歴史の継承から生まれるコンテンポラリーな住空間「モルテーニ」

2024.05.10

モルテーニ(Molteni&C)は2023年のグループ売上高が約4億7,500万ユーロ(2024年4月末のレートで約799億円)、家具ブランドとして世界トップクラスの売上規模を誇るイタリアの総合インテリアブランド。その製品は「常に先進性に溢れ、ダイナミックにして精巧」とグローバルな評価を得ています。収納からキッチンまでをトータルに揃えたモルテーニ独自のハイエンドな世界観を、前後編に分けて詳しくご紹介していきます。

モルテーニ東京

モルテーニの創業は1934年。ミラノの北に位置する家具の街、ジュッサーノに木工家具の工房を開いたのが始まりでした。創業者は、現在のMolteni&C会長カルロ・モルテーニの父であるアンジェロ・モルテーニ。そう、モルテーニは90年間に渡りオーナー企業として一度も途絶えることなく、揺るぎないポリシーを貫いてきたブランドなのです。

1947年、モルテーニの従業員数は60人を超え、工房から工場へと急成長した。

日本では2010年にアルフレックスジャパンによる展開がスタートし、2015年には日本初の旗艦店をオープンしました。現在では東京と大阪に直営店を構え、ビジネス的にも好調と伝えられています。では、日本の顧客はモルテーニのどんなところに魅力を感じているのでしょうか。アルフレックスジャパンでモルテーニのブランドマネジメントを担当されている木原景子さんに伺いました。

これから6つのキーワードでモルテーニの世界をひもといていきましょう。

1.ハイエンドな総合インテリアブランド

高級感のある上質なインテリアを揃えて空間を作ろうとすると、一つ一つを異なるブランドからチョイスしていかなければいけないのが常です。この課題に明快な解決策を提示したのがモルテーニでした。

木原景子さん(以下、木原):モルテーニを気に入っていただく方の中には、家具や収納からキッチンまで、すべてをモルテーニでご購入いただく方が一定数いらっしゃるんですね。それが好調の理由としてひとつあると思います。

木原:その背景としては、2016年よりクリエイティブディレクターを務めているベルギー人建築家ヴィンセント・ヴァン・ドゥイセンの存在があります。モルテーニは以前、家具とキッチンを個別のブランドとして展開していました。それをヴィンセントが高いクオリティで統合し、トータルコーディネートを可能にしたのです。

クリエイティブディレクターのヴィンセント・ヴァン・ドゥイセン(写真:『Molteni Mondo』Rizzoli NY発行(2024) より、Jeff Burton撮影)

木原:モルテーニのショールームでは、家具という ”モノ” ではなく、家具やキッチンをコーディネートした “空間” をお見せしている。それをご覧になったお客様が「ここでなら自分が思い描く理想のインテリアが実現できる」という、安心感と信頼感を感じてくださっているのではないかと思います。

モルテーニ東京

ショールームの内装をそのまま自宅に再現することができる。
まさにこの点が、高価な家具の購入を検討しているお客様がモルテーニを選ぶ、大きなモチベーションとなっていると言えます。

2.“サローネ家具見本市” の立ち上げメンバー

1961年9月24日にミラノで初開催され、現在も大成功を収めている家具フェアー、ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)。創業者のアンジェロ・モルテーニはその発足に携わる事業家グループに加わっていました。

2024年のミラノサローネ会場の様子。

木原:木工家具の工房からスタートしたモルテーニは、着実に成長を遂げ、イタリア家具業界の中心的存在になっていたのです。モルテーニがブランドとして早い段階で成功した要因としては、インダストリアルデザインを確立させた点にあります。

木原:サローネはモルテーニが開発した新技術を発表する場でもあり、その一部は、ある一定の期間を経た後、オープンに提供されていきます。そのような形で業界全体の発展や進化を促進しているという側面もあります。

1990年のミラノサローネで使用されたポスターを撮影した『Molteni Mondo』 内の作品。(写真:『Molteni Mondo』Rizzoli NY発行(2024) より、Jeff Burton撮影)

最先端の技術で生産性を高め製品の質を向上させること。イタリア伝統の技術を守り継承していくこと。モルテーニはその両面に力を注いできました。イタリアの家具業界を牽引していくトップカンパニー。それがモルテーニなのです。

3.技術とデザインの粋を結集した“収納”

モルテーニは創業の当初から “建築” をベースにした空間づくりを重要視してきたブランド。そうした中で最初に取り組んだのが“収納”のデザインでした。その後、長きに渡って「最高級の収納と言えばモルテーニ」と言われ続けてきたほど、ブランドの核となっている要素です。

1955年にデザインされたドロワーチェスト
1990年代の広告写真。

木原:システムとして完成したモルテーニの収納は、素材の組み合わせで非常に広い選択肢があります。また、一般的な “作り付け” とは異なり、歪みやズレが生じないのも優れたところ。しかも解体して他の場所に移動することが可能です。

収納をオリジナルで作る建築家も多いですが、モルテーニを知ると『むしろここにオーダーした方が、やりたいことを実現しやすい』と、考えが変わると聞きます。プロが認める最高峰の収納は、モルテーニ最大の強みです。

モルテーニ東京

4.ブランドを支える技術開発

モルテーニの家具造りにおいて非常に重要視されているのが、先鋭的なデザインを実現するための技術開発です。その代表的な例として、収納のパーツや機構が挙げられます。

木原:モルテーニの収納の多くは、扉の蝶番や引き出しのハンドルが見えないデザインになっています。見えないことで得られる高級感には大きなこだわりがあり、そのための技術開発にはかなり力を入れています。

新作のキャビネット。パーツを見えないようにする、もしくは形状を美しくデザインすることで高級感を演出している。

木原:一般的には、蝶番などのパーツは専門のメーカーの既存の商材を使用するケースが多いと思います。そうすると、荷重の問題でデザインが実現できなかったり、他のブランドと似たデザインになってしまったりするんです。一方、モルテーニは他にはないデザインを実現させるために、パーツ自体も一から考え、製作しています。モルテーニには専門の技術開発チームがありまして、年間の売り上げの5%を毎年開発費に当てています。

イタリア ジュッサーノにあるモルテーニの工場

パーツ以外にも、 “仕組み” を見えないようにする機構や、収納のLEDライトが間接照明になる設置法など、綿密な試行錯誤を経て実現に至る技術は多岐に渡ります。モルテーニ製品の優れたデザイン性と高級感は、まさにここから生まれています。

5.90年間変わらないブランドのポリシー

現クリエイティブディレクターのヴィンセント・ヴァン・ドゥイセンを筆頭に、さまざまなクリエイターを起用して製品を生み出しているモルテーニ。

木原:著名なデザイナーが大変多いのですが、決定権を握っているのは会長のカルロ・モルテーニなんです。彼は発表するアイテムの1つ1つをチェックし、世に出す前の最終承認をすべて行っています。このような形でモルテーニは、オーナー企業として90年間、ブランドのポリシーを貫いてきました。

モルテーニ一家。自転車に乗っているのがCEOのカルロ・モルテーニ。(写真:『Molteni Mondo』Rizzoli NY発行(2024) より、Jeff Burton撮影)

木原:2003年からアートディレクションにも携わってきた建築家・プロダクトデザイナーのニコラ・ガリッツィアは以下のように語っています。『モルテーニはコンテンポラリーとは何かということを追求してきたブランドです。とても一貫性があり、今のプロダクトと昔のプロダクトがうまく融合して、空間に整合性をもたらしていることが、このブランドの優れたところです』

ジュッサーノにある「モルテーニミュージアム」。ブランドの歴史やポリシーが展示されている。

どれほど時代が変化しても、どんなに著名なデザイナーを起用しても、ことプロダクトにおいては100%モルテーニのアイテムであるという終始一貫した姿勢。その結果、過去のプロダクトと現在のプロダクトがいま、同じ空間にあっても “合う” という奇跡をもたらしました。それがこのブランドの奥の深さにつながっているのは間違いありません。

6.伝統の継承と革新

モルテーニを語る上で非常に重要なのが「伝統」と「革新」と言う2つのワードです。

木原:イタリアの建築は、後の世代に継承していくことを前提にして空間の構成というものが考えられています。それをインテリアブランドとして実行しているのがモルテーニです。

木原:「伝統の継承と革新」という考え方は、収納を核とした空間作りとともに、ソファや椅子などの “置き家具” にも反映されています。その代表的なものが、1920年代〜70年代に活躍したイタリアを代表する建築家でデザイナーのジオ・ポンティによる家具の復刻再製プロジェクトです。

モルテーニ東京にディスプレーされたジオ・ポンティの椅子。壁のアートピースと調和してモダンな空間が構成されている。

木原:ジオ・ポンティのデザインの多くは “製品” ではなく特定のプロジェクトに向けて作られた “作品” であり、広く世に広まったものではありませんでした。それをモルテーニが現代の技術力をもって、復刻、製品化をするプロジェクトを2012年に立ち上げました。「過去の遺産を未来につないでいきたい」という強い思いがここにも現れています。

モルテーニとのコラボレーションが発表された深澤直人氏(写真:『Molteni Mondo』Rizzoli NY発行(2024) より、Jeff Burton撮影)

さらに、最新の動向として注目を集めているのが、2023年に発表された日本人デザイナー深澤直人氏とのコラボレーションです。そこには一体どんな「伝統と革新」が織り込まれているのか。

次回の後編では、東京のフラッグシップストア「モルテーニ東京」を訪ね、モルテーニの“今”をご紹介していきます。

どうぞお楽しみに!

DATA

木原景子(きはらけいこ)

株式会社アルフレックスジャパン 
Molteni&C Brand Management

2015年株式会社アルフレックスジャパン入社。Molteni&C東京ショップスタッフ、同店副店長を経て、2019年より現職にてモルテーニブランドの国内展開やマーケティング活動に従事。現在は特に西日本エリアでの認知拡大に取り組んでいる。

Text by Kyoko Hiraku
Edit by Ryoga Sato
Photos by Eiji Miyaji
         

MAIL MAGAZINE

   

こだわりの住空間やライフスタイルを紹介する特集、限定イベントへのご招待など、特典満載の情報をお届けします。

JOIN US

ベアーズマガジンでは記事を一緒に執筆していただけるライターを募集しています。

   
ページの先頭へ戻る
Language »