植物、人、住まい。「プラントハンター」西畠清順が目指す ”つながり”
世界中を飛び回り、植物を収集する「プラントハンター」の西畠清順さん。前編では、西畠さんの経歴や植物を扱ううえで大切にしていることについて伺いました。後編では、過去の印象的なエピソードや、都市における植物の役割、人と植物の理想の関係についてお届けします。
植物は、住宅や都市の魅力を大きく左右する
――前編では数多くの取り組みについて伺いました。企画から造園工事まで一貫して関わるため、どれも忘れ難いプロジェクトばかりだと思いますが、特に印象に残っているものはありますか?
西畠清順さん(以下 西畠):2015年、「パークシティ大崎」という都内で一番大きな再開発の仕事に携わりました。マンションに加えて商業棟オフィス棟に、公園もあり、しかも駅と直結しているというような、衣食住すべてを含んだ複合的な再開発だったんですね。
西畠:もともとはパークシティ大崎の中にできるマンション、「パークシティ大崎ザ・タワー」の緑地を担当していたんですが、植栽計画を行う上で、マンションの緑地だけを切り離して考えるわけにはいかない。ほとんど街と言って遜色ない、パークシティ大崎のプロジェクト全体から考える必要がある、と提案したら、共感いただいて。結果的に、全体のディレクションを行うことになりました。
――具体的にはどのようなことを提案されたんですか?
西畠:街全体をゾーニングをして、「ここはもともと桜の名所に隣接しているから、桜を植えましょう」とか、「ここは機能的に防風植栽を多めにしましょう」とか、「マンションのそばには食べられる果実がなるエディブルパークを作りましょう」とか、7つのコンセプトガーデンを提案しました。街全体の緑のストーリーと意味付けをしたうえで、ある種、都市計画の一部として住宅の緑地を考えたんです。
――部分ではなく街全体の理想的なありかたを、植物の視点から考えられたのですね。
西畠:はい。結果、すごく好評で、マンションはすぐに完売しました。不動産は建物自体の仕様を変えようとすると、ものすごくお金がかかる。でも、植栽はそれほどのお金をかけずに、ブランド価値を上げることができるんです。ハードの仕様を上げるのではなく、植物によって不動産価値が上がった事例として、多くのディベロッパーから質問を受けました。植物の力ってすげえな、と感じたプロジェクトです。
――集合住宅の例を伺いましたが、個人邸ではいかがですか?
西畠:個人の邸宅に関しては、今まではお客様のライフスタイルや家族構成、趣味を丁寧にヒアリングしながら、その方に合うオンリーワンの庭を作るということをずっとやってきていました。ですが最近、初めて建売住宅の庭をお願いされたんですよ。住む方が決まっていない状態で、僕が得意とするヒアリングをすることがないまま庭を作らなければいけなかったんです。
西畠:そのときは、まずは機能面から「こういうふうに木をレイアウトしたら建築と融合するな」とか、「外からの目隠しになるだろうな」とか、「こうすればベランダが過ごしやすだろうな」とか計算したんですよ。そうしたら自ずと「こういうところに季節感を感じてもらえるだろうな」と情緒の面にもつながった。住む人の趣味嗜好に合わせるのではなく、ある種ニュートラルに作ったんですが、その建売住宅もすぐに販売につながったそうです。植栽も気に入ってくださったそうで。植物って小さい工夫ですごく大きな効果をもたらすんだなと、そのときにも思いましたね。
その土地が持つ自然の風景を、この先も受け継ぐ仕事
――西畠さんは「ところざわサクラタウン」も手掛けていますよね。先日訪れたとき、目の前を流れる東川の昔ながらの桜並木と、サクラタウンの植樹されたばかりのはずの桜が、それは見事に咲いていました。その土地が持つ歴史、物語をきちんと拾い上げて植樹されてるんだなと、とても感動しました。
西畠:ありがとうございます。「サクラタウン」という名前が非常に重要なプロジェクトでした。その名前をつけるなら、ちゃんと桜が咲く場所にしたいですよね。東川沿いの桜はソメイヨシノなんですが、老木が多く20年後にはもう寿命がくるという状況で。ソメイヨシノは連作障害があって、同じ場所に新しく植えてもうまく育たないんです。だから、もし東川の桜がなくなったとても、世代を超えて愛される桜の町にしましょう、と提案しました。そこで、少し費用は高くなったんですけど、寿命が何百年と続くシダレザクラを植えさせてもらったんです。
――そんな背景があったのですね。
西畠:実は、桜というのは若い頃に移植する方が木に負担がかからなくていいんです。住宅だったら若い木を植えてゆっくりと育っていけばいいんですが、商業施設や観光地では植えたその年から花が咲いてほしいですよね。だからこれは、1年目からちゃんと咲かせるために、大きな桜の移植に挑んだプロジェクトでもあるんです。
――すごい技術、職人の勘が必要とされるのですね。それはやはり、桜を得意とする家業の花宇での修行を通じて、西畠さんが築いてきた知恵と技術あってのものでしょうか。
西畠:まさにそうだと思います。あれだけの大きな桜を、あれだけの本数を一気に植えるというのは、国内の事例でも過去になかったんではないでしょうか。
「自然との共生」ではなく、自然の中で生きていく
――植物と人と建物の理想的な関係について、どのように思いますか?
西畠:最近「自然との共生」という言葉が流行っていますが、これは西洋の考え方で、自然は他者であって、私たち人間やその営みとは違う、という前提から生まれてる言葉だと思います。
元来、日本人は、自分もまた自然の一部であり、自分たちの営み全ては自然の一部であるという考え方なんですね。
だから僕は、植物や自然は頑張って取り入れるものではなくて、身近にあるのが当然だという感覚、関係性が理想だと考えています。建築や街づくりにおいても、この感覚でプランニングすることが理想だと思いますね。
――BEARS MAGAZINEの読者は、おそらく都市の集合住宅に暮らす方が多いんですが、そのような住環境で植物を取り入れたい場合はどうしたらいいでしょうか。
西畠:植物と暮らしたいと思ったら、花鉢ひとつだけでもいいので、まず育ててみることです。僕が植物に詳しくなったのも、自分のお金で苦労して汗をかきながら植物を仕入れ、育てて枯らして喜んでもらって、考える機会がたくさんあったから。いくら携帯で調べて知識があったとしても、自分のお金で買った瞬間に関係は変わります。育てていると観察もするし、いっぱい疑問も出てくる。その花を咲かせるのも枯らすのも、もう全部自分次第。だから、まずは小さくてもいいから行動を起こすことが大事だと思います。
――最後に、西畠さんにとって豊かな暮らしとはどのようなものか、教えてください。
西畠:僕が豊かさを感じるのは、室内と屋外が分かれていない、あいまいな生き方ができているときです。建物の内と外を自由に行き来しながら仕事をしたり、リラックスしたり。現代の人間は基本的には多くの時間を建物の中で過ごしますが、僕は屋外の有機物に囲まれた時間も大切にしたいと考えています。そうしたバランスの取れたライフスタイルを送れているときに、豊かさを感じます。
植物への強い愛とリスペクトを持つ西畠さん。最近は医療メーカーや農業ベンチャーとタッグを組んで、新しい植物のあり方を研究しているのだとか。常に既存の枠を超えて挑戦を続ける西畠さんの活躍に、今後も目が離せません。
西畠 清順(にしはた せいじゅん)
そら植物園株式会社 代表取締役 / 株式会社 office N seijun 代表取締役 日本各地、世界中を旅してさまざまな植物を収集し、依頼やプロジェクトに応じて植物を届ける現代のプラントハンター。 2012年に“ひとの心に植物を植える“活動・そら植物園を設立し、年間200トン以上もの植物の国際取引を行い、累計1000件を超えるプロジェクトを成功に導いてきた。近年では“植物のあらゆる可能性に挑戦する企画会社”、office N seijunを創業し、自然や環境分野をベースにしたコンサルティングやベンチャー会社の立ち上げなど、ボーダーレスに活躍している。 https://from-sora.com/ https://o-seijun.com/