日本を愛するデンマーク人建築家 METTE FREDSKILD
近年、北欧建築が世界的に注目を集めています。
BERASではこれまでリノベーションのインテリアに北欧のヴィンテージ家具を使用する事で北欧のライフスタイルを取り入れてきました。それを一歩進めて、設計・デザイン・インテリアコーディネートをトータルで手がける企画が進行中です。
そのキーパーソンとなるのが、今回ご紹介するMETTE FREDSKILD (メッテ フレッドスキルド)さん。
METTEさんはデンマークの首都、コペンハーゲンに拠点を置く建築家兼インテリアデザイナー。自身のスタジオを設立する以前、1990年代の初めに和室の代名詞とも言える「数寄屋造り」に魅せられ来日。東京工業大学で学んだほか、建築事務所に勤務するなど、10年間を日本で過ごした親日家です。日本滞在中に結婚したご主人、勝目雅裕(かつめ まさひろ)さんも現在コペンハーゲンで建築家として活躍されています。
年始を日本で過ごされていたご夫妻にお話を伺いました。
――メッテさんが建築家になったきっかけは何だったのですか?
メッテさん(以下METTE):実は10代の頃はファッションデザイナーになりたいと思っていました。それが高校を卒業して1年間、タイやインドネシア、インドなどを旅行した時に空間が人の生活にインパクトを与えることに気づいて、建築やインテリアに興味を持ったんですね。たとえばキャンプを考えてみてください。キャンプでは、食べて飲んで寝る、そういうごく日常的でベーシックな行動が、環境が変わっただけで突然ものすごく新鮮な体験になる。そしてその体験が今度は日常に新しいインスピレーションをもたらしてくれます。私が空間デザインを通して提供したいのは、まさにそのような“人の生活をインスパイアする体験”なんです。
ホテルの仕事では“家にいるような体験”を、オフィスや個人宅の仕事では“ホテルのような体験”をクライアントからリクエストされることも多いメッテさん。最近の代表的なプロジェクトのひとつが、かつてはビール工場だったというコペンハーゲンのHotel Ottiliaです。
――このホテルはどんなコンセプトでデザインされたのですか。
METTE:既存の大麦用サイロを活かしながら新しい機能をプラスし、空間をアートとして体験できるインスタレーションとしてデザインしています。たとえば、ロビーでは元々あったじょうご状のホッパーを残し、ビールにとって重要な要素である水をその下部に張って新しい空間を創り出しました。ラウンジスペースの天井では、保存した工場のハードなディテールに布を合わせてやわらかさを出すなど、場所ごとにアプローチを変えて作り込んでいきました。
空間が変わると日常が変わる
リノベーション物件を数多く手がけているのは、BEARSとの共通点でもあります。
デンマーク第二の都市オーフスでは、かつて図書館だった歴史ある建物をモダンなユースホステルに蘇らせました。
――このホテルでは空間にどんな体験を織り込んだのでしょうか。
METTE:ここは若い人たちが部屋をシェアしながら泊まるタイプの宿泊施設なのでカジュアルさを意識しました。その点は、アメリカのダイナーやキャンピングカーに着想を得ています。また、大きな空間を3つに分割して、アートギャラリーの中に作品があるような印象を持たせたかったのがひとつ。同時に、ここに集まる人たちによってさまざまなアクティビティが起こる場所にしたかった。私にとって空間デザインはそこに人がいて初めて成立するものです。デザインされた空間だけでは何の意味もありません。
日本から受けた影響は大きい
その場に元々あったものを尊重する北欧のデザインは『物を大切にする』『良い物を長く使う』というライフスタイルの現れ。北欧建築も、建築単体でというより、ライフスタイルと手に手を取りながら進化しているとメッテさんは語ります。では、日本での体験についてはどのように考えているのでしょうか。
――デンマークに拠点を移されてから20年以上経ちますが、今も日本からインスパイアされる事がありますか?
METTE:来日するきっかけになった「数寄屋造り」は今でも私のインスピレーション源です。その他にも日本の部屋や、滞在時の写真がリファレンスとしてたくさんありますよ。日本での体験についていまだによく話すので、ジャパニーズスタイルでデザインしているつもりはないのですが、影響は大きいと思います。あ、それから、衝撃を受けたのが、お盆の上にお皿やお菓子をきれいに並べて、自分とそのトレイの上だけで完結する小さな世界だけに集中して愛でる感性。大きな空間の中でスポットごとに世界を作り込む今の私のスタイルに反映されていると思います(笑)
人が中心にある民主的な空間作り
北欧の家具は1950年代から歴史があり、今も世界中で人気があります。それは現代の北欧建築と何か関係があるのでしょうか。
――北欧建築が今、世界的に注目を集めている理由はどんなところにあると思われますか?
勝目雅裕さん(以下 勝目):北欧は戦後、ずっと民主的な国を作ろうと歩んできた。空間作りに関しても同じことが言えて、私たちは“democratic design(民主的デザイン)”と呼んでいるのですが。建築やインテリアで自分のステータスを表すとか、ラグジュアリーさを表現するという考え方ではありません。むしろ空間は人々のためにあって、人々がどういう風にその場所を使ってくれるか、その場所によってどういう行動を起こしてくれるか。そういう風に“人が中心の場所”を作っていると我々は理解しています。それが今やっと、世界から理解されるようになってきたのだと思います。
METTE:北欧のヴィンテージ家具はコンテンポラリーなフィーリングがありつつ、流行りすたりなく長く使えるタイムレスな魅力があります。マテリアルが上質なのも欠かせない要素です。
勝目:タイムレス、マテリアル重視に加え、デザインそのものがエッセンシャルで、無駄がないベーシックなものを作っている。それが建築のデザインにも広がっていると思いますね。もうひとつ大切なことはサステナビリティでしょう。CO2の排出にしても、これはもう世界が避けては通れない課題です。北欧は解決のために積極的なので、それが注目を集める要因になっているのだと思います。
メッテさんが手掛けるKONGA off-grid cabinはまさにサステナビリティを意識した近未来の住居です。リトアニア共和国の起業家とのコラボで試作した28㎡のキャビンは、外のガス・電気・上下水の接続なしで家族4人が暮らせるように設計されたもの。ユニット型住宅なので、建築基準がクリアできれば、世界中どこでも設置可能。自然の中のセカンドハウスであれば、キャンプともキャンピングカーとも違う、今までにない体験が期待できます。
タイムレスなデザインこそハイエンド
時代が大きく変化している今、『何をラグジュアリーと感じるか』も多様化しています。そのあたりをメッテさんはどう考えているのか伺ってみました。
――メッテさんにとってラグジュアリーな空間とは、どんなものですか。
METTE:ハイエンド、ローエンドはよく話題に上るのですが、トレンドのデザインではなくむしろタイムレスなものが本当のハイエンドだと私は思っています。その場所に元々あるものや古い家具を活かしながら、アートや“新しい体験”を組み込んだ空間が私の考えるハイエンドです。インテリアデザインとしては、あまりデザインしすぎないこと。その空間を使う人が自分の物を持ち込こむことによって完成する“余白”を用意しておく。そうする事によって、使い手がここは自分の場所だとより親しみが感じられることが重要です。
――BEARSとコラボレーションでぜひやってみたいことがあったら教えてください。
METTE:ホテル、オフィス、住居など、その空間の機能が何なのかに関わらず、新しい体験ができる場所を提供する仕事が一緒にできたら面白いですね。それで1年の半分を日本で過ごせるようになるのが理想です。
私たちの日常を新しい体験に変えてくれるMETTEさんのインテリアデザインには“人”を中心に考える北欧の価値観が反映されています。
高価な物を所有することやステータスを表す住居など、物質的な豊かさだけを追い求める価値観は過去のもの。時代の一歩先を行く北欧のライフスタイルは、人ひとりひとりが感じる快適さや新しい行動のきっかけになる体験にこそ、大きな価値があることを教えてくれます。北欧建築が世界的に注目を集めている理由もそこにありました。
待ち遠しいのは近い将来、BEARSのマネジメントで実現するMETTE FREDSKILDさんによる、本場の北欧スタイルのリノベーション。それは、これからの時代の豊かな生活を創造する唯一無二の体験になるに違いありません。
METTE FREDSKILD(メッテ フレッドスキルド)
建築家、インテリアデザイナー
https://mettefredskild.dk/
デンマークの首都、コペンハーゲンに拠点を置く建築家兼インテリアデザイナー。
1990年代の初めに和室の代名詞とも言える「数寄屋造り」に魅せられ来日。日本に滞在中は、山下設計で経験を積み、東京工業大学で学んだ後、さらにCesar Pelli Architects & Associates (東京)に勤務。帰国後、2006年から自身のインテリアデザイン会社の代表を務めている。
日本で食べる白いご飯が大好き。デンマークの友人への日本土産は、キッチンで使う竹細工のざるや柚子胡椒が喜ばれるそうだ。
勝目雅裕(かつめ まさひろ)
建築家
日本の山下設計に20年間在籍した後、メッテさんの母国へ。現在は、コペンハーゲンのデンマーク王立図書館をはじめ、国内外の図書館、美術館を数多く手掛ける設計事務所Schmidt Hammer Lassen Architects(シュミット・ハマー・ラッセン・アーキテクツ)のアソシエイトパートナーを務める。2019年にコンペティションで勝ち取ったJR博多駅東の約2万平方メートルのオフィスビルのプロジェクトが進行中。