アートをきっかけに街と繋がる保育園
「ロハスキッズ・センター クローバー」
二子玉川駅のほど近く、多摩川沿いのモダンな建物が目を惹く認可外保育園「ロハスキッズ・センター クローバー」。ここは『地域で育つ。社会で学ぶ。アートで活きる。社会と輝く。』というコンセプトで、子どもたちの感性を育む保育を実践しています。
今回は園長の中田 綾さんと、園に併設されているアートギャラリー「NAAM」の統括責任者でアート教育に携わる白柳 拓(しらやなぎ たく)さんに、地域やアートとの繋がりが子どもに与える影響について伺いました。

自然とアート、2つの “本物” を子どもたちの保育へ
――どうして二子玉川に保育園を開こうと思われたのですか。
中田綾さん(以下、中田):一番はやはり多摩川の雄大な自然に強く心を動かされたからですね。保育園を始めた約20年前は高い建物が少なく、今以上に自然豊かな街でした。広い川辺で思いきり走り回り、ひらけた空と心地良い風を全身で味わう子どもたちの光景が思い浮かんで、保育の場としての可能性を感じたんです。

中田:また二子玉川には地元愛が深く、良い意味で厳しく “本物” を見極める目を持つ方が多い印象を受けたのも決め手でした。みなさんから “選ばれる” 保育園になるために、この街で勝負したいと思ったんです。
――アート教育に力を入れているとお聞きしました。ここのプログラムにはどのような特徴があるのでしょうか。
白柳 拓さん(以下、白柳):当園のアートプログラムでは『アートで活きる』という考え方を大切にしています。乳幼児期からアートに触れる体験は感性を育み、生きる力や社会性、コミュニケーション力の基盤となります。中でも重視しているのが “本物に触れる経験” です。保育園にアーティストを招いてプロの技や作品に出会える機会をつくるなど、子どもたちが “本物” を身近に感じ、豊かな感性を培っていける環境を目指しています。

白柳:例えば美術館に出かける前にはミロの絵を模写したり、『どうしてこの絵はこう描かれているのだろう』とディスカッションしたりします。あらかじめ問いを持つことで、施設の外で “本物” に出会ったときの驚きや感情の高まりに繋がるからです。ただ眺めるだけでは気づけない発見を、子どもたちの心に積み重ねていきたいと願っています。
アーティストではなく、感性を育むためのアート教育
白柳:また最初に専門的な知識や基礎を学んでから、自由に創作してもらうのも当園の特徴です。例えば2階のギャラリーにある花瓶はアートプログラムの一環で作ったもので、アーティストの小田 佑二さんをお呼びして筆の運びや色の重ね方をレクチャーいただいたあと、子どもたちが自ら作品を仕上げました。

――こうしたアート教育は子どもたちにどのような影響を与えると考えていますか。
白柳:私たちが大切だと考えているのは子どもたちをアーティストに育てることではなく、アートを通じて自分の感情を表現したり、他者の表現を受け止めたりする経験です。作品が否定されることはないので、子どもたちは安心して挑戦できるようになります。こうした経験が自己肯定感を育み、前向きに考える力に繋がると考えているんです。
子どもの表現と地域の温かさでつくる、開かれた施設
――保育園の外から大きなアート作品が見えるのも特徴的ですね。
白柳:これは子どもたちが自然について学んだ後、河川敷を散歩するなかで見つけた四季の色を使っています。コロナ禍を経て再会できた喜びの気持ちも込めて、子どもたちとアーティストが一緒に描いたものなんです。ご近所の方々にも楽しみにしていただいているようで『あ、また壁画が変わったね』とお声がけいただくこともあるんですよ。

――園内には本格的なアトリエもありますね。子どもたちはここでどのような活動をしているのでしょうか。
白柳:アトリエには多種多様な画材が揃っており、子どもたちはそれらを自由に使って創作できます。例えばこの間実施したTシャツづくりでは、まず色相を学び『どんな色がどんな気持ちを表すのか』を考えます。その上で選んだ色を使い、思い思いに描いて世界に1つだけのTシャツを完成させました。手作りのTシャツを着て美術館を訪れると地域の方から声をかけられることもあり、“自己表現が他者から認められた” という経験とともに、社会との繋がりを育んでいくんです。


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中田 綾 AYA NAKATA
ロハスキッズ・センター クローバー園長 2004年に二子玉川で「ロハスキッズ・センター クローバー」を立ち上げる。地域との繋がりを大切にし、アート教育や食育を取り入れながら、子どもたちの探究心と人間力を育む場づくりを続けている。

白柳 拓 TAKU SHIRAYANAGI
アートギャラリー「NAAM」統括責任者 2012年に同園に参画。映像業界での経験や人脈を活かし、アートプログラムを推進する。アーティストと子どもを繋ぐ役割を担い、アート教育を通じて地域と園を結ぶ活動を広げている。

ロハスキッズ・センター クローバー
二子玉川の多摩川沿いに位置し、2004年に開園した認可外保育園。自然とアートを柱に、子どもたちの感性や探究心を育む保育を実践している。子どもとアーティストが描いた壁画があり、外遊びや有機・オーガニック給食にもこだわる。地域に開かれた文化拠点として、保護者や地域住民との交流も大切にしている。 〒158-0094 東京都世田谷区玉川1-3-2 TEL:03-5797-5420 https://lohaskidscenter-clover.com/