住空間を手掛けるBEARSの新オフィス。丸の内でも歴史ある「明治安田生命ビル」との “ご縁” とは
2024年1月末、BEARSは新しいオフィスに移転しました。場所は、東京・丸の内の「明治安田生命ビル」。皇居を一望できるそのビルからの眺めは、都内でも屈指の美しさを誇ります。
創業10周年を迎えたBEARSは、なぜこの歴史的なビルを新たな拠点として選んだのでしょうか。代表の宅間へのインタビューを通じて、ビルとの “ご縁” や移転の背後にある “想い” に迫ります。
視線の先には皇居の緑。中層ならではの眺め
BEARSの移転先となった明治安田生命ビルは、国の重要文化財「明治生命館」と地上30階・地下4階の「明治安田生命ビル」から構成されています。
丸の内エリアは、江戸時代には武家屋敷が立ち並んでいましたが、明治維新を機に軍用地となり、その後1890年(明治23年)には三菱社によって開発が始まりました。西洋風の煉瓦造りの建物が並ぶ様子は「一丁倫敦(いっちょうロンドン)」と呼ばれ、近代都市を目指して活躍するビジネスパーソンが集う街となったのです。
明治から昭和初期にかけて「近代建築」といわれる建物が多く建てられた丸の内。ビルの老朽化が顕著となった2000年以降も、取り壊しをできるだけ避け、歴史的価値を持つ建物の保存を重視した再開発が進められました。明治安田生命ビルもその好例のひとつ。現在でも「明治生命館」では、戦後、GHQの対日理事会の会場となった会議室をはじめ、文化的価値の高い部屋が見学できるようになっています。
――BEARSのオフィスは、「明治安田生命ビル」の10階に移転をしました。皇居のお堀や外苑がすぐそばに迫り、緑が多く眺めに恵まれていますね。
宅間理了(以下 宅間):この10階という高さから見える眺めのよさに惹かれました。高層フロアだと、目線の高さで皇居の緑が見られないんです。
――同じビルでもフロアや部屋の向きによって眺めがかわりますね。創業10年、3カ所目となるオフィスですが、はじめに創業時のオフィスの話をうかがえますか?
宅間:私は不動産鑑定事務所と、不動産鑑定評価・税務会計のコンサル会社へ勤務した後に独立をしたのですが、当時はとにかく事務所として貸してくれるところだったらどこでもいい、という状況でした。創業時は何の信用もないので、なかなかオフィスを貸してくれるところがなかったんです。
創業は西新橋の小規模ビル
――マンションの一室を借りて事務所にする、というお考えはなかったのですか?
宅間:それはなかったですね。不動産を扱う者は、信用が何より大切なんです。マンションではなくオフィスビルに場所を借りる、ということが重要でした。
西新橋のとあるビルのオーナー様と知り合って、「実は起業したいんです」という世間話をしていたら、「うちのビルを使っていいよ」と言ってくださったんです。築年数も結構たっていて、エレベーターなしの5階という条件だったんですが、ありがたくお借りすることにしました。
――こちらに当時の写真がありますが、今の規模から考えるとこぢんまりしたオフィスですね。
宅間:私ひとりだけというスタートでしたから。机1台とコピー機、電話機だけではじめました。扱うものが不動産なので、交渉の舞台がどのような場所かというのは重要です。
ホテルのラウンジでもいいんですが、自分としてはラウンジで演出するよりも、小さいながらも自分の事務所、マンションの一室ではなくオフィスとして借りている場所があるということが、信用につながると考えていました。
でも、やはり小さな事務所だと交渉の場としてハンデを背負うこともあるんですよね。今はこの規模だけど、会社を成長させてもっと大きなオフィスを持てるようになりたい、という思いはありました。
――独立された喜びと、いつかこうなりたいという想いが、当時のオフィスには詰まっているのですね。
宅間:そうそう、この西新橋のビルの隣は、森ビル創業の地なんです。森稔さんが「森不動産」を始められて、そのビルの第1号が隣にあった。1955年に建てられたのでもう築70年近いぼろぼろのビルなんですが、解体されずに保存されているんです。森ビルの社員研修では、「ここが創業の地です」というふうに案内しているらしくて。
私が西新橋のビルを借りる決心をしたとき、そのようなことは知らなかったんですが、今思えば不動産に携わる者として感じるものがあったような気がします。
2カ所目のオフィスは帝国ホテルタワー。第六感とご縁がつないでくれた場所。
――2018年には、帝国ホテルに隣接する帝国ホテルタワーにオフィスを移転します。帝国ホテルタワーを選ばれたのはどうしてですか?
宅間:会社が大きくなって広いオフィスに移転したい、と考えていたんです。「いつかは誇れるようなオフィスビルに入居したい」という目標を持ってはいたんですが、帝国ホテルタワーを希望していたわけではなく。取り壊しも決まっていたので、大々的に募集もしてませんでしたし、そもそも入居したくてもそう簡単にできるビルでもありません。
――帝国ホテルタワーは帝国ホテルに併設されたオフィス棟で、東京のアイコニックな存在ですよね。
宅間:私の知り合いが何人か帝国ホテルタワーにオフィスを構えていたので、その事務所に足を運ぶ機会が何度もありました。雰囲気のよさはもちろんですが、「帝国ホテルタワー」というその場所が全国的にどこにあるのかわかりやすい名前を持っているという点が、先ほどの信用という面で大きな魅力だなと感じていたんです。
――帝国ホテルというと、名建築家フランク・ロイド・ライトが初めて建てたホテル建築だったり、開業のその日に関東大震災が起きたにも関わらず僅かな被害を受けただけにとどまった、という建築ファンにはたまらない建物です。そうした建築が持つエピソードにも惹かれたのですか?
宅間: いえ、私は「なんだかいいな」という感覚的に選ぶタイプでして。今回の明治安田生命ビルもそうなんですが、「こういう歴史があるから」といった情報や理屈でとらえるのではなく、直感で「いいな」と思ったものを紐解いていくとそういう歴史があった、という感じで。もちろん意思決定をする前には色々と調べますが、その結果が自分の直感と一致していると感じたとき、「ここにしよう」と決断をしてきました。先ほどお話したように、最初に借りた西新橋のビルの隣が森ビルの創業地だったというのも、同じことなんです。
宅間:帝国ホテルタワーとのご縁ですが、帝国ホテルは創業130年以上と歴史がありますし、迎賓館としての用途を持つ伝統的なホテルで、日本としても大きな意味を持っていますよね。どういう人たちがここに宿泊したのか、どのように使用したのかということを色々と調べていって。「ここで会社をやっていけるんだったら、社会的にも信用を得られるのではないか」と考えて、駄目もとで入居申請を出したんです。当時の会社規模では借りるのは難しいかなと思っていたんですが、おそらく先に入居していた知人たちの存在もあって、貸していただけたんだと思います。
創業10年目に、さまざまな希望が叶ったオフィスへ
――西新橋のビルに続いて、帝国ホテルタワーも人のご縁があったのですね。 取り壊しが理由で、5年しか入居できなかったことがもったいなく感じてしまいます。
「これまでビルを探したことはない」とおっしゃっていましたが、明治安田生命ビルはいかがでしたか?
宅間: このビルは探しました。帝国ホテルタワーの取り壊しが決まっていたので1年くらい前から探し始めましたね。場所はどこにするのが良いか、六本木、溜池山王、赤坂、渋谷と考えた結果、やはり丸の内に会社を構えることが信用につながる王道だと思いました。丸の内、大手町、八重洲で有名なビルは全て見ましたよ。ビルの設備も大切なんですが、このエリアで働く人たちの雰囲気っていいんですよ。
――確かに、かつて「一丁倫敦」と呼ばれ日本の近代化を進めた人々に通じる、いい意味での誇りを感じます。
宅間: はい、そういう意味でも丸の内という土地に惹かれました。次に、BEARSで働いてくれている社員にとって良い環境とはなにかを考えました。そのうちのひとつが眺望です。窓の外が隣のビルの壁ではなく心地のよい緑豊かな自然だというのは、人間として大切なことではないかと。そして、この歴史的なビルで働いているという誇りをもってもらいたいと考えて、素晴らしい眺望と歴史を持つ明治安田生命ビルに決めました。
――昭和の建造物として初めて国の重要文化財に指定された明治生命館、その隣に立つ明治安田生命ビル。BEARSが目指す不動産の姿と近しいものを感じます。
宅間: そうですね。私達は古い建物を安直に壊すのではなく、良いものは残し、修正が必要な部分には手を加えて蘇らせるという事業をやっています。その私達が過ごすオフィスがまったく異なる価値観を持つ場所だと、違和感を感じますよね。
私1人だけだったら、このような身に余る場所で会社をやる必要はないんです。共に働いてくれる社員の誇りや喜び、BEARSと取引をしてくださる方々への信用の場として、この場所を守りたいと思います。
――まだ引っ越しを終えてから3週間ほどですが、改めて、今このオフィスについてどのように思っていますか?
宅間:会社が成長しているなという実感する場所でもあります。同時に、もっと自分自身が成長しないといけないな、とも。
このオフィスは一部のインテリアや照明にオレンジ色のLEDを使用しているんです。夜、フロアの電気は消しても、このオレンジ色のLEDはつけたままにしているんですよ。
帰宅するとき外から見ると、ほかのフロアは白い電灯でオフィス然としているんですが、BEARSのオフィスはすごくいい雰囲気なんです。ささやかな話ではありますが、こうした「なんだかいいな」という感覚も大切にしていきたいと思います。
「古きをを訪ねて新しきを知る」「昨日から学び、今日を生きる」というモットーを掲げるBEARSにとって、先人が大切にしてきたこの歴史あるビルとの出会いは、新たな学びをもたらす貴重な“ご縁”となりました。後編では、このモットーに着想を得た新オフィスのインテリアデザインについて、詳しくご紹介します。
宅間 理了|Michiyoshi Takuma
株式会社BEARS 代表取締役 学生時代から不動産業界での起業を志し、不動産鑑定事務所、大手信託銀行系不動産仲介会社を経て、2014年に株式会社ベアーズリルエステートを設立。2021年株式会社BEARSに称号変更。