世界一ハイエンドなメンズ誌編集長が見る最高級リノベーションの真価

2023.02.24

シンガポールに拠点を置く“THE RAKE”は、世界中で最も注目され愛されている、メンズ裕福層向けの“超”が付くラグジュアリー・ファッション誌です。日本版の編集長、松尾健太郎氏は、衣食住、車、カルチャーなどさまざまな分野の「本物」を長年見てこられた方。その松尾編集長が、BEARSがリノベーションを手がけた最高級物件に取材で来訪。実際に部屋をご覧いただいた後、ご自身の率直な感想を伺いました。

松尾編集長が訪れたのは市ヶ谷にある高級ヴィンテージマンション「クレストコート砂土原」。昨年(2022年)12月にフルリノベーションが完成したばかりのこの物件は、BEARSが現在、ごく一部の方だけに公開している特別な一軒です。偶然にも近くにお住まいだという松尾編集長は、意表をつく自転車での登場。 このエリアでは屈指の高級物件がどのようにリノベーションされたのか。興味津々な様子で部屋に向かわれました。


クレストコート砂土原

市谷砂土原町(いちがやさどはらちょう)に位置するプレミアムなヴィンテージマンションの一室。都心では希少な約260平米もの広さを生かし、パブリックエリアとプライベートエリアを完全に分けた贅沢で住み心地のよい間取りが実現しました。来客をおもてなしするおよそ75平米のリビングダイニングでは、上質な素材をふんだんに使用。高級物件を数多く手がける専門家が連携し、戸数の多い集合住宅では叶わない、この一軒だけだからこそ可能になる最高峰のインテリアデザインが施されています。

左上:リビングはミノッティのボリューム感のあるソファが主役。右上:大理石のおもてなしカウンター、ローズウッドの収納棚があるキッチンエリア。
左上:ベッド正面の大きな窓からやわらかな光が降り注ぐ主寝室。右上:抜けのある玄関ホールにはこの空間のために切り出した天然石がグラフィカルに配されている。

高級物件ほど素材が上質でデザインはシンプル

約260平米の広さがある「クレストコート砂土原」のこの物件。内覧がプライベートエリアからパブリックエリアへと進んだところで、松尾編集長が足を止めたのはリビングの大きな窓でした。向かいの個人邸との間には、大木が葉を茂らせ、まるでリゾート地の豊かな自然に包まれているような心の安らぎを感じさせてくれます。

向かって左が“THE RAKE” 松尾健太郎編集長。右がBEARS代表、宅間理了。窓の外を見ながら砂土原の町について話が弾む二人。

江戸時代に武家屋敷が建ち並んでいた市ヶ谷周辺は、今も矢来町や加賀町など昔の地名が残されている場所。明治時代には富裕層が住むエリアになり、現在では“知る人ぞ知る”高級住宅地として不動の人気を誇っています。

松尾健太郎(以下松尾):砂土原はこの辺りでも別格ですね。市ヶ谷のお堀の方から南の斜面にずっと広がっている土地で、東京に長く住んでいる人であれば聞けばすぐ分かる、泣く子も黙るような地名だと思います。このマンションは、まず立地的に見てもなかなか手に入らないのではないでしょうか。ただ築年数が30年以上、経っているので中はどうなのかなと思っていましたが、こういう内装にするとまた見違えますね。素晴らしいと思います。ちなみにBEARSさんのお仕事というのは、こういうマンションを仕入れて内装をリノベーションして販売される事がメインですか?

宅間理了(以下宅間):都心のなかなか手に入らないマンションや土地、ビルを買って、その物件の価値を高めて再生させることが私たちの仕事です。現代の“理想の住まい”を実現させるために、最高峰のインテリアコーディネートをしています。

松尾:僕は自分の住まいを何年か前に購入したときに、色々なマンションを見たのですが、安いマンションになればなるほど、内装が金ピカなんですよね。手すりがロココ調だったり(笑)壁紙もなんでこんな模様がついているんだろうと思うようなものが貼ってあったり。それが高級なところになればなるほど、デザインがどんどんシンプルになっていって、だけど使われている素材が良いという傾向がありました。こちらはデザインがシンプルでそれぞれの素材が選び抜かれているので、その点がとても素晴らしいし、羨ましいです。

プライベートエリアのシンプルでモダンな主寝室で。ディテールにも目を配る松尾編集長。

家具のコーディネートは素人では限界がある

最高峰のリノベーションを現実化したこの物件は、意匠に合わせて特別に切り出した天然石、数ある木材の中でも特に硬く希少価値の高いローズウッドなど、どの素材も厳選されたものが使われています。内覧が始まってから「素晴らしい」と何度も口にされていた松尾編集長に、特に印象に残った素材は何だったかお聞きしてみました。

編集部:素材で言うと大理石のカウンターもあるし、ローズウッドの収納棚や扉もありますが、何がお好きでしたか?

松尾:どれも素晴らしいですけれど、ひとつひとつがあまり強く主張してこない印象を受けました。全体をトータルな視点でコーディネートしているからだと思いますが、うまく落ち着いているなと。やっぱりプロでないとここまでの完成度は望めないと思います。BEARSさんのようにインテリアを全部コーディネートしてから家具付きで売っているのは珍しいですよね。

宅間:そうですね。欧米ではインテリアのコーディネートまでして初めて物件として評価されます。それが日本では、江戸時代の文化からの流れもあって、家具は重視されない傾向がありますね。ですので、もしインテリアが好きな方だったらいいものは集まるかも知れません。けれども、全体のバランスを俯瞰してデザインされていませんので、盛り込みすぎて引き算ができていなかったり、トータルとしていいものになっていないことが多いと思います。

松尾:本当に素人ではできないですよね。僕も北欧の家具が好きで、集めているのですが、バラバラに買った物をうまく組み合わせるのは難しい。どうしても素人の限界を感じてしまいますね。やっぱりプロの方に最初からこうグランドデザインをしていただいて作った方が正解だと思いました。

ローズウッドが贅沢に使われたダイニングエリアの収納棚。インテリアデザインを手がけたリブラスタイルの手塚由美氏から直接説明を受ける。

ウォークインクローゼットの広さは理想的

洋服のコーディネートに長けていらっしゃる松尾編集長が、家具のコーディネートで行き詰まったというお話はやや意外でした。では、服とインテリアのコーディネートで勝手が違うのはどんなところなのでしょうか。

松尾:インテリアは大きくいじれるものではないので、その点は洋服とは違いますね。ただ、共通しているところも多いと思います。それは基本的には上質で長く使えるものを揃えるところ。安物を買ってもぜったいダメなんですよ。クオリティの高い物を買ってそれを長く使うこと、シンプルなものをうまく組み合わせていくところがファッションとインテリアの共通項なのではないかと思います。

編集部:エントランス脇のシューズクロークやプライベートエリアのウォークインクローゼットはいかがでしたか。お洋服がお好きな方なら心を掴まれたのではないでしょうか。

松尾:あのシューズクロークが家にあればいいですよね。僕は靴が多すぎて困っているんです。50足くらいはあると思います。物って見られるところに置いていないと持ってないのと一緒なんですよ。ワードローブもきれいに見えていないと、うまく選べなくなってしまうから。ここのウォークインクローゼットなら広さもバッチリですね。今日着ているような仕立てのジャケットはある程度間を開けて吊るしておかないと、肩の丸みや襟のカーブの立体感が潰れてしまうんですよ。

エントランスを入ってすぐ、向かって右のローズウッドの扉がシューズクローク。50足ほどは入る広さだ。
プライベートエリアの自然光が入るウォークインクローゼット。同じサイズがもうひとつあるので、夫婦で使い分けることができる。

1着作るのに3年かかるジャケット

手持ちの服を最大限に生かすにはクローゼットのキャパシティが重要というお話が出たところで、ご自身のファッションのこだわりについて伺いました。

編集部:ちなみに今日着ていらっしゃるのは、どちらのジャケットですか?

松尾:コルコスと言うフィレンツェのテーラーのジャケットです。日本人が作っているんですけれど…

宅間:今一番注目されている、宮平さんですね。私も宮平さんのショールームに行ったことがあるんですよ。そのときは結局、宮平さんに頼まずに、フィレンツェの別のテーラーにオーダーしてしまって。宮平さんにしておけばよかったな。

松尾:彼は今、オーダーが来すぎちゃって、新規の顧客を取っていませんし、1着作るのに3年くらいかかりますよ。今もオーダーしているのですが、『もう1着頼むよ』と言ったら、採寸が来年末だと。まあ3年に1着くらいでちょうどいいのかなという気もします。オーダーの服を作る人は、この襟のカーブに命をかけているので。狭いワードローブにぎゅうぎゅう詰めにして、ぺっちゃんこにしてしまうと服が可哀想なんですよ。

都内ホテルにて、サルトリア コルコス店主、宮平康太郎氏より最終納品を受ける一コマ(“THE RAKE”誌より転載 撮影:小澤達也)
サルトリアの話題で思いがけず話が盛り上がった松尾編集長とBEARS宅間社長。この日の松尾氏は、コルコスのウールジャケットにスメドレーのポロシャツ、オーストラリア人デザイナーのイーサン・ニュートン手がけるブライスランズのダメージデニムというハイエンドでありながらラフな装い。

この内容でこの場所だったら…

話をファッションからインテリアに戻しましょう。服の専門家である松尾編集長が、ご自身のお住まいを決めるときのポイントは何だったのでしょうか。話題は、誰もが気になる物件の価格に移ります。

編集部:ご自身がお住まいを決めるときは何が一番決め手になりましたか?

松尾:僕ですか? ま、予算ですかね。(一同爆笑)ちなみに、ここはもう売りに出ているんですか?

宅間:今ここは一部の特別な方だけにご案内をしています。今回、松尾編集長にご覧いただいたようにショールームとして見ていただいて、BEARSがどのようなものづくりをしているかをしっかりお伝えしていきたいんです。販売するとなると価格は5億円台になります。これがもし港区の新築でしたら15億円、3倍くらいします。ただ内装はたとえばローズウッドや特別な石などの最高級の素材は使われていないですね。

松尾:それなら5億円台という価格は安いですね。こういったモデルルームや販売前の物件を見せていただく機会はこれまでもあったので、そこから想像するにこの仕上がりだと二桁億円かな、と思いました。この内容でこの場所だったら文句なしの価格だと思います。自分に買えるか、というのはまた別の話ですけれど。(笑)

宅間:ものだけではなく、そこの空間にいる人たちとか、流れる空気とか、保温性とか遮音性とかそういったこと全体が大切だと思っています。

リビングルームのミノッティのソファに座って。BEARS宅間社長をインタビューする松尾編集長

日本の富裕層は形成段階にある

物だけで豊かさは語れない時代になっているという話は、地球環境やサステイナビリティが世界共通の課題となって以来、ラグジュアリーの分野でも頻繁に語られるようになってきました。松尾編集長は日本の富裕層についての興味深い見解を“RAKE”誌に書かれています。

編集部:松尾編集長は『日本の富裕層は形成段階にある』というご意見をお持ちですが、その理由は何でしょうか。

松尾:海外では、親子代々にわたってずっとお金を持っていらっしゃる方ってある程度の層はいると思うのです。けれど、日本は戦後1回リセットされてしまった。それから70年以上経った今、二極化と盛んに言われているように、普通の人たちと一部の富裕層で明らかな差ができつつある。結果お金は持っているけれど『どう使えばいいかよくわからない』という人が多いように思います。

宅間:日本の方は、たとえばグルメにはとことん詳しいけれど、身につけるものには全然興味がなかったり。確かに偏りがある方が多いようにお見受けしますね。

松尾:反対に、海外の方はいい家に住んでいていい洋服を着ていて、いい車に乗っていて非常に教養がある。そういう方が多いなといつも感じます。

宅間:BEARSは現在、おかげさまで不動産とインテリアの分野で信頼していただけるようになってきました。今後はさらに、ライフスタイルをトータルでお伝えしていけるような存在になっていきたいと思っているんです。

松尾:日本の富裕層の方も、これからはきっと海外のようにバランスが取れた方が増えてくるんじゃないでしょうか。今後が楽しみですね。

いかがでしたか?

シンプルで上質な物を見分ける教養を持ち、それを上手く組み合わせるセンスとノウハウを磨き、長く使っていく。必要とあれば、一流の専門家の手を借りて理想を実現するためのお金と時間を惜しまない。最高峰のインテリアとメンズファッションの共通点には、これからの豊かな生活の指針が現れているのではないでしょうか。

DATA

松尾健太郎(まつお けんたろう)

THE RAKE 日本版編集長、クリエイティブ・ディレクター
https://therakejapan.com/tokyo/japan/

株式会社世界文化社にて、月刊誌メンズ・イーエックス創刊に携わり、クラシコ・イタリア、本格靴などのブームを牽引。‘05 年同誌編集長に就任し、のべ 4 年間同職を務めた後、時計ビギン、M.E.特別編集シリーズ、メルセデス マガジン編集長、新潮社 ENGINEクリエイティブ・ディレクターなどを歴任後、2014年より現職。THE RAKEで連載中のベスト・ドレッサーのインタビューに今回BEARS代表が登場。
『私のスカウターが大きく反応した:宅間理了さん』




宅間理了(たくま みちよし)

株式会社BEARS 代表取締役CEO
https://bearsinc.co.jp/

兵庫県出身。大学卒業後、不動産鑑定事務所へ勤務。その後、上京、不動産鑑定評価と税務会計のコンサル会社へ勤務し、投資銀行やサービサーの不良債権処理を担当。年間600件の不動産評価及び企業デューデリジェンスを行う。その後、信託銀行系不動産仲介会社に転職、入社半年で数々の首都圏の営業記録を樹立。2014年に、「AIとテクノロジーで、不動産業界にイノベーションを」をミッションとして株式会社ベアーズリアルエステート(現:株式会社BEARS)を設立。

Text by Kyoko Hiraku
Photos by Mitsuo Yamamoto, Fumiko Nakayama
         

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