先見の明からトレンドを生み出す。「B&B Italia」の革新性

2025.04.25

昨年(2024年)秋、表参道・骨董通りにショールームがリニューアルオープンしたラグジュアリー家具ブランド「B&B Italia」。その魅力をこれから2週にわたってお伝えします。前編では歴史と代表作にフォーカス。時代を超えて愛され続けるユニークな世界観を紐解いていきましょう。

世界的な家具ブランドとして、時代を超えて愛され続ける理由とは?

B&B Italiaの創業は1966年。時代を先取りする革新性と優れた技術力で、世界的な家具ブランドとしての地位を早くに確立しました。“メイド・イン・イタリー” の家具がデザイン、品質ともに素晴らしいというイメージを作り上げた功績は大きいといわれています。

成功の礎を築いたのは、創業者ピエロ・アンブロージオ・ブスネリの存在です。彼は家具製造の技術とデザインの両面で、当時の常識を覆す画期的なアイディアを持ち、それを確実に実現する人でした。

カリスマ的な創業者ピエロ・アンブロージオ・ブスネリ

ブスネリの先見性を物語るエピソードのひとつに、ミラノ北部に位置する本社ビルがあります。当時まだ無名だったレンゾ・ピアノとリチャード・ロジャースによる設計で、彼らの名を世界に知らしめたパリのポンピドゥーセンターに先駆け、1972年に完成しました。

さらに素晴らしいのは、この建物が今なお本社ビルとして使われていること。建物そのものが、訪れる人のインスピレーション源になっています。

家具を通じて社会に訴えかける精神

ブスネリにはリスクを恐れず固定概念やルールを打破する姿勢がありました。B&B Italiaのその精神を象徴する存在のひとつが、ガエターノ・ペッシェによってデザインされた初期のアイコニックな作品「UPシリーズ」です。

1969年の登場以来、UPシリーズを代表するアームチェア「UP5_6」は、最も優れたデザイン表現のひとつとして高く評価されてきました。

このプロダクトはモダニズムの象徴であり、快適な母胎を誇りながらも囚われの身であった、当時の女性像のメタファーとして知られています。女性の社会進出が今ほど一般的ではなかったころ。時代の価値観が、アート性のあるデザインでシニカルに表現されたこのチェアの登場は、かなりセンセーショナルなものでした。

女性のシルエットを思わせるアームチェア 「UP 5_6」。アームチェアに繋がれた球体のオットマンは鉄球と鎖を示唆している。
未来的なイメージの広告ビジュアルも斬新!

UPシリーズはその後、時代ごとの技術革新とともに進化し、現在もB&B Italiaのアイコンとして家具を愛する人たちの心を捉え続けています。

家具作りの常識を覆したモールドウレタンの一体成形型

ブスネリの功績を語る上でさらに重要なのが、「低温発砲モールドウレタン一体成型」の開発です。ステンレス製のフレームを内蔵した金型にウレタンを注入して成型する。この製法は、当時まったく新しい家具の製造方法でした。この革新的な低温発泡モールドウレタン製法技術と、従来の木製フレームに代わって内部にスチール構造体を使用する技術を家具の生産に初めて導入したのが、まさにピエロ・アンブロージオ・ブスネリでした。

この技術によって、工業的な生産手法の新たな文化を切り開き、これまでにないフォルムの追求や、耐久性・品質ともに優れた製品づくりが可能となったのです。

そしてこの技術こそがB&B Italiaを世界的な家具ブランドとしての成功へ導いていきます。

「デザインのための産業」を築くというブスネリの夢は、1966年、チェーザレ・カッシーナとともにC&B社を設立したことで実現しました。同社は瞬く間に成功を収め、1973年にはブスネリがカッシーナの持ち株を買い取り、社名をB&B Italiaへと変更しました。

モールドウレタンのソファ「Coronado(コロナド)」(1966年) 

形を自由に組み合わせられる画期的な発想のソファ

このようにB&B Italiaの歴史は創業当初から、革新、探求、技術、そして数多くの非常に才能あるデザイナーたちとの協働によって築かれてきました。

中でも特に重要なのが、世界的に著名なイタリア生まれの建築家でありデザイナーのアントニオ・チッテリオです。

アントニオ・チッテリオ

彼がデザインしたソファ「Charles(チャールズ)」は、UPシリーズと並んで、B&B Italiaを代表するアイコン的存在であり、長年にわたるベストセラーでもあります。

“近代ソファの象徴” と言われる「Charles」(1997年)。逆L字型のダイキャスト製アルミニウム脚部が、ミニマルなデザインで軽やかな印象を際立たせている。

「Charles」は、家族のかたちや住まい方の多様化を反映したデザインであり、モジュール構成による自由なレイアウトが可能なソファです。テレビを囲んで家族がソファでくつろぐ──そんなシーンが一般的だった当時、ライフスタイルに合わせて自在に組み合わせられるという発想は、時代のニーズに応える画期的なものでした。

タイムレスな美意識をまとい、卓越したフォーマルエレガンスを体現するソファ「Charles」。

「Charles」は現在も高い人気を博し、時代の変化に合わせて少しずつ手を加えたバージョン、3タイプへと展開を広げています。アントニオ・チッテリオは、長年にわたりB&B Italiaのメインデザイナーとして、「Charles」を筆頭に数多くの代表作を手がけています。

世界の一流デザイナーがB&B Italiaに信頼を寄せる理由

日本デザイン界の巨匠、深澤直人氏もB&B Italiaと関わりの深いデザイナーの1人です。その代表作と言えるのが、一体成型の技術を最大限に活かしたアームチェア「Grande Papilio(グランデパピリオ)」。このプロダクトの開発についてはこんなエピソードがありました。

「Grande Papilio」は逆さにした円錐を削り出したかのような造形美を持ち、すべての角度が緻密に計算された製品です。

開発プロセスの中で、深澤直人氏は試作の確認のために工場を訪れ、遠くからそのプロトタイプを見た瞬間、『あのライン、もう少し違っていてもよかったかもしれない』と心の中でふと思ったそうです。

その微妙な表情の変化を感じ取ったR&Dセンター[*]のディレクターは静かにほほ笑み、2枚目のカーテンを開けました――その奥には、まさに深澤氏が思い描いたとおりの完成形が既にそこにあったのです。*デザイナーの創造性を支援しながら製品開発の方向性を提示する中核的な研究開発室。また、PRや広告、空間デザインといったコミュニケーション機能も備え、トレーニング、アーカイブ、ショールームなど多角的な役割を果たしている。

豊富なノウハウと経験により、B&B Italiaはデザイナーとの対話の場において、新しいプロジェクトについて深く議論できる特別な力を培ってきました。この姿勢こそが、多くのデザイナーにとってB&B Italiaが魅力的な存在であり続ける理由のひとつです。

一歩先を行く姿勢が、永続的な価値を生む

B&B Italiaは創業当時から、常に現代の文化を映し出す力を育み、変化する嗜好やライフスタイルのニーズに応え、さらに一歩先を読み取ってトレンドを先取りしてきました。

B&B Italiaは、コミュニケーション(広告)の面においても常に革新的。広告写真  2010-2011 / Bend-Sofa – photo by Tommaso Sartori, agency Collage Studio 

その一貫した姿勢から昇華したコレクションは、数々の製品がイタリアンデザインを象徴するアイコンとして位置づけられるほど、独自性に富んでいます。時を超えて愛され、世代を超えて受け継がれていく──そんな永続的な価値を持つ製品が生み出されています。

過去の名作がサステナブルな素材でリバイバル

2020年、時代の変化を恐れず、何事にも柔軟に前向きに挑戦してきたB&B Italiaに、またしても大きな変化の波が訪れます。

B&B Italiaを象徴する低温発泡モールドウレタンによる一体成型の技術。しかし、近年ではサーキュラーエコノミー[*]に基づく設計思想を製造プロセスに積極的に取り入れ、高いリサイクル性や分解性を備えたプロダクトが誕生しています。その結果、90%以上が再生可能またはリサイクル素材で構成された製品もあり、すべての部品を完全に分解・分離できる構造が採用されています。
*資源を使い捨てにせず、再利用・再生しながら循環させる持続可能な経済の考え方。

長年にわたり高い完成度を支えてきた技術をも、時代の要請に応じて進化させていく。その姿勢は、ブランドの柔軟さと革新性をあらためて感じさせます。

広告写真  2007 / Tufty-Time – photo by Simona Pesarini, agency Saatchi&Saatchi

ラグジュアリーな家具にも “リラックス感” が求められている

その変革を象徴するのが、1970年の名作をサステナブルな素材を採用し、すべての構成パーツを分解可能にする特別な構造によってリバイバルした「Camaleonda (カマレオンダ)」です。B&B Italiaで今、特に人気の高いソファがこちら。

「Camaleonda 」(2020年)

「Camaleonda 」のデザイナー、マリオ・ベリーニ。1970年のオリジナルと、2020年の復刻版の両方を手掛けている。

「Camaleonda 」は50年以上前に発表されたものですが、そのアイコニックなデザインと刷新された素材使いによって、感度の高い人たちを中心に大きな支持を得ています。

もうひとつ影響しているのが “リラックス感” を求める気持ち。たとえばファッションでも、最近はスーツスタイルに足元だけスニーカーなど、肩肘張らないエフォートレスなスタイルを嗜好する変化が見られます。ラグジュアリー家具にも同じような傾向が。カマレオンダの柔らかくやさしい座り心地が、時代のムードにフィットしたのも人気を博した大きな理由です。

ソファの上でタブレットやスマホートフォンを見て過ごす時間が長くなってきている現代。ソファは座るだけでなく、足を伸ばしてくつろいだり寝転んだりするものに変化しつつあります。そうした背景からB&B Italiaでは、リラックス感のあるフォルムや座面の奥行きが深いソファも近年増えているのだそう。

見た目がキリッとしていてもリラックス感があり、長時間座っていても疲れない。B&B Italiaの家具は新しい価値観が持つ豊かさを反映しながら、どんどん進化しています。それを実際に体験できるのが青山骨董通りのショールーム。次回の後編で詳しくご紹介していきますので、どうぞお楽しみに。

Text by Kyoko Hiraku
Photo by Eiji Miyaji
Edit by Saori Maekawa
DATA

B&B Italia Tokyo | Maxalto Tokyo

2024年11月30日(土)、表参道・骨董通りへ移転オープン。地上3階、地下1階の4フロアからなる旗艦店として新作や定番商品、アウトドアコレクションの展開に加え、Maxaltoのショールームを併設。B&B ItaliaとMaxaltoの世界観を存分に体感できる空間となっている。

〒107-0062 東京都港区南青山6-2-3
Tel. 03-3478-3837
営業時間: 11:00-18:00 定休日: 水曜日(祝日を除く)

bebitalia.co.jp

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