審美眼を持つ人々の深い愛によって醸成される街「自由が丘」

2025.04.18

東急東横線と東急大井町線が交差する場所に位置し、おしゃれで洗練された街というイメージが強い自由が丘。話題のグルメやファッション、インテリアショップだけでなく、昔ながらの個人商店が残る多様性のある街です。そんな自由が丘で英語塾を運営されている斉藤 淳さんに街の魅力を伺いました。

「自由が丘」という地名が生まれたのは1927年。教育者である手塚 岸衛(てづか きしえ)氏が自由主義教育を目標に掲げ、現在の目黒区南部に位置する荏原郡碑衾町(えばらぐんひぶすままち)に設立した「自由ヶ丘学園」が由来とされています。

自由ヶ丘学園の幼稚園と小学校の理念を引き受け創設されたトモエ学園跡地に建てられた記念碑。

当時の駅名は九品仏(くほんぶつ)駅でしたが、1929年の目黒鎌田電鉄(現東急)と田園都市線(現大井町線)の開通で、九品仏の寺院により近い場所に現九品仏駅が開設されることになりました。

それに伴って改称が必要になり、新しい駅名は衾(ふすま)駅に内定していたそう。そんな中、日本のモダンダンスの創始者である石井漠氏をはじめとする住民の強い要望で「自由ヶ丘駅」になったのです。

1961年、自由が丘駅前広場に建てられた「蒼穹(あをそら)の像」。

その後、自由ヶ丘は地名としても浸透していき、1932年の「衾西部耕地整理」の換地に合わせて、「碑衾町自由ヶ丘」(同年10月より東京市目黒区自由ヶ丘)に。戦時中は “自由” という言葉がふさわしくないという声もありましたが、住民らは「自由ヶ丘」という地名を守り通したそうです。

「自由ヶ丘」と「自由が丘」どちらの表記が正しいのかも気になるところ。1965年の住居表示の変更に伴って改称されたそうで、現在の正式表記は地名も駅名も「自由が丘」になります。

街歩きが楽しい都内有数のショッピングタウン

センスのいいショップが建ち並び、のんびりショッピングを楽しめるところが幅広い世代に支持されている自由が丘。今回お話を伺った「J PREP 斉藤塾」代表の斉藤 淳さんも、学生時代から自由が丘に魅せられた一人。どんなところに惹かれたのか、今と昔の違いなども伺いました。

「J PREP 斉藤塾」代表の斉藤淳さん。

――「J PREP 斉藤塾」を開塾したのは2012年とのことですが、それ以前も自由が丘とは縁があったのでしょうか?

斉藤淳さん(以下、斉藤):大学生・院生のころは、自由が丘によく遊びに行っていました。現在は無印良品になっている建物は「L.L.Bean(エルエルビーン)」のショップが入っていたり、アウトドアウェアを買いに行くことが多かったですね。渋谷や新宿と違って大きな街じゃないからこそ、居心地が良かったんです。

かつてL.L. Beanがあった通り。全長1.6kmに渡って伸びる「九品仏川緑道」の両サイドにはショップが建ち並ぶ。

斉藤:銀座とか表参道みたいな高級店ではなく、個人店を経営している目利きの人が選んだ、ちょっと贅沢で良いモノが手に入るというのが自由が丘です。

――そもそもなぜ自由が丘で塾を開こうと思ったのか教えてください。

斉藤:もちろん学生時代から馴染みのある街ということも決め手になりましたが、やっぱりマーケティングですよね。学習塾が多く、教育熱心なご家庭も多いと聞いていたので。また国内外から色々な人が集まる渋谷と違って、自由が丘に住んでいる人が通わせるという安心感もありました。こぢんまりとした街ながら、良いモノを選ぶ目を持った人が集まっていることからも、自分が始める事業と相性がいいという直感があり、ここで起業したという感じですね。

石畳の路地裏にはセンスの良いショップが軒を連ねる。

ゆっくり進化しているところが自由が丘の魅力

――長い間この街を見てきた斉藤さんだからこそ感じる、今と昔の違いはありますか。

斉藤:だいぶ減ってしまいましたが、自由が丘周辺は意外と葡萄畑が多いんですよね。タワーマンションが並ぶ都市風景ではなく、世田谷郊外の昔の面影も残っています。東京大空襲の被害に遭わなかったエリアでもあるので、道も狭くて雑然とした風景や趣も感じられる。戦後の闇市の名残があるエリアとおしゃれに作られているエリアが混在しているところも面白いんです。昭和・平成・令和と、時代の波に洗われながらゆっくり進化している街ですよね。

戦後、闇市の跡地に開業した「自由ヶ丘デパート」。レトロな風貌を残しつつ、現在も個性豊かな個人商店が入居している。

――そういったことって、買い物に来るだけでは気づかないですよね。

斉藤:そうですね。自由が丘に根を張っているからこそかもしれません。ちなみに今後は駅前に高層の複合施設ができるそうですよ。そういった都市のダイナミズムと昔の面影を融合させると、どんな化学反応を見せるのか。今から楽しみですね。

2023年には商業施設「JIYUGAOKA de aone(自由が丘 デュ アオーネ)」がオープン。

――自由が丘は全体的に建物が低いイメージがあるので、高層ビルができるとは驚きです。

斉藤:それができることで街の風景も住む人も少しずつ変わるかもしれません。でも、基本的には一軒家が主体だと思います。駐車場付きの大きな住宅、少し歩けば道も広くて大型犬の散歩もしやすい。奥沢や田園調布、緑ヶ丘周辺は特にその傾向が強いですよね。都市型のタワーマンションで暮らしたいという方は『綺麗な夜景を楽しみたい』とか、求めるものがまた違う。そういう意味で自由が丘は、『家族ともペットとも暮らしやすい』いい街であり続けると思います。

――子育て環境についてはどう思われますか?

斉藤:のびのびと子供が育つ環境という意味では、ものすごく良いと思いますよ。あと、他の街に比べるとおっとりしたお子さんが多いかもしれません。自分の好きなものやことを追求しようとしている印象です。同級生に対しても思いやりの気持ちが強く、自分だけが良ければいいのではなくて、互いに尊重し合っているなと感じますね。

――それは街の雰囲気なども関係しているのでしょうか。

斉藤さん:少しは関係しているかもしれませんが、とにかく大人たちが常識を持ってしっかりされているんですよね。すごく仲が良いとかではなくても団結力があります。『自由が丘はこういう街だから、こうしていきたい』という共同体意識を持っている印象です。人も街も成熟しているという感じでしょうか。

――自由が丘は “東京だけど東京すぎない”、まるで地方都市のような感じもします。

斉藤さん:“東京の最も有力な郊外” という感じですよね。住まいと商いがほどよく混在している心地良さが魅力じゃないでしょうか。適度に不便なところもポイントだと思っています。電車の便はいいですが、東急東横線と東急大井町線が交差するがゆえに街歩きの時は線路に阻害されて不便という側面もあります。車で行き来しようとしても立体交差になっていないので、踏切で結構待たされるんですよね。でも私はそれが逆に良いと思っています。踏切で立ち止まることで色々と物思いに耽ったり、そういった “人生の余白” って意外と大切だと思うんです。この不便さを肯定的に捉えられる生き方をしたいなって思いますよね。

東急東横線と大井町線の踏切は立体化の計画が進行中。お馴染みの景色も近年中に見れなくなりそう。

―― “人生の余白” 素敵な言葉ですね。続いて斉藤さんが気に入っているスポットを教えてください。

斉藤:「九品仏 浄真寺」まで続く九品仏川緑道は、のんびり歩くと気分が良いので好きですね。桜の季節も綺麗ですし、私のパワースポット的な存在になっています。

レストランも色々と行きつけがありますが、小腹が空いたときに伺うのが「大山生煎店」です。鉄鍋で焼き上げた小籠包が名物なんですよ。

斉藤:自由が丘は私の純粋な故郷ではないので地元の人におすすめを聞いたりもするのですが、70年近く住んでいる方に教えてもらい気に入っているのが「すし屋の磯勢」。隠れ家的なお寿司屋さんで美味しいですね。

1975年創業「すし屋の磯勢」黒塀が特長の趣のある佇まいが魅力。

斉藤:スイーツなら「カフェ モーツアルト 自由が丘店」のモンブラン。マロンクリームがうず高く盛られ、栗本来の味がして一度食べると病みつきになるはず。かなりおすすめです!

―― 最後に斉藤さんにとって、豊かな暮らしとはどんなものか教えてください。

斉藤:幸せに人生を全うする人たちに共通する要素はなにかと、さまざまな研究が行われています。結果、“経済的な豊かさ・社会的な地位・安定的な人間関係” という3つの要素の組み合わせが重要だと言われています。私はすべてを網羅する必要もないと思います。2つの要素があれば、それなりに幸せに生きられるのではないでしょうか。家族と一緒に快適な住環境で、経済的な豊かさも享受する。どういったカタチで社会と関わるかはその人次第ですが、その2つをしっかり実現できるという意味では、自由が丘はすごく良い街だと思いますね。

常に『住みたい街ランキング』の上位に入り、幅広い世代に愛されている自由が丘。2026年夏には駅前に地上15階建ての商業施設が開業する予定があり、今後は街の雰囲気が大きく変わるかもしれません。それでも自由が丘は住民たちの深い愛によって、これからも自由が丘らしくあり続けるような気がします。

Text by Kyoko Chikama
Edit by Saori maekawa
DATA

斉藤 淳 SAITO JUN

J PREP斉藤塾 代表 元衆議院議員や元イェール大学助教授などさまざまな顔を持ち、2012年には「J PREP斉藤塾」を開塾。著書に「アメリカの大学生が学んでいる本物の教養」(SB新書)、「ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語」(ダイヤモンド社)などがある。

J PREP斉藤塾

「話す・書く・読む・聞く・考える」という5つの技能が身につく、世界に通ずる英語塾として評判の「J PREP斉藤塾」。中高生に加え、現在はオールイングリッシュの保育園や学童保育、小学生向けのプログラムも展開している。

この記事をシェアする

MAIL MAGAZINE

   

こだわりの住空間やライフスタイルを紹介する特集、限定イベントへのご招待など、特典満載の情報をお届けします。

JOIN US

ベアーズマガジンでは記事を一緒に執筆していただけるライターを募集しています。

   
ページの先頭へ戻る
Language »