いい街にはいい店が集まる「恵比寿」

2023.09.01

恵比寿はさまざまな飲食店が集まるグルメな街。都内近郊であればどこからでもアクセスしやすいので、恵比寿で会食した事がある方も多いのではないでしょうか。では、この街の“通”はどんな店に通っているのか。 恵比寿に長く住まわれている方におすすめの店をご紹介いただきました。

“いい店” は駅から離れたところにある

今回、恵比寿の “いい店” をご紹介いただいたのは、恵比寿在住歴約20年のTさん。街づくりの事業に携わり、月の半分は仕事のために東京以外で過ごす40代の会社経営者の方です。仕事柄、会食の機会が多いのが恵比寿の飲食店に詳しい理由のひとつ。また、出張から戻った際には地元のほっとできるお店に必ず足を運ぶため、お気に入りのお店が増えていったそう。赤ちょうちんから三ツ星レストランまで幅広いジャンルの食事とお酒を楽しんでいらっしゃいます。

――最初に、なぜ恵比寿に長く住んでいらっしゃるのか。理由をお伺いできますか。

Tさん(以下T): 恵比寿はおしゃれな街だと思われているようですが、住んでいる側からすると、20年経ってもあまり変わらない安定的な街です。すごく居心地がいいんですよね。特にJR恵比寿駅の東口から「恵比寿ガーデンプレイス」に向かって坂になっているエリアは、店が密集している駅前からちょっと離れると、とても落ち着いているんです。ここを知っている人しか、来ない場所なのも気に入っています。

――20年間で変わったところは何かありますか?

T:いい店であればそれが駅から遠い場所にあっても、わざわざ足を運ぶようになりましたね。たとえば、ガーデンプレイスの近くの「ビール坂」にあるお店で会食をセッティングすると、以前は『遠いね、ここ』と言われることが多かった。でも最近は、みなさん何も言いません。駅からもっと遠い所にもいい店がたくさんできてきたので、誰も『遠い』と言わなくなりました。

ガーデンプレイスの敷地の道を挟んだ向かい側、加計塚小学校に隣接した交番から下っていく坂が通称“ビール坂”。現在のサッポロビール本社の場所にあった工場からビールを出荷するのに使われていたのでこう呼ばれている

選択肢が多いのが恵比寿の良いところ

――近隣の代官山、中目黒も人気のある飲食店がいろいろあると思いますが、恵比寿との違いはどんなところにあると思われますか?

T:恵比寿は他の場所と比べて、程よく選択肢が多い。“気の利いた店”がバランスよくあって、バリエーションも豊富な気がしますね。

――それは嬉しいですね。

Tさんおすすめの店をコメントとともにご紹介

飲める蕎麦屋
板蕎麦香り屋は20年くらい通っているお店。飲める蕎麦屋の先駆的存在です。新人の頃、会社の先輩に連れて来てもらった思い出深い店でもあります。当時は『蕎麦屋で飲むって良いですね』と、目から鱗でした。

ファンが多い隠れ家イタリアン
フレーゴリはイタリアン。馬肉のカルパッチョが絶品です。ここは、駅から遠いのに、いつもいっぱいです。わざわざお客さんが来るのは、その店が好きだからじゃないですか。狭い場所に、この店が好きな人が集まっているのでいつ行っても雰囲気がいいですね。

恵比寿ならではの高感度な居酒屋
ととやは居酒屋ですが、僕が恵比寿で一番魚がうまいと思っているのがここ。盛り付けが繊細で美しく、高感度なのが他にはない良さです。ランチで利用する事も多いです。

看板のない和食店
創和堂ここは、30代の若いシェフがオーナー。それもあって20〜30代の若者から『恵比寿で格好いいところ行きたい』とリクエストされたときに連れて行くと、みんな『素敵ですねここ』と目を輝かせます。手前にバーカウンター、奥には個室もある。通好みのおしゃれな店です。

最高峰のフランス料理
ガストロノミー “ジョエル・ロブション”エグゼクティブシェフ(総料理長) の関谷健一朗さんが昨年(2022年)、日本人シェフで初めて『M.O.Fフランス国家最優秀職人章  (Meilleur Ouvrier de France)』を受賞されました。ますます予約が取れないと思います。

NY発の高級ステーキ
ピーター・ルーガー・ステーキハウス東京2年ほど前にガーデンプレイスにできたニューヨークのステーキレストラン。アメリカンステーキの高級店の走りです。ここは今とても人気で、僕の知り合いはみんな行っています。

個性豊かなバーが揃う
『飲みたいな』と思った時に足が向くバーが何軒かあります。【MARTHA】はレコードを聴きながらウィスキーを味わえるバー。【BAR ROTA】はりんごのブランデー「カルバドス」が看板ドリンク。飲食店の人たちが仕事上がりによく飲みに来る店です。(※写真はMARTHA)

見晴らしの良いタイレストラン
Longrainはオーストラリアで人気のあるタイ料理のレストラン。パンケーキで有名になったオーストラリアの「ビルズ」を日本で出店した「トランジット」が手掛けています。場所がガーデンプレイスタワーの39階なので、景色がいい。僕は恵比寿の街の仕事をお受けすることもあるんですが、ここで打ち合わせをすると街全体が見渡せるのもすごく良い点です。

T:僕にとってのいい店は料理や店の雰囲気もありますが、オーナーの人柄も重要なんです。どの店のオーナーとも親しいですが、その日の気分で行く店が変わりますね。

地元のフランス人が通うビストロ

Tさんおすすめの恵比寿のいい店はまだまだたくさんありますが、その代表としてビストロ【le lion】のオーナー、須田 任(すだつとむ)さんにも加わっていただき、お話を伺いました。

――【le lion】はどんな料理を出すお店ですか?

須田 任さん(以下、須田):オーセンティックなビストロ料理とフランスワインの店です。人気があるのはパテや、シャルキュトリーというお肉の盛り合わせ、リエットですかね。今はモンサンミッシェルのムール貝が季節です。

T:海外の方もよく見かけるよね。

須田:フランスの方にとっては故郷の味ですからね。

T:【le lion】はどんな場面で行っても楽しめる店。仕事の会食でも、2軒目で行っても、友人とカジュアルに飲むのでもいい。恵比寿は意外にテラスのある店が少ないから、テラス席があるのも魅力なんですよね。

日が暮れると明りが灯る人気のテラス席

――こちらは、いつから恵比寿にあるんですか?

須田:2006年からです。私はずっとフレンチの世界にいまして、独立して初めて開いた店です。

――須田さんが恵比寿を選んだ理由は何でしょうか。

須田:山手線の中の他の駅と比べて住んでいる方が多いし、仕事でここに通われる方も多い。にもかかわらず雑多な感じがなく、落ち着いた街だったというのが理由です。恵比寿は街も人も着飾らず、無理していない感じがします。

須田:恵比寿にお住まいのお客様は全体の3割くらい。年配の方が多い気がします。若い時にいろいろな経験をされていて、よくフランス料理をご存知の方も多いです。が、フランス料理を全然知らない常連さんもたくさんいます。イタリア料理のバリエーションくらいに思っている(笑)。

T:僕はよくカウンター前に立って飲んでいます。顔を出して一杯だけ飲んで帰ることも多いですよ。一人で来られる店って貴重ですよね。いい距離感で話しかけてくれたりほっておいてくれたり。

――「永い言い訳」の映画のポスターが貼ってありますね。

須田:映画のワンシーンをここで撮影しました。西川美和監督が脚本を書く時にうちを思い浮かべながら書いてくださっていたので。僕も出たんですよ。顔半分くらい(笑)。

シャンパンに氷を入れてもOK

――近隣のお店の方との繋がりはありますか?

須田:行きつけの店が3〜4店あります。オーナーがみなさん自然体で、居心地が良いです。それぞれ自分の世界があるので。お店もゆとりがあります。

――それはお客さんがそうだからですかね。

須田:そう思います。お客様にゆとりがあるから、こちらも持てるんです。こちらが持てれば、お客様もそうなるし。

――恵比寿で長くレストランを経営されてきた須田さんが考える “豊かさ” はどんな事でしょうか。

須田:自分らしく自然にいることが豊かさなのかなと思います。ワインで言うと『白が好きだからただ白』と頼むのはすごくいいですよね。あんまりわからないけれど、でも白ワインが好き。たとえお肉でも『白ワインが飲みたい』と言うのも自分らしさだし。頑張らない方が豊かな気がします。

――相当、肩の力が抜けていますね。

須田:私の店だったらお客様がシャンパンに氷を入れたっていいと思います。若い頃は美味しくなくなると思っていましたけれど。他の店では『それをやっちゃいけないよ』と言われるかもしれません。考え方はそれぞれですから。うちは “シャンパンに氷” もOKです。

T:自分らしくいられるのは、お客さんだけではなく“お店の側も自分らしくいられる”のが大事かもしれませんね。だからこそ、お互い居心地良くいられるんだと思います。常連でも初めて来た人でも、会食でもひとり飲みでも。そうして残って行く店がいい店になって行くんじゃないですかね。

――『ここはいい店だ』と思って通うお客さんがいるという事ですよね。

T:そうですね。恵比寿に行ったら誰もが『絶対ここへ行かなくちゃ』という店は、実はそんなにない気がします。恵比寿は僕にとってのいい店があり、別の人にとっては他に好きな店がある場所なんです。そういう店が、それぞれ残って行くから、恵比寿は“いい店”の選択肢が多いんじゃないかと思います。

壁に貼られたポスターは、2009年に行われた店のイベントのためにスタッフが描いたもの

Tさんと須田さん、恵比寿をよく知るお二人に伺った “恵比寿のいい店” の深いお話、いかがでしたか。誰もが知る有名店もありますが、自分好みの居心地の良い店が見つかるのが恵比寿の真の魅力。いい店との出会いは、そこにいる人との出会いでもあります。そんなお店を探しに恵比寿に出かけてみるのも楽しいのではないでしょうか。

DATA

須田 任| Tsutomu Suda

ビストロ【le Lion】オーナー
http://ebisulelion.jp/

福島県出身。東京カフェムーブメントの先駆けと言われる表参道の名店「ニド カフェ」を経て、2006年に独立。
恵比寿にビストロ「le Lion」をオープン。昔ながらのパリにあるビストロを彷彿とさせる内装と、カジュアルながらしっかり味わえる料理とワインが人気。 2011年池袋に姉妹店「BRASSERIE LE LION」をオープン。

Text by Kyoko Hiraku
         

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