伝統技術を編み、その未来を紡ぐ「AMUAMI」

2025.02.21
日本の伝統技術を現代のインテリアデザインに組み込むオーダーメイドブランド「ubushina」の代表を務める立川裕大(ゆうだい)さん。その活躍の場はさらに広がり、2023年には伝統技術を駆使したプロダクトを手掛けるブランド「AMUAMI」を新たに立ち上げました。後編となる今回はそのギャラリー「編阿弥庵(あむあみあん)」を訪ね、ブランドに込めた想いやその魅力を伺いました。
コンクリート壁に黒い和紙の床。伝統とモダンが共存した空間が広がる「編阿弥庵」。(写真:橋原大典)

技術を結集させた最先端のプロダクトを創造する

――はじめに、AMUAMIについて教えてください。

立川裕大さん(以下、立川):「AMUAMI」は『未来の骨董』をテーマに、職人の技の粋を集めた品々を展開するブランドです。ubushinaではホテルやレストランなどの空間に合わせて1点ものを製作するのに対し、AMUAMIはプロダクトを製作して販売するスタイルを取っています。車の世界で例えるならubushinaはレースごとに特注でつくられるF1車、AMUAMIは反復生産できるフェラーリやアストンマーチンなどのラグジュアリーカーですね。これを世界中の目利きに届けることを目的としています。

――ユニークなブランド名ですが、どのような意味を込められたのでしょうか。

立川:AMUAMIの『AMU』は “編む=編集する” 、『AMI』は “阿弥” ですね。室町時代に活躍した目利きやクリエイターたちのことです。私たちは日本のユニークな文化や美意識、職人のネットワーク、モダンデザインや骨董の知見を編集し、伝統技術で取りまとめたこの国ならではのプロダクトを世界に発信していこうと考えています。

工房を訪ね、職人と打ち合わせをする立川さん。美しいプロダクトは対面のコミュニケーションと信頼関係から生まれる。(写真:深尾大樹)

――どうしてAMUAMIをスタートさせようと思ったのでしょうか。

立川:現在の日本にはある程度の数量が生産される生活雑貨的な工芸品が多くあります。しかし価格を抑えるためにシンプルなつくりにせざるをえず、突き詰めた職人技を発揮しにくいマーケットといえるでしょう。一方ubushinaで手掛けているオーダーメイドは高い技術力が求められるものの、一点ものなので反復生産ができない。職人の技術を向上させながら労働生産性を高めていくためには、その中間にあたるマーケットが必要だと考えていました。

AMUAMIを成功させれば、技術を向上させながら売上を上げることができる。このラグジュアリーマーケットを私たちだけでなく皆で開拓できれば、日本は名実ともに工芸大国になれると考え、ブランドをリリースしました。

尋常でない手間とひま” をかけたプロダクト

――「編阿弥庵」について教えてください。隠れ家のような不思議な空間ですね。

立川:「編阿弥庵」はブランドの世界観が体験できるギャラリーです。その価値を真に理解してくださる方にこそ見ていただきたいので、住所は非公開・完全予約制としています。ubushinaからの流れでお客様がいらっしゃることも多いのですが、ホームページからも予約が入りますし、海外のお客様も多いですね。

写真:橋原大典

――代表的なプロダクトをいくつかご紹介いただけますか。

立川:数あるプロダクトの中からいくつかご紹介します。「八掛(はっけ)」はクオーツガラスに2色の漆を塗り重ねた敷台です。根来塗り(ぬごろぬり)と呼ばれる古くからの塗装技法から着想を得たもので、使用を重ねるごとに表面の漆が摩滅するため下地の漆の色が現れて経年変化を楽しめます。

これは相反するエッセンスを二項対立させずにどちらも採り入れようとする、日本人の面白いクセに着目して製作しました。例えば神仏習合とか、天皇と将軍とか、ハイブリッドカーあたりが分かりやすい例ですね。日本のデザインの世界にはテクノロジーや恒久性を美徳とする “モダニズム” と、手仕事や変化の中に美しさを見出す “侘び寂び” という真逆の概念が並立しています。このプロダクトではモダニズムを象徴するガラスと侘び寂びを象徴する漆を合わせることで、対立する概念の日本的共存を表現しているんです。

敷台「八卦」。漆を塗り重ねたクオーツガラスのキワをシャープに一直線で仕上げるには非常に高い技術を要する。(写真:白石和弘)
使用を重ねると表面の漆が摩滅して下地の色が現れる「根来塗り」。侘び寂びの境地と言われる。(写真:白石和弘)

立川:「Frill(フリル)」と「8祝ぐ(はちほぐ)」は中臣一(なかとみはじめ)さんというバンブーアーティストと共作した竹細工のライトです。台座からオブジェに向けて光を当てることで、天井や壁に美しい影が映ります。非常に繊細な竹細工で、とてつもない精度が求められる品々です。

竹細工のライト「Frill」。気が遠くなるほどの時間と工程を経て美しい造形が生み出される。(写真:深尾大樹)

立川:「きよみず」は立体組子という特殊な手法で誂えたプロダクトです。俳句や茶室、盆栽のように、大きなものを縮めることを得意とする日本文化の特色を取り入れて、私の大好きな建築である京都・清水寺の “清水の舞台” を縮小しました。日本最大の家具産地である福岡県大川市の職人に製作を依頼し、釘もネジも使わずに一つひとつのパーツを組み上げています。

「きよみず」。正方形の連続で構成されるシンプルなデザインながら、見る角度や光によってさまざまな表情を見せる。(写真:白石和弘)

可能性は日本人の足元に

――日本的なテイストがありつつもモダンな印象で、現代の住宅にも合わせやすいですね。住空間を豊かにする上で、立川さんからアドバイスはありますか。

立川:僕は基本的に日本は “リミックスの国” だと思っています。文字にしても漢字が中国から入ってきて、ひらがなとカタカナが生まれ、今では英語も日常の中で混在しながら調和を保っていますよね。インテリアにおいても住み手の心身の心地よさには妥協することなく、国や時代やスタイルを超えて自分たちらしい編集力を発揮し、リミックスしていくことが豊かさにつながるのではないでしょうか。

日本的なエッセンスが強いアイテムでも、組み合わせ次第でモダンな空間とも調和する。(写真:深尾大樹)
一見すると空間のマテリアルや配色から外れた照明も、全体を引き立てるアクセントに。(写真:深尾大樹)

“国宝を創る仕事” に挑む覚悟

――ubushinaやAMUAMIを通じて、立川さんがこれから目指すものはありますか。

立川:僕らは『将来国宝だって創れる立場にいる』と思っています。職人の働く環境やものづくりの仕組みを整えるとともに、僕ら自身も精進を重ねていくことでそれを実現していきたいですね。

だからこそこれからも、より難しい仕事で最高の結果を残せるように挑み続けます。例えば『国が新しい迎賓館をつくる』となった時に声をかけられるくらいになれたら嬉しいですね。そのために技術はもちろん、歴史や未来へとつながる物語性、場のコンテキストや美意識といった要素を深く理解してかけ合わせる “編集力” を強化していく必要があると考えています。

“ムダ” の先に見る豊かさ

――最後に、立川さんにとって “豊かさ” とはなんでしょうか。

立川: “ムダと思えることを沢山する” ことじゃないでしょうか。たとえば車を走らせている時に夕日がきれいだったら、車を止めて夕日を眺めたら良い。そういう時間が豊かさをつくるのだと私は思います。昨今 “コスパ” とか “タイパ” なんていう言葉が流行っていますが、それらとは真逆の考え方かもしれませんね。

写真:橋原大典

訪れた「編阿弥庵」はドアを開けると静謐な雰囲気が広がり、まるで異空間にワープしたかのよう。美術品さながらの展示を心ゆくまで堪能できました。古くから伝わる日本の技を継承してきた職人は、国の宝ともいうべき存在。伝統工芸の未来を築くためには、消費者である私たちの “見る目” が問われていると感じました。

Text by Sayoko Murakushi
Edit by Sotaro Oka
DATA

立川 裕大 Yudai Tachikawa

1965年、長崎県生まれ。「ubushina」を立ち上げ、オーダーメイドで日本の伝統技術を先鋭的なインテリアに仕立てるスタイルを確立する。2016年には伝統工芸の世界で革新的な試みをする個人団体に贈られる「三井ゴールデン匠賞」を受賞。2023年には日本の技の粋を集めたプロダクトブランド「AMUAMI」をスタートさせ、職人の仕事を世界に届ける活動を加速させている。




編阿弥庵

世界の目利きに向けて日本の伝統技術を発信するブランド「AMUAMI」のギャラリーとして2023年にオープン。『未来の骨董』をテーマに伝統技術とモダンデザインをかけ合わせたプロダクトの数々を、静謐な空間でじっくりと観覧することができる。
※完全予約制のため、住所は公開しておりません。ホームページからのご予約成立後に詳細な住所をお知らせします。
amuami.com

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