日本の美意識と技術を現代に進化させる家具ブランド「Time & Style」

2023.06.02

BEARSがリノベーションを手がけた「ドルフ・ブルーメン」。家具も重要なファクターと考え協業したのが、家具ブランド「Time & Style」でした。

日本人が長く大切にしてきた意匠や美意識。それを、職人の技とともに現代の生活にも違和感なく馴染むデザインに落とし込む「Time & Style」は、国内だけでなく、ヨーロッパや中国にも影響力を持っています。ものづくりにおいて志すことや真の意味での豊かな住まいについて、代表の吉田龍太郎さんに伺いました。

全2回にわたるインタビュー。前編では、ブランドの立ち上げから現在に至るまでと、ものづくりへの思いについてお届けします。

「ドルフ・ブルーメン」に導入されたソファ「The horizon of the floating layer」と、ローテーブル「shrine low table」。 ©SS/Keishin Horikoshi

日本的な意匠と技術を、現代に沿うようリデザインさせる

訪れたのは、東京都港区の「東京ミッドタウン」内にあるショップ「Time & Style Midtown」。
666m²もの広さがあり、「東京ミッドタウン」内の店舗のなかでも天井が高く自然光が注ぎ込む心地のよい空間です。

――「Time & Style」の家具は、自社でデザイン、製作までされるそうですね。どのようなことを大切にしていらっしゃるのでしょうか?

吉田龍太郎さん(以下 吉田):日本の伝統的なものづくりを、その本質を変えずに、現代の生活に合うように少しだけリデザインすることでしょうか。日本固有の素晴らしい伝統文化や、そこにある先人が築いてきた生活の知恵や技術を学ぶ。その学びを現代の日常生活にふさわしいものづくりに生かしたいと考えています。

衝撃を受けたドイツのライフスタイル

「日本」が大きなアイデンティティになっている「Time & Style」の家具。例えば「ドルフ・ブルーメン」に導入されたローテーブル「shrine low table」は、神社建築をデザインのヒントにつくられました。しかし、創業の地は意外にもドイツです。

――1990年にドイツ・ベルリンで創業されていますが、なぜドイツに行かれたのでしょうか

吉田:1985年に独日協会の文化研修で、ドイツに1年ほど滞在していたんです。20歳のころかな。酪農家に住み込みして、毎朝3時半から働いていました。そのときに、“生活”や“住まい”に対しての考え方が日本とドイツでは全く違うことに衝撃を受けたんです。

ドイツ人は窓辺に必ず花を飾ったり、自分のためではなくて外からその家を見る人たちのために町並みをきれいにするという考えがあります。条例でも屋根や壁の色、素材までしっかりと決められているくらい。何世代も受け継いできた家具や食器を大切に使って、毎日をいかに大切に過ごすかを楽しんでいる。私はというと、それまでインテリアについて考える機会はなく、日本では小さなアパートから銭湯に行くような暮らしでしたから、それは衝撃的でした。

『ドイツの価値観、ライフスタイルを日本に紹介したい』と思うようになり、研修が終わってもドイツに残って7〜8年ほど暮らしたんですよ。

代表の吉田龍太郎さん。 ©Eiji Miyaji

――92年に帰国。日本で「プレステージジャパン」を設立されます。当時はどのような事業をされていたのでしょうか

吉田:はじめは工場に製品を委託してつくった家具を百貨店や家具店に持ち込んで提案をしていました。ライフスタイルを紹介したいという想いがあったのですが、『そこに至るまでにまず自分たちができることはなんだろう』というところで、家具をつくって提案することからスタートしました。

ショールームを通じて伝えたいことをかたちに

――その後、自由が丘にショップとカフェ、ギャラリーを併設した1号店をオープンされています。そのきっかけは何だったのでしょうか?

吉田:あるとき、新しいアイデアでつくった家具を提案したら企業から採用してもらえたんです。仕様書を先方に提出しなくてはならないのですが、情報を取られてその後注文がなくなるということを経験して。これは自分たちがもっとデザインや製造とかにコミットしていく必要があるな、と痛感しましたね。

それに、当時の家具店って今と全然違うんですよ。商品をたくさん見せるためにテーブルの上にテーブルを重ねたり、キャビネットは背中合わせに展示されていたり。僕らが納品するときは、もう少しインテリア空間としてイメージできるようにレイアウトするのですが、翌日行くともう、上にテーブルが乗っかっている(笑)。“デザイン”という言葉さえなかったような時代でした。

自分たちが提案したいのは、『家具を使ってどういう生活ができるのか』だったので、これは無理だな、と。それなら自分たちでお店をつくろうとなったのが97年の目黒・自由が丘の店舗でした。

『ミッドタウン店は天井がスケルトンになっていますが、これは自由が丘の1号店をイメージしているんですよ。「東京ミッドタウン」は大きな商業施設ですし、きれいな天井が貼られる予定だったんですが、そこは無理をいって』(吉田さん) ©Eiji Miyaji

――広大な倉庫をラフにリノベーションした空間で、当時、新しいスタイルのインテリアショップだと話題になったそうですね。

吉田:タイヤメーカーの倉庫を改装したんですよ。中2階があったんですが、全部壊してスケルトンにして、ファサードの窓もぜんぶ入れ替えて。ドイツでは、大きな工場を再利用してオフィスや店をつくるのがスタンダードだったんです。『古い建物をいかにリユースするか、その場をどう生かすか』みたいなそういう価値観は、今もずっと変わっていないですね。

――97年ごろの日本では、インテリアはどういうカルチャーだったんでしょうか?

吉田:まだ、“インテリアデザイン”というものが一般的に浸透してなくて、ファッションの一部でしたね。90年代後半からようやく女性誌のファッション誌でデザインとかインテリアを取り上げるようになったくらいで。当時のインテリアやプロダクトデザイナーたちも、アパレルショップの設計や家電、携帯電話のデザインがメインで。まだ、インテリアは家ではなく、外で消費するものだったように思います。お店やレストランは素敵でも、家の中はまだまだ、というか。

――吉田さんが理想としたドイツの住まいへの価値観のようにはまだなっていなかった、と。2017年からは日本各地だけでなく、オランダ・アムステルダム、イタリア・ミラノなどヨーロッパでも精力的に店舗を増やしています。「Time & Style」の世界観を伝えやすい状況が整っていくわけですが、どういった変化がありましたか?

吉田:ショールームを増やしていった背景として、お客様の期待がありました。住宅や家具のデザインをして、自社の工場で製作をして、自分たちの店舗で販売していくなかで、お客様はすごく期待してくださる。『次はなにを出してくるの?』という意識が伝わってくるんです。いろんなご要望やコメントをいただける。それを自分たちなりに咀嚼して次の製品に活かしていくという、良い流れができていきました。

お店って、新鮮さや感動してもらえる要素がないと続かないですし、来たいとも思わないですよね。来るたびにプロダクトの表情も変わっていてもいいし、オペレーションもいい方向に変わっているべき。お客様の期待が我々を変えていったんだと思います。

2022年6月にイタリアのミラノ・ブレラ地区にヨーロッパ2店舗目となるショールームをオープン。美しいアーチが連なる、約500㎡のゆったりとした空間にリビングやダイニング、ベッドルームなどさまざまな生活シーンが構成されている。

――長く使えるのがよし、とされる家具ですが、表情も変わっていってもいい?

吉田:そうですね。家具って長く使えるものがいいとされますが、“素材としての耐久性”と“デザインの耐久性”のふたつの面があると思うんです。デザイン面ではスタンダードがいいとされますが、そんなことはない。もっと変わらないといけない。スタンダードのなかにもいい変化があるはずです。我々がつくる家具は「シンプル」という絶対的な価値観こそありますが、いろんなライフスタイルを持つお客様が最終的に自分たちで色付けできるように、時代の流れによって少しずつ変化させています。

「ドルフ・ブルーメン」の完成を見て

BEARSが手がけた「ドルフ・ブルーメン」のリノベーション。伝統的な日本の技術を取り入れつつも、現代に調和するようにデザインされた「Time & Style」のソファとローテーブルが、洗練された空間をつくり出しました。

――今回の「ドルフ・ブルーメン」の完成をご覧になっていかがでしたか?

吉田:“日本”とか“和”をコンセプトにした住空間のリノベーションって、すごく難しいと思うんです。モダンな日本のスタイルとならず、古典的になってしまうとか、その折衷案になってしまってデザインとして成立していないな、と思う例がこれまでは非常に多かった。

我々のプロダクトの個性を、ここまで引き出してくださったことに驚いています。空間全体として非常に親和性がありますよね。日本だけでなく海外のライフスタイルや感性、日本と新しいモダンな暮らしの提案という意味でも、スケール感があって、建具や壁の素材、家具、しつらえは、これまで見たことがないというほどの完成度の高さを感じました。

素材や伝統技術を活かし、シンプルでありながら時代の流れに合わせて変化してきた「Time & Style」の家具。家具だけではなく、ライフスタイルを提案したいという想いは、BEARSの手がける住空間にも通じるものがありました。

次回の後編では、世界から見た日本のものづくりの強さ、日本の魅力を世界に発信していくことへの想いについて伺います。

DATA

吉田龍太郎(よしだ りゅうたろう)

株式会社プレステージジャパン 代表取締役
https://www.timeandstyle.com/

1964年、宮崎県生まれ。1985年に独日協会の文化研修事業に参加し渡独。90年、ベルリンで弟の安志さんとともに「PRESTIGE JAPAN」を立ち上げる。2年後に帰国し、再生紙家具の販売を開始。97年には東京・自由が丘に「Time & Style」の1号店をオープンする。現在、国内5店舗のほか、ミラノ、アムステルダムに直営店、上海と北京に代理店を置く。

Text by Tomoko Yanagisawa(Yanagi ni Kaze)
Photos by Eiji Miyaji , SS/Keishin Horikoshi
         

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