「ルイスポールセン」、時を超えて進化し続ける北欧照明

2024.08.02

ルイスポールセンは、デンマークに拠点を置く照明のトップブランド。1958年に誕生した名作「PH 5」は、今なお世界中で愛され続けています。昨年(2023年)には東京・青山に世界初のフラッグシップストアが誕生し話題に。時を超えて進化し続ける北欧照明の魅力を前後編に渡ってご紹介していきます。

「PH 5」を筆頭に、デザイン史に残る数々の照明を生み出してきたルイスポールセン。たとえその名を知らなくても『どこかで見かけたことがある』と言う方も多いでしょう。今回の前編では、ブランドのデザイン哲学と、アイコン的モデルを生み出した歴代のデザイナーについて紐解きます。ルイスポールセンジャパンのブランド&コミュニケーション チーフ、新行内まいさんにお話を伺いました。

――ルイスポールセンは長い歴史をお持ちですよね。

新行内まい(以下、新行内):1874年の創業なので、今年(2024年)150周年を迎えます。じつは創業時はワインのインポーターだったんです。その後、電気エネルギーの普及とともに、会社は照明事業に移行していきました。

ポール・ヘニングセンとの出会い

――「PH 5」はどのような経緯で誕生したのでしょうか。

新行内:1924年にデザイナーであるPoul Henningsen(ポール・ヘニングセン)と ルイスポールセン社のコラボレーションがはじまりました。1925年にはパリ万博博覧会に参加し、装飾芸術の分野で名が知られる存在となります。

新行内:1926年にはポール・ヘニングセンが、グレイ・フリー(眩しさのない)の光を生み出す “3枚シェードシステム” を完成させました。このシステムに基づいて数々のPHランプがデザインされ、その後、1958年に絶えず白熱電球の形状やサイズを変える電球メーカーへの挑戦として「PH 5」を手がけました。

数学的に裏付けされたシェードの設計

――“3枚シェードシステム” とは、どんなものですか

新行内:人間にとって心地よい光を、3枚のシェードを使ってコントロールしていくと言う考え方に基づいて設計したものです。ヘニングセンは、照明器具のデザインに科学的アプローチを採用し、シェードの曲線に「対数螺旋」を使用した最初の人物でした。

「対数螺旋」に基づくデザインを採用することで、シェードの曲面全体になだらかな配光を得ることに成功したのです。
このなだらかな配光は、シェード内面が反射する拡散光と合わさって、グレアと影のコントロールを可能にしました。各シェードが反射する光量は、光源との距離が大きくなるにつれ均等に減少します。

新行内:ポール・ヘニングセンは生涯で何百種類もの照明をデザインしました。ヘニングセンが設計したのは単なる照明ではなく、包括的な照明システムであり、長年にわたり1000種ほどのモデルが生まれました。

――その他の代表的なモデルを教えてください。

新行内:ルイスポールセンの製品は、100年ほど前にデザインされたものもありますし、現在活躍するデザイナーと共に手掛けた照明も数多くあります。「PH 5」「PH アーティチョーク」「パンテラ」などは、一度はご覧になったことがあるデザインではないでしょうか。

「PH アーティチョーク」
ルイスポールセンは、アイコン的なデザインがとても多いブランド。昨年(2023年)は 『(Re)discover icons』キャンペーンを展開し、新色や復刻モデルが登場した。

新行内:ルイスポールセンは巨匠と言われるデザイナーや建築家から、現在活躍中の方まで、主にデンマークのデザイナーとコラボレーションをする形で製品を生み出してきました。

――歴代のデザイナーにはどんな人がいるのでしょうか

新行内:ポール・ヘニングセン(1894-1967年)は、デザイナー、建築家、編集者、文化的評論家など、多彩な才能を持った人で、他分野で活躍をする今でいう “インフルエンサー” のような存在でした。

建築界の巨星アーネ・ヤコブセン

新行内:Arne Jacobsen(アーネ・ヤコブセン)(1902-1971年)は、世界的に有名な建築家です。代表作のひとつに挙げられるのが、デンマーク初のデザインホテルと言われる「Radisson Collection Royal Hotel, Copenhagen 」(旧 SAS ロイヤルホテル)です。

1960年に完成した「ラディソンSASロイヤルホテル」。内装はリノベーションされているが、ヤコブセンのデザインをそのまま残している特別なスイート606号室がある。

新行内:このホテルでは、ヤコブセンが建築、内装デザインからカトラリーまで総合的に手掛け、デザイン界に革新をもたらしました。ルイスポールセンのAJランプシリーズも、このホテルのデザインから生まれたものです。

「AJ フロア」

有機的なフォルムのヴァーナー・パントン

新行内:Verner Panton(ヴァーナー・パントン)(1926-1998年)は、1971年に登場以来、人気の「パンテラ テーブルランプ」を設計しました。特徴的なデザインはそのままに、直径160mmの小さな充電式モデル「パンテラ160 ポータブル」が2020年に登場。以来とても人気があるんです。今も古く見えないのはデザインの力だと思います。

パントンの特徴であるオーガニックなフォルム。ベースとシェードの両方が反射板として機能する構造は、ヘニングセンのランプから着想を得たもの。

受け継がれるブランドのDNA

――現代のデザイナーとは、どのような形でコラボレーションされていますか?

新行内:たとえば、現在活躍中のOivind Slaatto(オイヴィン・スロット)(1978年-)は、ヘニングセンに共鳴する部分をお持ちのデザイナーです。彼が手がけた「パテラ」は、ひまわりの種の配列などに見られる「フィボナッチ数列」を応用して設計されています。
※「フィボナッチ数列」は自然界の形状を数学的に解明した法則

「パテラオーバル」
オイヴィン・スロットは、もともと音楽家だったという経歴の持ち主。デンマークの高級オーディオブランド、「バング&オルフセン」では、アートピースのようなスピーカーをデザインしている。

新行内:彼がルイスポールセンでデザインをする時は、どのように『ルイスポールセンらしい光』にしていくかを社内の開発チームと一緒に作り上げていきます。これは、他のデザイナーとの間でも同様にずっと継続して実践してきました。卓越した光の品質、クラフツマンシップ、そしてデザインへのこだわりこそが、「ルイスポールセンの光(照明)」を唯一無二の存在にしている理由です。

――だからこそ、ルイスポールセンらしさがDNAとして受け継がれているわけですね。

2023年秋、東京・北青山に世界初のフラッグシップショップが誕生し、新しいファンを増やしているルイスポールセン。一方、デンマークでは子どもの頃から親しみのある身近な存在ということもあり、懐かしく感じるという人も多かったそう。

東京・北青山 「ルイスポールセン東京ストア」

新行内:かつて実家で使っていたルイスポールセンの照明を、一人暮らし先で使っているという若者たちも数多くいるようです。家具を受け継ぐ文化が根付いている国ですから。本国ではグローバルなSNSアカウントを通して「こういう新しい楽しみ方もある」というご提案をデイリーに発信しています。ルイスポールセンのSNSではユーザーさんからいただいた写真を投稿することもあります。

――若い人がSNSで、ルイスポールセンの新しい魅力を発見しているのは素晴らしいですね。今後の展開が楽しみです!

デザイン的にはタイムレスな美しさがあり、機能は今の時代に合わせてアップデート。さらに、北欧スタイルのインテリアの枠を超えた、新しい楽しみ方が広がるルイスポールセン。時を超えて進化し続けるブランドの魅力がお分かりいただけましたでしょうか。

次回の後編では、東京・北青山のフラッグシップストア「ルイスポールセン東京ストア」を訪れます。

サイズや色のバリエーションが豊富に揃うアイコン的モデルをはじめ、現代アーティスト、オラファー・エリアソンが手がけたアートピースのようなプロダクトなど、このお店だけの特別な体験をご紹介しますので、どうぞお楽しみに!

DATA

ルイスポールセン東京ストア

東京都港区青山に世界初の直営フラッグシップショップをオープン。 ルイスポールセンの全ラインナップに加え、エクスクルーシブアイテムの販売を行う。明るさや設置方法をプロに相談できるほか、ライフスタイルにあわせた “照明のインテリアコーディネート提案” など直営店ならではの体験を提案している。
東京都港区北青山3-2-2  AYビル 1F・2F
louispoulsen.com

Text by Hiraku Kyoko
Edit by Saori Maekawa
         

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