インテリアの見本市「ミラノ・サローネ2025」訪問記
BEARSが選ぶベスト3
過去の遺産を未来へ繋ぐ天才肌のデザイナー
ミラノ市内には歴史ある建物が多く、内装をリノベーションしながら現在も大切に使われています。サローネ期間中には、そうした建築物を会場として展示を行なうブランドも数多く見られました。
「Vincenzo de Cotiis(ヴィンチェンツォ・デ・コティス)」は、建築家・デザイナー・アーティスト、3つの顔を持つ天才肌のクリエイター。1958年イタリアに生まれ、ミラノ工科大学で建築を学び、ミラノにスタジオを設立。現在もそこを拠点に活動しています。
会場になっていたのはデ・コティス夫妻が実際に住んでいる場所。1日4時間限定での特別公開を見学できました。エントランスホールの天井は、古い設えを生かして再構築したもの。オレンジ色の壁はダマスク柄のクロスを貼っているのかと思いきや、なんと石を彫ったものでした。早速その歴史を感じさせるテクスチャーに圧倒されます。



元々の内装の味わい深いディテールと、重厚なリノベーション、芸術性が三位一体となった独特の世界観。今回が初訪問だったこともあり、衝撃を受けました。




下の写真のフラワーベースは、ムラーノガラスと石材、ファイバーを組み合わせたアート作品とも呼べる1点物。メタルのテーブルには、鈍い光を放つジャーマンシルバーという素材が使われています。内装の細部にも使われており、空間の演出にとても効果的でした。

東京は築年の浅い建物がほとんどですが、ミラノの古い建造物はその佇まいだけで迫力があります。器に歴史があることで、空間全体の説得力が明らかに高まるのを痛感しました。


修道院の中庭がインスタレーションの会場に
もうひとつ、歴史的な建造物でのプレゼンテーションで強く印象に残ったのが「FLEXFORM(フレックスフォルム)」です。
2.FLEXFORM
インテリアの展示は、新しくできたショールームが会場。麻紐で編まれたパーティションを使った演出など、フレックスフォルムらしいナチュラルで心地よい空間が提案されていました。


ショールームから徒歩3分ほどの別会場へ向かうと、なんとそこは古い修道院。今も実際に使われているこの修道院の中庭を借りて、アウトドアコレクションの展示が行なわれていました。


中庭に多様な植物を持ち込んで、地中海の庭園リゾートホテルのような設えに。360度全方向から眺められる抜け感と優雅な静けさも相まって『ここにずっといたい』と思うくらい、美しく心地の良いインスタレーションでした。


通常は入ることのできない修道院を拝見することができ、ミラノには歴史的建造物が多いことをあらためて実感。残念ながらこの空間を東京で再現することは叶いませんが、歴史や文化を背景にしたミラノのスピリットは参考になるはずです。
ブランドミックスのスタイリングに魅せられる
70年の歴史がある「Salvioni Milano Durini(サルヴィオーニ)」は、インテリアデザインカンパニーが運営するコンセプトストア。取り扱いブランド数は200以上にものぼります。20世紀初頭に建てられた6階建ての内装を、5つの異なるアパートメントのイメージに分け、リアルサイズのスペースにブランドミックスして家具がコーディネートされていました。水回りや収納スペース、レジデンスのような設備も魅力でした。




サローネ会場ではコンセプチュアルな見せ方で展示されていた「EDRA(エドラ)」のソファも、ここでは居住空間に置いたときのリアルな魅力が伝わってきました。

小物の置き方やアクセントクロスの使い方など遊び心に溢れ、どれもセンスが素晴らしい。ブランドのカテゴリを超えたスタイリングがとても参考になりました。


大胆な色彩をラグジュアリーに表現したホテル
最後にご紹介するのは番外編。昨年オープンした話題のホテル「CASA BRERA(カーサ・ブレラ)」です。


このホテルはデザイナー、パトリシア・ウルキオラが家具のセレクトを手がけたことでも話題に。
ウルキオラはスペインの出身で、そのデザインは大胆な色使いが特徴。こちらのホテルも例に漏れずとてもカラフルですが、普通であればポップな印象に行き着いてしまいそうなところを、とてもラグジュアリーな世界観にまとめ上げ『さすがウルキオラ』と感服せずにいられませんでした。


インテリアを考えるとき、日本人はまず家具に目が行きがちですが、イタリアでは最初に “色” を決めるそう。魅力的な空間作りにおいて、それも重要なテクニックのひとつだと納得させられます。
ラグジュアリー家具を日本で取り入れるには?
たくさんの素晴らしい空間を訪問した本年のミラノ・サローネ。ミラノの歴史ある建物や、自然を含めた景観の魅力は東京では再現できませんが、そこに息づく精神は取り入れることができます。そのために重要なのは、やはり何と言ってもスタイリング。BEARSでは特に以下の4点が勉強になりました。
・多灯使いの意匠照明が魅力的
・60〜70年代のヴィンテージ感がトレンド
・アートの重要性の再認識
・空間デザインを色選びからするのも一つのアプローチ




(左下)「モルテーニ」(右下)「バクスター」

家具や建築の文化的な背景、住まう人のライフスタイルを理解した上での奥深いコーディネート術が、暮らしに上質な豊かさをもたらす。そう確信した2025年のミラノ・サローネでした。