando and Humberto Campana(フェルナンド&ウンベルト・カンパーナ)

モニカ:ブラジルのカンパーナ兄弟はデザイナーであり、アーティストでもあります。彼らの多様な素材を⽤いた “実験” のようなアイテムには、クラフトマンシップの要素が色濃く現れています。

マサノリ・ウメダ(梅⽥正徳)

モニカ:梅⽥正徳との協業で2つのアームチェア「Getsuen(ゲツエン)」と「Rose Chair(ローズチェア)」を⽣み出せたことは、私たちにとって特別な出来事でした。彼の詩的な感性と、繊細でありながらも圧倒的で強⼒なビジョンに惹かれたのです。私たちはプロジェクトを通して、“⼈・⾃然・空間・時間が相関している” ということを彼と共有できたのです。

5. 歴史的空間にも現代建築にも調和する家具
見た目の美しさも機能性も家具の常識を見事に覆し、空間で特別な存在感を放つエドラの家具。いったいどのような人たちに支持されているのでしょうか。
モニカ:エドラを選ばれる方は、最高品質の素材を用いて、考えうる限り最高の手法でプロダクトに仕立て上げることで生まれる優雅さ、快適さ、そしてなによりその美しさを評価してくださっています。
またエドラの製品は歴史的な建築にも現代の建築にも調和します。現代美術品や家具、ヴィンテージ品との組み合わせもよく⾒られ、何かのムーブメントや時代性、トレンドを捉えているというよりも、感性や優雅さの具現とも言えます。



理想の家とは、住み手を表現し同時に包み込む場所
エドラ本社が監修する “Spazio Edra(スパツィオ エドラ)” の名を冠した旗艦店が、日本で初めて南青山にオープン。そこで最後に、日本との繋がりについて伺いました。
モニカ:⽇本はかねてよりとても魅⼒的な地でした。美意識と精神が深く結びつき、あらゆる物や仕草、空間に象徴的な価値が然るべき⽐重で宿っていて、静かな威厳を持っています。今⽇、東京の中⼼地である⻘⼭に「Spazio Edra」をオープンできたことは、とても大きな一歩です。
――⽇本の住空間にはどのような期待をお持ちでしょうか。
モニカ:私にとって “理想的な家” とは、居⼼地が良く⾃分らしくいられ、空間やものがそれらを使⽤する⼈を表現し、包み込んでくれる唯⼀無⼆の雰囲気を創り出せる場所です。私は “既成のスタイル” が好きではありません。私たちは日本の方々が製品を気に⼊り、何年にもわたってともに⼼地よく過ごし、⾃由に⾃分を表現できることを願っています。

エドラ副社長のモニカ・マッツェイさんのお話を軸に、ブランドの哲学を紐解いてきました。
一つひとつの製品が最⾼の完成度に到達するために、5~10年の歳月をかけることも厭わないというエドラ。常に新しいアイデア、素材、アイテムに取り組み、研究を重ねる。それが独創的でありながら、長く愛される製品へと昇華する。エドラが “空間を満たす芸術品” と称される理由は、ここにあるのではないでしょうか。
次回は、2025年10月にグランドオープンしたショールーム「Spazio Edra Tokyo Aoyama by LIVING HOUSE.」を詳しくレポートします。どうぞお楽しみに!

Monica Mazzei モニカ・マッツェイ
副社長 兼 コミュニケーション部門マネージャー エドラの創業当初から携わる。父親はトスカーナ州ペリニャーノで家具会社を営んでおり、モニカは夏休みになるといつも父親のもとで働く。学業を終えた後、モニカは兄とともに父親やその会社で培った経験を引き継ぐことを決意し、1987年にエドラを設立。




