「プラントハンター」西畠清順が描く、植物のある空間

2024.05.24

屋内でも屋外でも、豊かな空間には緑の存在は欠かせないもの。そんな「植物」の世界において、従来の常識を軽々と覆し、人と植物の新しいつながりを提案し続けている人がいます。その名は西畠清順。プラントハンターとして世界各国を飛び回り、今日もクライアントに植物を届けています。今回はそんな西畠さんにインタビュー。前後編に分けてお届けします。前編では、プラントハンターの活動や空間における植物の役割について詳しく伺いました。

西畠さんと共に選定し、BEARSのシンボルツリーとなった「ガジュマル」。その堂々とした幹や枝ぶりは、見る者に癒しと活力を与える存在に。

既存のジャンルや職種にとらわれない「プラントハンター」の仕事

西畠さんは、幕末から約150年続く花と植木の生産卸問屋の5代目として生まれます。家業の卸問屋では一見さんお断り、取材お断り、植物専門業者以外の仕事は引き受けないというのがモットー。華道家やフラワーデザイナーを裏から支える存在だったそうです。

幕末から約150年続く花と植木の生産卸問屋の5代目として生まれた西畠さん。

現代のプラントハンターと呼ばれ、メディアや講演会にもひっぱりだこの西畠さんですが、改めてどのような活動をされているのでしょうか?

西畠清順さん(以下西畠): 家業である卸問屋の仕事をしながら、2012年に植物専門のコンサルティング活動を始めました。家業との違いは、企業や団体、行政、クリエイターなどへの窓口をつくったこと。「そら植物園」という活動名だったんですが、またたく間に忙しくなって、3年後には法人化しました。

大阪府池田市にある「そら植物園」

西畠:今はコンサルティングのほか、植物の卸や輸出入、植栽管理、ランドスケープデザイン、造園工事イベント演出と、植物に関わることなら既存のジャンルや職種に捉われることなくお受けしています。

2019年に手掛けたインスタレーション。2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けてNHKエンタープライズが主催し、世界各国の大使などを招いたパーティの中心に展示された。

分業が一般的な植物業界で、ランドスケープデザインにはじまり、実際の植物の手配、造園工事と一貫してできるのはすごいですね。

西畠:僕はとにかく植物が好きで。でも、庭を作りたくて庭師になりたいとか、街の緑をやりたくてランドスケープデザインをやりたいとか、そういうのではまったくありません。僕にとっては、それらはあくまで手段であって、もっと植物に関するすべてを統合したことをやりたいんです。企画やデザインから、卸販売、レンタル、造園工事まですべてをやってる会社で、さらには、それを海外のプロジェクトでもやっているというのは、我々以外には日本にないんですよ。

住宅やオフィス。人が長い時間を過ごす場で大切なこと

これまでの実績を拝見すると、商業施設からオフィス、住宅、イベント会場とさまざまな場所や規模で植物を提供しています。その中でも住宅における植物については、どのようなことを大事にしているのでしょう?

西畠:住宅における植物の役割で大切なのは、まずは機能的な面です。木陰を与えてくれるとか、風を防いでくれるとか。あとは意匠、デザイン的な面。これらふたつによって、心地よい場所が作られるんですね。

それからもうひとつ大切なのは、情緒的な面。たとえば「桜が咲く頃に家族が集まる」とか、「柿の木があって毎年みんなで柿を取る」みたいに、植物と人が関わることで思い出が生まれるような。住宅では、この3つが大きな要素になるんじゃないかなと思っています。

個人宅の事例。植物は外部からの目隠しとしての役割やアートの代わりとなるような、アイコニックなものを配置。

機能、意匠、情緒という3つの要素中でも、西畠さんとして特に大切にされている部分はありますか?

西畠:これらは常に同居していて、そのどれが一番とかはないですね。ただ、住まう人の気持ちが全てなので、その方がとにかくデザインを重視される場合は意匠に比重を置くこともあります。やはり、まずは意匠にこだわる方が多いので。ただそこでプロとして、「ここにこういう木があると夏は茂って日差しを防いでくれて、冬は落葉して日光をとりいれてくれますよ」といった機能や情緒的な側面からの提案をしたりはします。

今回、BEARSの新オフィスではガジュマルの木が導入されました。代表の宅間が「そら植物園」までうかがって、一緒に選ばせてもらったと聞いています。

 

西畠:ガジュマルの木は宅間さんが植物を見て「これがいい」と選ばれたんです。僕も「この木いいですよ。かっこいいですよね」と言ったかもしれないけど、選ぶ上で一番大事なのは、その木のオーナーになる方が「この木と暮らしたい」「この木の成長を見て過ごしたい」と思うことなんですよね。

ガジュマルは西畠さんから見てどのような木ですか?

西畠:ガジュマルという樹種は観葉植物として非常に優秀で、屋外でも室内でも生きていける強さを持っています。南西諸島とか東南アジア一帯に分布していて、ジャングルを形成するさまざまな植物の中で、絶対的な主役の植物なんです。そういう環境の主になるものを「キーストーン種」と呼ぶんですけど、ガジュマルはとにかくエネルギッシュ。エネルギーに溢れていて、いわゆるシンボルツリーになりうる植物ですね。

オフィスのエントランスに配置された石抱きのガジュマル。力強い造形が来る人にパワーを与えてくれる。

西畠:宅間さんにお会いした時に感じたのも、ものすごくエネルギッシュな方だなあと。彼自身が、植物でいうキーストーン種みたいなところがあって、まさにぴったりだなと思いました。これからどんどん頑張っていく会社にふさわしいですよね。

 
「子会社をつくるときは、ぜひ社名を『ガジュマル』に。」と笑顔でお話いただいた西畠さん。植物が単なる装飾の役割を担うだけでなく、想いや情緒で人と結びつくということを教えていただきました。

次回の後編では、過去の印象的なエピソードや、都市における植物の役割、人と植物の理想の関係についてお届けします。お楽しみに。

DATA

西畠 清順(にしはた せいじゅん)

そら植物園株式会社 代表取締役 / 株式会社 office N seijun 代表取締役

日本各地、世界中を旅してさまざまな植物を収集し、依頼やプロジェクトに応じて植物を届ける現代のプラントハンター。
2012年に“ひとの心に植物を植える“活動・そら植物園を設立し、年間200トン以上もの植物の国際取引を行い、累計1000件を超えるプロジェクトを成功に導いてきた。近年では“植物のあらゆる可能性に挑戦する企画会社”、office N seijunを創業し、自然や環境分野をベースにしたコンサルティングやベンチャー会社の立ち上げなど、ボーダーレスに活躍している。
https://from-sora.com/
https://o-seijun.com/

Text by Tomoko Yanagisawa(Yanagi ni kaze)
Edit by Ryoga Sato
         

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