インテリアの見本市「ミラノ・サローネ2025」訪問記・家具編
ミラノサローネの展示はメイン会場である「ロー・フィエラミラノ」以外にも、市内にショールームがあるブランドではそちらで展示が行われていることも。各社の世界観が惜しみなく表現された空間を視察しました。

建築と家具が美しく調和する空間
「Poltrona Frau(ポルトローナ・フラウ)」は『The Five Seasons』がテーマ。今年はフレスコ画で彩られた空間の天井にミラーを設え、ラグジュアリーな世界を展開していました。ラウンドフォルムのソファが新たにお目見え。


下のテレビはドイツのカメラブランド「Leica(ライカ)」とコラボレーションした新作。テレビ台から垂直にモニターが出て、至近距離から映像が投影されるという仕組みでした。ポルトローナフラウはクオリティの高い商品をつくっている老舗のメーカーですが、毎年技術革新をしている姿勢が素晴らしいです。昨年はリモコンでリクライニングできるけど見た目はそれを感じさせないソファを出していました。

コモ湖畔のヴィラを買い上げショールームにしている「BAXTER(バクスター)」の展示へ伺いました。ここは自然と建築が美しく調和し、インテリアとエクステリアがシームレスに繋がる空間が心地よく広がっています。




新作は1960年代アメリカ西海岸の美学に対するオマージュ。ミッドセンチュリーモダンに着想を得ながらも、現代的かつ実験的なアプローチで再解釈されています。


昨年は70〜80年代、今年は60~70年のように、過去の時代へのオマージュを新作のテーマとしているブランドが目立ちました。その背景にはコロナ禍を経験した後 “華やかで勢いのあった時代に回帰したい” という想いがあるように感じます。またぬくもり感のある表現も引き続きトレンド。張り地や素材にはブークレなどふっくらしたものを使用し、フォルムにも丸みがあるのが特徴です。
アートギャラリーとの連携を進める『1% for art』
「MINOTTI(ミノッティ)」は本会場のロー・フィエラミラノに広大なブースを設え、新たに加わった5人のデザイナーによる新作を展開。nendoの佐藤オオキさんがそのうちの1人として参加しています。日本人デザイナーが国際的に活躍されているのは嬉しい限り。
全体的なテーマとしては温もりのある自然素材が使われ、60〜70年代のヴィンテージ感が漂います。




さらにフィレンツェの名門ギャラリー「Tornabuoni Arte(トルナブオーニアート)」とのコラボレーションにより、 アートとデザインの境界を越えた体験を演出。ミノッティのデザイン哲学の進化と未来へのビジョンを示す、新たなマニフェストとなっていました。

「MOLTENI&C(モルテーニ)」は会期に合わせてミラノにオープンしたショールームでのプレゼンテーション。19世紀後半の建造物は7階建てで3000平米以上の広さがあり、真ん中が吹き抜けになっています。ヴィンセント・ヴァン・ドゥイセンによる空間デザインは、現代に合わせて思慮深く再設計されたもの。ここはもともと住居だったそうで、部屋のシーンがとても分かりやすく展示されていました。



新作コレクションは、モルテーニが過去(70年代と80年代)に手がけた展覧会やプロダクトからインスピレーションを受けたラインナップ。
また収納のリーディングブランドだけに、壁面埋め込み型照明など進化を遂げたモジュールも見逃せません。キッチンカウンターやテーブルトップには華やかな柄の大理石が使われていて目を惹きました。


ミノッティもそうですが、モルテーニもアートギャラリーとの協力関係を積極的に取り入れている印象でした。
今、世界的に『1% for art』= “建築費の1%をアートに使おう” という動きがあります。もともとはアーティストへの支援を趣旨としたもので、これがギャラリーとのコラボレーションに繋がっているのかもしれません。室内装飾にアートが設えられていると、より空間の完成度が高まることを改めて実感しました。
古き良き時代への回帰とアートの融合
イタリアの最高級テキスタイルブランド「LORO PIANA INTERIORS(ロロピアーナ・インテリア)」は “古き良き時代への回帰” と、“アート志向” という2つの流れを融合。他に類を見ない独特な世界観に引き込まれていきます。
70〜80年代のアパートメントに着想を得て構築されたという空間は、最初は真っ暗で、ヴィンテージの映画館に入っていくような演出がされていました。



何が始まるんだろうという期待感の中、雨音やピアノの旋律が聴こえ始め、徐々に周囲が明るくなっていきます。何か五感を刺激されるようなインスタレーションでとても記憶に残る体験でした。
■Edra
最後にご紹介したいのは、ソファに使われる生地は糸1本から作るという、こだわりのあるブランド「Edra(エドラ)」。芸術的とも言えるデザインはクラシック、モダンを問わず、あらゆる空間と住まいに豊かさと独創性を与えてくれそうです。今回は鏡張りの空間でのコンセプチュアルなプレゼンテーション。コーディネート次第で実生活のシーンにも取り入れることができる、ラグジュアリーな家具です。7月、東京にショップがオープンするのでとても楽しみ。


さらに嬉しいサプライズだったのは、エドラが主催するスカラ座の特別演奏会にご招待いただけたこと。スカラ座を貸し切るとは流石です! 一旦ホテルに戻って正装に着替え、軽く食事をしていざ会場へ。


スカラ座は空間としても見所がたくさん。ホールの中はフロア席の他、天井に向かって壁沿いにたくさんのボックスシートがあります。昔はこの一つひとつのブースが名家の区分所有になっていたそう。それをミラノ市がまとめて購入し、現在の形になったのだとか。歴史的文化財とも言える建物を受け継いでいく姿勢には敬服するばかりです。
ミラノ・サローネ家具編はいかがでしたか。最終章では衝撃を受けた未知のブランド「Vincenzo de Cotiis(ヴィンチェンツォ・デ・コティス)」、アウトドアの展示が素晴らしかった「Flex Form(フレックスフォーム)」など、特に印象的だった展示をご紹介します。どうぞお楽しみに!