ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 _日本館④

「ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」にて考える、
持続可能な未来

2025.07.18

イタリア・ヴェネチアで2年に1度、開催される世界最大級の建築の祭典「ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展(以下、ヴェネチア・ビエンナーレ)」。2025年は建築家の青木淳氏が日本館(主催:国際交流基金)のキュレーターを務めました。この度BEARSはこの日本館の展示に協賛し、開会レセプションに参加。その模様や展覧会の様子をお届けします。

2025年の総合テーマは “Intelligens. Natural. Artificial. Collective”

ヴェネチア・ビエンナーレは1895年、イタリアのヴェネチアで現代美術の国際展覧会として始まりました。建築展は1980年から始まり、現在は美術展と建築展が隔年で開催されています。ビエンナーレは “2年に1度” を意味するイタリア語ですが、ヴェネチアでは毎年どちらかの展覧会を見ることができるのです。

ヴェネチア・ビエンナーレでは例年、展覧会の総合ディレクターがテーマを設定します。今年ディレクターを務めたのはイタリア出身の建築家でエンジニアのカルロ・ラッティ氏。同氏はこれまで『自然と人工の融合』をテーマに製作を行っており、2025年大阪・関西万博のフランスパビリオンや、2026年に開催されるミラノ冬季五輪の聖火リレー用トーチの設計デザインを手掛けたことでも知られています。

彼が掲げた総合テーマは “Intelligens. Natural. Artificial. Collective.(知性、自然、人工、共同体)”。さまざまなタイプの知性を動員し、ともに建築環境を再考することが呼びかけられています。ちなみに知性を英語の “Intelligence” ではなく “Intelligens” とラテン語綴りにしたのには、単語中に “gens(イタリア語で「人」)” を含ませることで、今日のAIやデジタル技術に縛られがちな視点を超えることを目的としているそうです。

「日本館」を手掛けたのは建築家・青木淳氏

ヴェネチア・ビエンナーレは各国を代表する建築家やアーティストがキュレーターとなり、パビリオンで展示を行う「ナショナル・パビリオン方式」を採用しています。2025年の日本館は建築家の青木淳氏がキュレーターとなり、家村珠代氏がキュラトリアル・アドバイザーとして参加。「In-Between(中立点)」をテーマとした作品を出展しました。

日本館の外観。ジャルディーニ内のパビリオンは常設されており、毎回同じ建物内で展示が行われる。

青木淳氏は今回の展示を『思考実験』と位置づけ “私たちが直面する2つの喫緊の問い、すなわち、気候危機のような実存的脅威の中で、私たちは世界とどのように関係を結ぶべきか、そして急速に進化するAIと、どのように関わっていくべきか、に応答しようとするもの(国際交流基金プレスリリースより引用)” と説明しています。国によっては取り組みを具体的に紹介する展示もあった中、日本館の展示は非常にコンセプチュアルで奥ゆかしさを感じるものでした。

BEARSはこれまで、イタリア・ミラノで開催されるインテリアの祭典「ミラノサローネ国際家具見本市」やスイス・バーゼルで開催される世界最大級の現代アートフェア「アートバーゼル」など、海外の展覧会を訪ねてきました。その中で生まれたご縁から今回、日本館の展示に協賛する運びに。様々な分野の第一線で活躍する他の協賛者の方々とともに、開会レセプションに参加しました。

日本館オープニングレセプションパーティの様子。写真右手に写っているのが青木淳氏。

環境問題と向き合う各国展示

他国のパビリオンに目を向けると環境問題について考察した作品が目立ち、持続可能な未来を創るため難題に正面から向き合い、解決していくために何ができるのかを真摯に考える姿勢が感じられました。

その年に出展したパビリオンの中で最も評価されたものに贈られる「金獅子賞」を受賞したバーレーン館では、地球温暖化問題への取り組みを紹介した作品を展示。バーレーンの伝統的な建築技法と最新のテクノロジーを組み合わせた猛暑への対応策が高く評価されました。

この日のヴェネチアは大変暑かった中、バーレーン館に一歩足を踏み入れると数段涼しく、訪れた人はみな心地よさそうに過ごしていました。温暖化への対策をわかりやすく “体感” できる点も受賞の要因と言えるかもしれません。

バーレーン館内の様子。日よけをつくる構造と地熱を活用した冷却装置によって、快適な空間を実現している。

ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展を訪れて

地球温暖化によってやがて水没すると言われて久しいヴェネチア。否が応でも環境問題を意識させられるこの地を舞台に、各国の建築家やアーティストが真剣にその問題と向き合い、未来の建築の在り方を問うからこその説得力がありました。

建物を建てる際に使用する砂や石の出所や、解体した際に発生するがれきの行く末に対して、私たちが深く考える機会はそう多くありません。しかしヴェネチア・ビエンナーレの展示は、その裏で地球を傷つけている可能性をありありと見せつけるものでした。いたずらに建物を壊して建て直すのではなく、今あるものを大切にしていく——BEARSが目指すべき方向性を再認識する旅となりました。

Text by Sayoko Murakushi
Edit by Sotaro Oka
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