歴史の浪漫が薫る時代家具の愉しみ「古福庵」

2023.07.14

東京近郊に300坪の店舗を構える「古福庵」は、海外から訪れるお客様も多い時代家具の名店。その人気の秘密を前編と後編に分けてお伝えしています。前編で明らかになったのは、100年以上の時を重ねた家具のコンディションを整え、再び世に送り出す「古福庵」独自の職人チームの“匠の技”。今回の後編では時代家具に魅せられたお客様が、インテリアにどのように取り入れて愉しんでいらっしゃるのか、実例をご紹介します。

“和モダン” の世界へ誘う蔵戸の扉

BEARSがリノベーションを手掛け、「古福庵」の蔵戸を採用した「ドルフ・ブルーメン」は “和モダン” がテーマ。高輪のヴィンテージ・マンションのエレベーターを降りると玄関扉が出現。訪れる人を非日常の世界へと誘います。

「ドルフ・ブルーメン」のリビングルーム。広く連続する障子窓、野田版画工房の手仕事による襖絵など、“和モダン” をテーマに意匠を凝らした大空間。 ©SS / Keishin Horikoshi

「古福庵」後編は、時代家具の愉しみ方について。前編に引き続き代表の高木栄作さんにお客様の実例を伺いました。

代表の高木栄作さん

――他のお客様で蔵戸を重厚感のある玄関扉にして部屋をモダンにコーディネートしたケースはありましたか?

髙木栄作さん(以下、髙木):そうですね、今までにもいらっしゃいました。特に鎌倉にあるお客様の邸宅は、和箪笥などの時代家具を取り入れながら内装をモダンにまとめられて、とても素晴らしかったです。

髙木:施主様は和のアンティークを大変愛して下さる外国人の奥様と、同じくらいに愛しておられる日本人のご主人様のご夫妻でした。お客様の愛情と、また深い造詣がなければ、このように完成度の高い空間が生まれることはなかっただろうと確信しています。

©古福庵

実は今回の記事のはじめにも、鎌倉のお宅の写真を使わせていただいています。暖炉のある吹き抜けの空間が印象的。その贅沢な広さと素敵なインテリアにはため息が出てしまいますね。

日本の時代家具に海外から熱い視線

――お客様はどんな方が多いですか?

髙木:40代50代が多いと思います。まだ少数派ですが、インスタグラムを見て買いに来てくださる若い方も増えました。

外国人のお客様にも恵まれまして、3割くらいは海外に発送しています。弊社のWEBサイトをご覧になって、わざわざ足を運んでくださる方もいらっしゃいますよ。

――すごいですね。インターネットで検索して来られるんですか?

髙木:たいていの方はそうです。「古福庵」のWEBサイトが英語表記に切り替えができるようになってからは、ご来店も通信販売のご利用もますます増えましたね。海外にお住まいのお客様に向けて、オンラインストアでは3通貨でご購入いただけるありようになっています。

――特に人気のあるデザインやアイテムはありますか?

髙木:木の色味が明るい木地色のガラスケースは若い方に人気がありますね。かえって海外のお客様の方が伝統的なデザインを好まれる傾向にあります。本格的な目利きの方もいらっしゃいますし、若い外国人の方で『日本の家具が大好き』という方も多いです。

――それは「鬼滅の刃」の影響かもしれませんね!(笑)

インスタ世代に人気の、色が明るく親しみやすい印象のガラスケース。

現代に蘇った“大正浪漫”の邸宅

――これまでご成約された中で印象に残っているお客様はどんな方でしょうか。

髙木:“大正浪漫” をテーマにご自宅を新しく建てられた名古屋のお客様がいらっしゃいます。ご縁をいただいてから10年ほどかけて出来上がったのですけれど、本当に素敵なお宅になりました。お客様のご希望で、色ガラスなど可愛らしい感じのものを多く取り入れています。

髙木:職人と3日間ほど出張して、最後の調整をさせていただきました。完成までの道のりがとても長かったこともあって、たいへん思い出深い仕事です。

――「大正浪漫」の画家、竹久夢二の絵を思わせる美しくレトロな世界に引き込まれました。

船箪笥を手荷物で持ち帰ったイギリスのお客様

髙木:海外のお客様では、イギリス人の弁護士の方が記憶に残っています。所用で東京に来られた際に、こちらの店舗まで足を運んでくださいまして。船箪笥を買っていただいたんです。(注:「船箪笥」(ふなだんす)とは、貿易船の船頭が契約の時に使う印鑑や現金、許可証などを入れていた小型の箪笥)

金具で装飾された船箪笥は当時の船頭のステータスシンボルだった。 ©古福庵

髙木:それを手荷物で持って帰りたいとおっしゃったのでびっくりしました。相当の重さがあるものですから。『海外配送も承りますよ』と申し上げたんですが『待てない』と。結局、都心のホテルにお届けしました。多分ファーストクラスでお越しだったんだと思います。

――確かにそうじゃないと手荷物では無理ですよね!(笑)少しでも早く持ち帰りたいほど、気に入ったのでしょうね。

唯一無二の世界を手に入れる喜び

最後に、時代家具の愉しみ方についてあらためてお伺いしました。

――箪笥や建具など、日本の古い家具を住まいに取り入れることの魅力はなんでしょうか。

髙木:それはまず圧倒的なクオリティですよね。たとえばケヤキの1枚板などは、製材して使えるようになるまで30〜40年寝かせるんです。今の時代はそんな手間をかけて建具を作ることはありません。さらに日本は板を組んで家具を作る文化なので、細工が本当によく考えられています。

前面総ケヤキの水屋箪笥。細い板を組んだ“みざら戸”の造りにも当時の優れた技術を垣間見ることができる。 ©古福庵

髙木:そのように手間と時間をかけることで出来上がった一点物の家具は、他にはない自分だけの個性が得られるのが魅力だと思います。

――まさに希少性ですね。

高木:たとえば以前、ご主人が外交官で世界中を回って気に入った家具を集められていて、退職されて家を建てられたお客様がいらっしゃいました。お宅の外観は南仏風なんですけれど、玄関を蔵戸にされたんですね。シャンデリアはスペインのもので、その下に蔵戸で作ったテーブルを納めさせていただきました。

『西洋アンティークのインテリアにも合うでしょうか』というご相談から始まったお話でした。日本が最後だったので、収集されたものを拝見してご提案したのですが、国もテイストも違う、個性の強い一点物のアンティークばかりなのにまとまっていて、すごく素敵な仕上がりなったと思います。結局、質の良いものは国境を問わないんだなと思いました。

髙木:ご自分の好きな物を集めてその中で暮らしたいというお客様は、みなさんたいへんな熱意をお持ちです。色々なことを経験されて『3軒目にやっと満足できる家が建つ』と言いますが、そういう時こそ「古福庵」の時代家具や建具がお役に立てると思います。

――お客様の実例を拝見して、時代家具のイメージが変わりました。今も残っている貴重な逸品をインテリアに取り入れる方がどんどん増えるといいですね。

©古福庵

いかがでしたか?
丁寧にリストアされた時代家具がお客様のもとで暮らしに息づく姿は、凛として美しく心を打たれるものがありました。

時間と手間をかけて作られた上質なものに、惜しみない愛情を注ぎ受け継いでいく。そうして出来上がったインテリアは、唯一無二の世界を手に入れた喜びとともに、心に豊かさをもたらしてくれるに違いありません。

職人の技と心が生み出す感動を、もう100年後の時代にも繋いで行けるように。不可能を可能にする“匠の技”を真摯な姿勢で磨き続ける「古福庵」に、拍手を送りたいと思います。

DATA

髙木栄作|Eisaku Takagi

「古福庵」代表取締役
https://kofukuan.jp/

古福庵
明治時代から昭和初期頃を中心に、上質な時代箪笥・建具に限定して仕入れを行う専門店。
1994年個人事業主として時代家具の取り扱いを開始し、2005年に法人化。 関東最大級の300坪の店には希少な時代家具が数多く展示されている。 自社工房を備えており、家具職人が時代家具の素晴らしさを大切にしつつ、 リストアに取り組んでいる。

Text by Kyoko Hiraku
Photos by Yoshi Okamoto , SS/Keishin Horikoshi
         

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