再始動した世界的な家具の見本市、ミラノサローネへ

2023.07.28

インテリア好きならば一度は訪れてみたい、イタリア・ミラノで開催される「ミラノサローネ国際家具見本市」。コロナ禍の影響で4年振りの通常開催となり、待ちわびていた世界各国のインテリア関係者が集まりました。BEARS編集部も久しぶりに現地へ。そこで実際に『見て』『感じた』ことをお届けします。 

最新のインテリア情報を求めて

毎年4月に開催され、世界中から多くの人たちが訪れる「ミラノサローネ国際家具見本市 」(以下、ミラノサローネ)は、今年で61回目を迎える歴史あるイベントです。世界中に広がった新型コロナウイルスの影響で開催が見送られていたこともあり、通常通りの開催は4年ぶり。そのため、今年の来場者数は6日間で181カ国から30万7000人(2022年比15%増)となり、大いに賑わいました。

ミラノサローネという名称は実は通称で、正式名は「Salone del Mobile.Milano」( サローネ・デル・モービレ・ミラノ) 。「Salone (サローネ)」はイタリア語で展示会や見本市という意味で、日本では「ミラノサローネ国際家具見本市 」と呼ばれる、世界最大の家具・インテリアの展示会です。

その歴史は1961年までさかのぼります。イタリア国内で製造された家具やインテリア小物の輸出を促進するために見本市を開催したのが始まり。その後、各ブランドが世界観を差別化した展示を行っていくうちに盛り上がりを見せるようになり、1967年には国際的な巨大見本市へと成長しました。 

1998年からは、事前審査を通過した若手デザイナーによる自主展示会場が設けられます。以降、プロのデザイナーとしての登竜門的存在となっていることもあり、世界中のインテリア関係者が注目するイベントのひとつとなっています。

日本でインテリアに携わる人も必ずと言っていいほど足を運ぶミラノサローネですが、なぜそれほど重要な場として認識されているのでしょうか。それは 、イタリアが長年にわたり家具のデザインや製造で世界をリードしてきたことが大きな理由です。特にミラノサローネでは最新の情報を得られるため、毎年多くの人が訪れるのです。

とはいえ、日本でミラノサローネが知られるようになったのは、ここ数十年ほどのこと。以前は、輸入家具メーカーのバイヤーたちが、商品を仕入れるために新作発表を見にいく場でした。その後、インテリアデザイナーをはじめ、デベロッパーや建材メーカーも、最新のトレンドを求めて足を運ぶようになったのです。

心地よい住まいづくりを提案するBEARSとしても、インテリアの最新動向は気になるところ。弾丸で視察に行ってきました。

トレンドがないことがトレンドへ

ミラノサローネは、ロー・フィエラ本会場を中心に、街中のショールームからミラノ近郊エリアまで、幅広い範囲で開催されます。広大な敷地にある本会場は8つのエリアに分かれていて、すべて合わせると東京ドームが約9個も入る広さ。メインエントランスからバスで会場内を移動することにも驚かされます。期間内ですべてを見ることは不可能に近く、見たいものやテーマをしぼり、事前に内覧予約をするなど効率的にまわるのがコツ。私たちも事前に入念な計画を立てて可能な限りのブランドを視察したところ、毎日2万歩以上も歩いていました!

ミラノサローネには最先端のデザインや素材が集まるため、その年のトレンドを把握できることが魅力のひとつ。ですが今年は、はっきりとしたトレンドは感じられませんでした。これは、インテリアのデザインや趣向が多岐にわたってきていて、一言では言い表せないような円熟期に入ったからだと考えられます。一過性のトレンドに振り回されることなく、受け手が自分なりに解釈したものがトレンドになるのかもしれません。

その中でも多くのブランドで目を引いたのが、色使いと天然石の磨き具合。カラーは、淡いグリーンやブルー、ピンクやテラコッタ色がアクセントに使われていました。天然石は、以前は磨かれたものが主流でしたが、今年はマット仕上げのものが目立っていました。
そのほか、テラスなどで使用するアウトドア家具の提案が多かったことも印象的でした。ただ、これらは各メーカーが示し合わせているわけではなく、“今のムード” なのだと思われます。そういうものを体感できるので、ミラノサローネに足を運びたくなるのでしょう。

マット仕上げの石を使ったテーブルに、テラコッタカラーの椅子がコーディネートのアクセントに。

照明の多様性も特筆すべき点です。意匠性に優れた大きなペンダントライトなどの “デザイン照明” と、技術的な光を演出する “テクニカル照明” の2方向で進化していることがわかる展示になっていました。
デザイン照明は、シャンデリアという伝統的な製品にLED光源を用いるなどの現代の技術やモダンなデザインが落とし込まれていて、現代風に進化した照明が多く見られました。

チェコ共和国の照明ブランド「bomma」の現代的なキューブ型の照明。

テクニカル照明も訪れた人々の注目を集めていました。音楽とデザイン、光が融合しているものなど、デザイン性だけではなく照明の技術そのものが進化していることを体感できました。

チェコの照明ブランドPreciosa Lighting (プレチオーザ・ライティング)の 「Crystal Beat (クリスタル・ビート)」という作品。音楽、デザイン、光が完璧なシンフォニーとして融合したインスタレーション。

空間とマッチするインテリア

ミラノサローネ開催期間中は本会場以外に、市内にある各ブランドのショールームで特別な展示がされていることも特徴のひとつです。建物も含めた空間全体で世界観を提案しているため、本会場のブースとは異なる雰囲気が楽しめました。なかでも印象的だったブランドをご紹介します。

POLTRONA FRAU(ポルトローナ・フラウ)

1912年創業のイタリアを代表するラグジュアリーな家具ブランド「POLTRONA FRAU」。上質な皮革を使用し、高級車や旅客機などのシート、ホテルの内装も手掛けています。
今回の展示では、木の質感と加工に優れた家具ブランド「CECCOTTI COLLEZIONI」(チェコッティ・コレツィオーニ)と共同でつくった初めてのコレクション「DUO COLLECTION」も発表されました。リビング用として、やわらかなフォルムのレザーやファブリックを使用したソファや、ローテーブルなどの高級木製家具が展開されています。
この展示の魅力は、ショールームの空間と家具とがマッチしていたこと。実はこの場所、以前別のブランドが入っていました。しかし、そのブランドのテイストと歴史を感じる空間が合っていない印象を受けていました。それが今回の「POLTRONA FRAU」の展示では、壁画が描かれた大きな空間に家具が似合っていて、ブランドの世界観が一層伝わる空間になっていたのです。

「DUO COLLECTION」のソファーセットとラグマット。レトロな雰囲気のシルエットはイタリアの「甘い生活」からインスピレーションを受けている。大きなソファと壁画が描かれている歴史を感じさせる空間がよくマッチしている。


PROMEMORIA(プロメモリア)
「PROMEMORIA」は、19世紀、貴族の馬車の製造から始まり、アンティーク家具の修復を経て、家具のデザインを始めた最高級家具ブランドです。
重厚な造りと雰囲気のため日本ではあまり多く使用されていないブランドですが、ミラノの作り込まれたショールームで見るとその重量感がマッチしていました。天井の高さや部屋の広さだけでなく、壁の色から家具、小物まですべてがコーディネートされています。部屋全体のバランスが取れていることで家具は引き立つということが見事に体現されていました。
ちょうどショールームを内覧中に、創業者のロメオ・ソッツィ氏にお目にかかれるというサプライズも。こんな体験ができるのも、ミラノサローネに行く醍醐味と言えるかもしれません。


BAXTER(バクスター)
厳選された地域で育てた牡牛の皮のみを使用し、その上質なレザーでソファーブランドとしての地位を確立してきたブランド。ミラノ市から電車で1時間ほど、リゾート地として知られるコモ湖畔のヴィラを利用してプレゼンテーションをしたのが「BAXTER」でした。
3階建てのレジデンスに加え、離れやプールなどもある贅沢な空間を全て使用し、ブランドイメージの洗練された空間を表現しています。イヴ・サンローランが愛したモロッコの「マジョレル庭園」からインスピレーションを受けたそう。
古い建物の天井、階段、手すりなど構造すべてを活かしながらスタイリングすることで、もともとの空間や景色も含めて新鮮に魅せていました。部屋の壁は、壁紙ではなくすべてペインティング。インテリアに使われた色のカラーパレットになっているような壁もあって、遊び心を感じます。水回りにカーテンを取り入れるのもヨーロッパならではですね。


■日本のブランド
日本のブランドが賑わっていたことも誇らしかったです。BEARSともご縁のある「Time&Style」は、ミラノ市内に単独でショールームを構えていて、多くの人が訪れていました。「Time&Style」のアイテムが、「De Padova」(デパドヴァ)で扱われていることも嬉しいことです。「De Padova」は、巨匠「ヴィコ・マジストレッティ」など多くのデザイナーとコラボレーションするなど、1956年創業以降イタリアのモダンスタイルを牽引してきた家具ブランド。日本のプロダクトが、イタリアで認められていることを実感できました。
家具ブランド「Ritzwell」(リッツウェル)も本会場の中心にブースを出展し、照明メーカー「Ambientec」(アンビエンテック)は世界中で人気だそう。今後、日本のインテリアメーカーが世界にもっと知られていくだろうという期待感で胸が高まります。

ミラノにある「Time&Style」のショールームも大盛況だった。

“立地” “建物” “インテリアデザイン” の大切さ

いまやインターネットで調べられないことはない時代ですが、やはり現地に足を運ばなければわからないことがあると感じた4日間。心地良い空間とは、“由緒ある立地”と “設計や施工にこだわってつくられた建物” がベースにあり、そこにインテリアのデザインやスタイリングが加わってこそ感動が生まれるのだと、あらためて感じる機会になりました。
それはイタリアだからということではなく、日本でも実現可能なこと。部屋の中だけでなく、どこに建っているのか、どんな建物なのかも重要な要素。そのうえで、内装のデザインや家具、照明、小物までをトータルで選ぶことで、すべてが調和した理想の住まいになるのではないでしょうか。ミラノサローネで受けたさまざまなインスピレーションを活かして、今後も豊かさを感じる住空間づくりを目指して行こうと気持ちを新たにした今回の訪問でした。

Text by Miho Sasaki
         

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