人々が集う杜を。
「都立明治公園」が目指す新たな公園のカタチ

2025.06.06
2024年1月、国立競技場の前庭空間でオープンした「都立明治公園」(以下、明治公園)。都立公園初のPark-PFI(公募設置管理制度)プロジェクトによって生まれ変わったこの場所は、約16,000㎡の敷地に広大な樹林や多彩な広場、店舗が配置されています。今回は開発を担当した東京建物株式会社 新規事業開発部の黒田敏(さとし)さんに、開発の経緯や公園が目指す理想の姿について伺いました。
公園の中央に位置し、シンボル的な存在である「希望の広場」

公園を営む持続可能な仕組み。Park-PFIプロジェクトとは?

——どのような経緯で都立明治公園の開発が始まったのでしょうか。

黒田敏さん(以下、黒田):旧国立競技場と共に整備された旧明治公園は、フリーマーケットの聖地や地域住民の憩いの場として親しまれてきました。しかしどちらも2020年の東京五輪のための開発計画に合わせて再整備されることになったんです。

そこで2021年に東京都から都立公園初のPark-PFI(公募設置管理制度)を活用した、明治公園の整備事業者の公募がありました。2017年に施行されたこの制度は、 公園内に民間事業者が飲食店などの店舗を設置し、その収益で公園の整備や維持管理・運営をサポ―トする仕組みです。

黒田:本来、公園内に設置できる店舗の建蔽率[*]は全体面積の2%までと決まっているのですが、この制度では最大12%まで拡張でき、店舗の設置期間も通常の10年から20年に延長されます。事業者としては投資回収期間が伸び、事業に参画しやすくなりました。自治体としても公園の管理コストを削減できるほか、訪れる人々にとっても利便性が高まり、あらゆる方面にメリットのある制度なんです。

当社はあえて店舗の面積を全体の約8%にとどめ、公園エリアの面積を広くとることで公共性を担保した点が評価され、都より事業者として選ばれました。

*土地の面積に対して、建物が建てられる面積の割合のこと

包摂性や多様性をテーマにした遊具を設置している「インクルーシブ広場」

一から公園をつくる東京建物の挑戦

——東京建物が今回の事業に乗り出したのにはどのような背景があったのでしょうか。

黒田:Park-PFI事業は本来、既存の公園を再整備していくことが多いのですが、今回のケースは “更地に一から公園をつくれる” という点がデベロッパー冥利に尽きるチャンスでした。

公園事業は当社がメインで手掛けるマンションやオフィス開発に比べると規模は小さいですが、完成した公園を管理するだけでなくあえて場づくりから関わることで、初めて見えてくることが多くあると思うんです。新規事業開発部としては本事業を通じて公園に人が増えたとき収入にどう影響するのかを研究し、他の事業に役立てていきたいと考えています。

昼下がりの明治公園。平日にも関わらず、食事や散歩を楽しむ人々で賑わう。

単なる“緑地”ではなく文化拠点。都市の中に人が集う“豊かな自然”を創出

——会社として公園事業を手がけるのは初めてだと伺いました。

黒田:たしかに当社として公園事業に取り組むのは初めてですが、そこに活かせるような緑地開発のプロジェクトはこれまでいくつも手がけてきました。

2014年4月に竣工した「大手町の森」は、大手町タワーの敷地面積の約3分の1が大規模な緑地で成り立っています。オフィスで働く方々の憩いの場になっており、多方面からポジティブな評価をいただきました。

東京都千代田区にある「大手町の森」は地下鉄5駅に囲まれたまさに東京の中心地ともいえる場所で、多様性あふれる本物の森を実現している。

黒田:また2020年5月には、北青山三丁目に豊かな自然を再生する約3,500㎡の大規模緑地「ののあおやま」をオープンしました。敷地内には229戸の賃貸住宅とともに『森の商店街』をコンセプトとした商業ゾーンが設置され、連続した森の空間を生み出しています。

こういったプロジェクトを通じて、緑を中心とした場作りに対する人々の関心の高まりを感じたことも、公園事業への挑戦に繋がっています。

(上)東京都港区にある「ののあおやま
(下)緑地空間内にはビオトープや芝生広場を設け、訪れる人が都心の中で豊かな自然や緑、潤いを感じる空間を演出している

100年続く杜(もり)をつくるために

——明治公園の開発をするにあたって、これまでに手がけてきた緑地開発と異なるアプローチをした部分はありますか。

黒田:私たちが公園の管理を担当するのは20年間ですが、公園自体はその先もずっと残っていきます。そのためまず人の手で土台を整備し、その後は自走できる環境を目指しました。樹種選定にはアドバイザーとして東京農業大学の濱野周泰(ちかやす)客員教授にご参加いただき、敷地約7500㎡に武蔵野台地の雑木林をイメージした、約508本の落葉樹と約214本の常緑樹を植えています。

100年続く杜を目指してつくられた「誇りの杜」。低木や地被植物などがバランスよく植えられている。

黒田:マンションやビルの緑地では景観の観点から常緑樹を植えることが多いんですが、明治公園では落葉樹の方が多いのが特徴です。これには地面に落ちた葉が腐葉土となって土壌を強くすることで、様々な生き物が育つベースをつくるという目的があります。こういった生物多様性への貢献は、公園のプロジェクトならではですね。

ブライアントパークに学ぶ、今後の公園の可能性

——開発を行うにあたって参考にした公園はありますか。

黒田:開発にあたり世界各地の公園を調査しましたが、中でもニューヨークの「ブライアント・パーク」の取り組みには、多くの学びがありました。

「ブライアントパーク」

黒田:ここではZARAが提供する園内のFree Wi-Fi、Netflix協賛の映画上映会、アパレルブランドが主催するヨガイベントなど、様々なプログラムが企業協賛によって実施されているんです。年間1,200万人以上が訪れるこの公園のように多くの人々にアプローチできる場は、新たなマネタイズの可能性を秘めていると感じました。明治公園もこんな風に、様々な方に応援してもらえる場所を目指しています。

ブライアントパークを手本に『人と人をつなぐ場』として、市民の暮らしを豊かにするコミュニティの核へと変貌を遂げた明治公園。後編では公園に新たな価値をもたらす施設や、地域や企業とともに開催されるイベントの数々をご紹介します。

Text by Natsuki Numao
Edit by Sotaro Oka
DATA

黒田 敏 Satoshi Kuroda

東京建物株式会社 新規事業開発部 課長代理
https://tatemono.com/

1989年北海道生まれ。2012年に東京建物株式会社に入社し、住宅販売業務に従事する。その後マンション開発業務を経て、新たなマンション販売の形を追求したコミュニティ施設併設のモデルルーム「OOOI」を開発する。2020年からはPPP事業の投資検討業務に従事。現在は新規事業開発部 インフラ・PPP推進グループにて、新規事業開発を通して新たな不動産ビジネスの可能性を追求している。

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