「横浜美術館」がつくる、あたらしい市民の “居場所”
3つの理念の一体化
——リニューアルによって、より居心地の良い美術館へ変わったんですね。今後ここでどういった活動をしていきたいですか。
蔵屋:開館当初からの基本理念である『みる・つくる・まなぶ』が一体化したプログラムをもっと推進していきたいと思っています。
横浜美術館は、中央に「見る」ための展示スペース、右端に「子どものアトリエ」「市民のアトリエ」などの「つくる」施設、左端に「まなぶ」を担う「美術図書室」が設置されています。この三部門をしっかり連携させて、展覧会を「見る」だけではない、総合的な美術との出会いをサポートしたいと思っています。


蔵屋:具体的な取り組みとして、子どもたちがアトリエで作品を制作した後、展示室で鑑賞するプログラムに注力しています。自分で手を動かした後に他の人がつくった作品を見ると、子どもたちの反応はぐっと良くなるんです。それは大人も同じです。『美術ってどう見たらいいのかわからない』という方も、「つくる」経験を通じて作品の見方が変わるんです。こういったプログラムで人生が少しでも豊かになるのであれば、どんどん美術館を活用していただきたいですね。


——最後に、蔵屋さんにとって横浜市はどんなところですか?
蔵屋:先日とあるシンポジウムに参加した折に『横浜はグローバルヴィレッジだ』と仰った方がいて、なるほどと思いました。多種多様な人がいて、大都会の楽しみがありつつも東京よりのんびりしていて、皆さん優しいんですよね。人と人のつながりを築きやすいですし、“巨大な田舎” みたいな感じですごく居心地がいいんです。そういう街だからこそ、横浜美術館が市民のみなさんの居場所として成立しているのかもしれませんね。
——ありがとうございました。
いま、横浜美術館は、展示を観に来た人もそうでない人も、それぞれ思い思いに過ごせる心地よい空気に満ちています。都心から気軽にアクセスできるので、みなとみらいを楽しんだあと、ふらりと立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

蔵屋 美香 Mika Kuraya
横浜美術館館長 千葉県生まれ。美術大学で油絵を専攻したのち、大学院で美術史・芸術学を学ぶ。1993年より東京国立近代美術館に勤務し、同館美術課長を経て2016年に同館企画課長就任。数多くの展覧会を手掛けるとともに、2013年第55回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展では日本館キュレーターを務めるなど、国内外で活躍。2020年4月、横浜美術館第6代館長に就任。美大進学の理由は漫画家になるためだったとのことで、2021年には「暗☆闇香(くら・やみか)」のペンネームで漫画家デビューを果たしている。