「まちの保育園・こども園」が目指す、
子どもと街が響き合う豊かな社会

2026.03.27

東京・渋谷区や港区をはじめ、都内で6園の認可保育所・認定こども園を運営する「まちの保育園・こども園」。 “まちぐるみの保育” を掲げ、各園で地域にひらいた様々な取り組みを行っています。街と子どもの相互作用や具体的な取り組みについて、ナチュラルスマイルジャパン株式会社・代表の松本理寿輝(りずき)さんにお話を伺いました。

「まちのこども園 代々木公園」でインタビューに応じてくださった松本理寿輝さん。

“まちぐるみ” で子育てを、子どもたちと “まちづくり” を

——はじめに、松本さんの活動について教えてください。

松本理寿輝さん(以下、松本):私たちは保育園・こども園の運営(実践)を軸に、“実践・共創・研究” の3部門を循環させながら、予測不可能な時代における『豊かな教育や地域コミュニティのあり方とは何か?』という問いを、皆さんと深めています。実践の場が「まちの保育園・こども園」であり、その実践知を土台に社会と共創し、新たな価値を創り出すのが「まちの研究所」です。研究部門では、東京大学と乳幼児教育の共同研究を行うなど、保育教育・子育てを起点とした実践と研究を行き来しています。

——「まちの保育園・こども園」では、子どもをどのような存在として捉えているのでしょうか。

松本:『今、この瞬間から社会に参加する一人の市民』として捉えています。保育期間だけでなく、その後の人生で才能や個性が幸せに花開くことを願って、保育や教育、まちづくりをデザインしているんです。子どもと大人を “わけないこと”  を大切に、子どもの声に耳を傾けながら進めています。

その上で「まちの保育園・こども園」は2つのコンセプトで運営しています。1つは、地域の人たちと “まちぐるみ” で子どもが育ち、学べる環境をつくること。もう1つは、園自体が “まちづくり” の担い手となり、地域のウェルビーイングを支える拠点になることです。2011年に東京・小竹向原で開園して以来、六本木・吉祥寺・代々木上原・代々木公園・南青山と展開してきました。

——まちぐるみで子どもの環境をつくりながら街を育てるために、どのような工夫をされていますか。

松本:園と地域を繋ぐ中間領域としての場を設けるだけでなく、「コミュニティコーディネーター(以下、CC)」というスタッフを配置しています。街にひらくといっても、安全面を考えると双方がいきなり密接に繋がるのは現実的ではありません。そこで1園目では、内外をゆるやかに繋ぐ場としてカフェを併設。2園目からは地域の人が多様な形で関われるよう、子ども・保護者・保育者と地域を橋渡しし、関係性の距離感をデザインする役割として各園にCCを配置しています。

1園目では松本さん自らが各関係者との橋渡しを行っていたが、その必要性を実感し2園目以降はCC機能を独立。現在は1園目の小竹向原でもCCを常駐し、人々を繋ぐ役割を担う。

子どもは “人と人を繋ぐ” 理由になる

——まちぐるみの保育で育つと、子どもにはどのような影響があるのでしょうか。

松本:全体を学びのフィールドにすることで、内面が豊かになると考えています。多様な考え方や生き方に触れるほど、他者への理解や思いやり、創造性、思考力が育ちやすいと言われています。就学前は物事の捉え方や行動の基盤が形づくられる時期だからこそ、閉じた環境にとどまらず、多様な人や文化に出会う経験を重ねてほしいですね。

市民として社会やコミュニティと関わり『自分の行動が周囲に良い影響を与えた』と実感することも大切です。そうした体験の積み重ねが、不確実な時代においても『自分は社会に働きかけられる』という感覚を育てていくのだと思います。

吉祥寺園の取り組みとして、三鷹駅前の歩行者天国にて行われた『まち「が」保育園』。「みちあそび」など、さまざまな催しが行われた。

——一方で、園自体が “まちづくり” の担い手となり、子どもが社会に参加することで、地域にはどのような影響が生まれますか。

松本:地域のウェルビーイングに良い影響をもたらします。子どもが街に参加すると、大人同士では生まれにくい関係が自然と立ち上がるんです。例えば六本木園では、CCを通じて近くの穴子料理専門店の大将が子どもの『お魚の顔に興味がある』という声を聞き、生きた立派な穴子を持ってきてくれました。『体験させたい・見せてあげたい』という想いから、普段は接点がない人との嬉しい出会いが起こり始めます。

その中で子どもは、初めて見るものに驚き、見慣れた風景との違いから『なんだろう?』と問いを立てる。その反応に大人も喜び、刺激を受けます。このように子どもは、人と人を繋ぐ理由になり、良い影響を与えてくれる存在となると感じています。子どもがいるすべての場で実践できる可能性があると信じ、全国のアライアンス園や提携園と  “まちぐるみ” で行う保育の理念を深めています。

『まち「が」保育園』の一コマ。遊び終わった後のブラシがけもみんなで楽しんだ。

橋渡し役の活動で、子どもたちの感性が地域に飛び出す

——穴子のお話のほかに、CCが地域と園の関係者をつないだ取り組みがあれば教えてください。

松本:一例がここ「まちのこども園 代々木公園」での出来事です。代々木公園のサービスセンターの皆さんと一緒に育てていたひまわりが咲いたとき、子どもたちはじっくりと観察し、のびやかな絵を描きました。それを公園内に展示していたところ、CCと繋がりのある穏田商店街の方の目に留まり『ぜひキャットストリートでも紹介したい』と声をかけてくださったのです。こうして子どもたちの作品はタペストリーとなり、街中へ広がっていきました。

松本:このように関係者を繋ぎ、実現まで調整するのがCCの役割です。日頃から地域の多様なプレイヤーと関係を築き、子どもたちの姿や取り組みを伝えているからこそ、新たな機会が生まれます。

同園にて、保護者の紹介でサウンドアーティストの方と “街の音” をサンプリングするワークショップを開催。音に波形があると知った子どもたちが絵を描いて表現し、これにはプロも喜びと驚きを隠せなかったそう。

まちぐるみの保育がもたらすもの

——園を拠点としたまちぐるみの子育てには、どのような良い影響があると思いますか。

松本:大きく2つあります。1つは、多様な文化が交差する街から主体的に学べることです。特に渋谷区のような都心には、圧倒的な文化的多様性がある。子どもはその環境に身を置きながら、周囲の文化や価値観をよく観察し、自分に合うものを選び取り、違和感のあるものとは距離を取りつつ育っていきます。その積み重ねが、人生をより豊かにデザインする力になるはずです。

約54万㎡の敷地を有する代々木公園の中にある「まちのこども園 代々木公園」。自然がもつ “多様な変数” が創造性を刺激する。

松本:都心で子育てをするからこそ『 “この街で育った” と思える原風景を残したい』と考える保護者の方もいるでしょう。それは、街の人との関わりの中で生まれる “記憶” だと思います。だからこそ園では、人と繋がり、一緒に楽しみ、困難にも向き合う経験を大切にしています。

街の匂いや雑踏の音、高架下の風景といった “五感の記憶” も心の原風景と結びついているはずです。子どもは好奇心のままに街を観察し、感じ、意味づけることを楽しみます。その時間を大人が許容し、支えることが重要だと考え、園では一つひとつに丁寧に向き合うことを尊重し、関心をもつこと自体の豊かさを伝えています。

各園にある「アトリエ」は、子どもの創造性を支える場。

——防犯や安全面などの課題もある中で、都心の街に園をひらくことの難しさにはどう向き合っていますか。

松本:子どもの状態や興味に応じて、街へのひらき方を調整しています。例えば吉祥寺園では、鳥への関心が高まった年に「井の頭自然文化園」に協力いただき、継続的に観察と表現の活動を行いました。安心できる環境を前提に、子どもの関心に合わせて街と繋がる工夫をしています。

園の廊下には、子どもたちが描いた絵が飾られている。

“影響力のある小ささ” が豊かな社会を耕し続ける

——これから先「まちの保育園・こども園」の活動でどんなことを思い描いていますか。

松本:“影響力のある小ささ” を大切にしながら、子どもたちの環境と街のウェルビーイングを耕し続けたいと考えています。各地域に根ざす「まちの保育園・こども園」という小さな “主体者” が、街に良い変化を生み出し続けることを、まずは積み重ねていきたいです。

そこで得た知見を自治体や他園と共有し、連携しながら地域全体の仕組みへと広げていきます。その先では、公共施設や企業など社会のあらゆる主体者と共創し、まちづくりや公共空間のデザインに “子どもの視点” を組み込んでいきたいです。

規模を一気に拡大する道もあると思いますが、僕たちが選びたいのは、変化する状況に向き合いながら、簡単に答えの出ない問いを大切にし、保育や教育、まちづくりをデザインする主体者であり続けることです。豊かな保育やまちづくりに絶対的な正解はなく、問いの中から見出していくことが大切だと考えています。みなさんと時間をかけて問い続けていきながら、豊かな社会づくりを目指していきたいです。

渋谷区神南ネウボラ子育て支援センター「coしぶや」。“わけない” “地域みんなで子どもを育てる” をコンセプトに、子どもを中心に、だれもが『出会い・つどい・つながる “コミュニティを育む場” 』を目指して、日々さまざまな取り組みを行っている。

——最後に、松本さんにとって “豊かな暮らし” とはどのようなものですか。

松本:目の前の現象の背景にある物語を、自分なりに想像し、感じとることだと思います。一言で表現するなら、それは “心からお辞儀ができること” だと言えるかもしれません。

人の物語だけでなく、自然や街の風景、そして目には見えない誰かの仕事や歴史など、今あるものに感謝し、自分もまた『他者によって生かされている』と実感できたとき、日々の暮らしをより豊かに感じられるのではないでしょうか。そのためには、目の前の現実や変化と真摯に向き合い、自分や社会の在り方を問い続ける姿勢が欠かせません。私たちはアトリエや街での活動を通じて、こうした豊かな暮らしを、子どもたちとともに育んでいます。

取材が終わる頃、地域で買った桃の花を抱えた子どもたちが保育者と一緒に帰ってきました。エントランス土間に飾られたお雛様の横に生けるのだとか。

子どもが街に出るとき、そこには大人同士では生まれにくい出会いと問いが生まれる。「まちの保育園・こども園」が耕し続けているのは、保育の場だけではなく、人と人があたたかく関わり合える豊かな社会そのものだということがわかりました。

Text by Kaori Sasuga
Edit by Saori Maekawa
DATA

松本 理寿輝 Rizuki Matsumoto

まちの保育園・こども園 代表/JIREA代表/まちの研究所株式会社代表取締役
1980年生まれ。一橋大学商学部卒業。博報堂、企業経営を経て、2011年「まちの保育園 小竹向原」を創設。現在、都内6拠点にて「まちの保育園・こども園」を運営。世界140カ国と学びのネットワークを形成するレッジョ・エミリア・アプローチの日本組織JIREAの代表も勤める。姉妹会社に、まちの研究所株式会社(保育・教育・まちづくりのデザインコンサルティング会社)を持ち、子どもの環境を、自治体・企業・NPO・アーティスト・科学者等、あらゆる社会の主体と共創することを試みている。著書に『遊び・学びを深める日本のプロジェクト保育』(中央法規出版)など。

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