動と静のコントラストがある街「神宮前」

2023.09.29

「神宮前」はその名の通り、明治神宮の前に位置する一帯。神宮外苑西側から原宿駅周辺、国連大学付近までの広大なエリアが「神宮前」という住所になっています。原宿駅周辺や表参道は、トレンドの発信地として若者も大人も楽しめる日本有数のショッピングエリア。その一方で、数々の著名人・文化人が居を構えた住宅街としての顔も併せ持っています。

人であふれるメインストリートから一歩入れば、街の喧騒は消え、そこに住む人たちの暮らしが息づき、ゆったりとした時間が流れます。“動” の街とひとくくりにできない、奥深い味わいのある神宮前エリア。この街に住む魅力はどんなところにあるのでしょうか。「神宮前」で育ち、現在もお住まいのOさんにお話しを伺いました。

北斎の浮世絵にも描かれたのどかな村が世界有数の繁華街に

江戸時代は武家屋敷が点在していた現在の神宮前一帯。江戸の郊外地として、のどかな風景が広がっていたそうです。「原宿」という地名は、“原っぱ” が由来という説もあるのだとか。現在の原宿の街からは想像もつきませんが、農村に流れる川に水車があったことが葛飾北斎の浮世絵にも残されています。

そんな神宮前一帯ですが、明治時代から少しずつ賑わいを見せるようになっていきます。1906年(明治39年)には、原宿駅が開業。1920年(大正9年)に明治神宮が創建され、表参道が整備されました。
使用されていた代々木公園の敷地が、敗戦により米軍将校用の住宅地となり、平屋の住宅が800軒以上も建てられました。近接する一帯には、外国人用の店が次々オープン。店が増えるにつれて、日本人の若者たちも集まり始め、街は賑わいを増してきます。そして、現在のような、流行に敏感なハイセンスな人たちが集う街「神宮前」が形作られていきました。

同時に「神宮前」は、住宅地としても発展を遂げていきました。関東大震災後に建設された同潤会青山アパートは、当時の最先端設備を備えた集合住宅でした。

戦後には、後に “伝説のマンション” とも言われる集合住宅が建てられます。神宮前交差点の角地に建てられた「原宿セントラルアパート」は、1958年に完成。数々の有名クリエイターが入居したことでも知られています。BEARSが2021年にリノベーションを手がけた「コープオリンピア」は、現在もヴィンテージマンションとして堂々たる風格を醸しています。1965年の竣工から半世紀経った今も、“キング・オブ・ヴィンテージ” として人気は衰えることがありません。

“普通の暮らし”、“当たり前の日常” を楽しめる街

にぎわいと静寂、最先端と歴史――そんな二面性を持つ「神宮前」。この街の暮らしはどのようなものでしょうか。住民からみた街の魅力を、神宮前3丁目にお住まいのOさんに伺いました。

はじめに、Oさんと街の関係を教えていただけますか?

Oさん(以下O):私は生まれてすぐ、1歳のときに両親と神宮前のこの場所に住み始めました。結婚を機に転居しましたが、その後、夫と娘と共に実家へ戻ってきました。人生の大半をこの街で過ごしていることになりますね。

子育てもずっとこの街です。ここには、町内会や子ども会があって、地域ぐるみで子どもたちを見守ってくれるような温かさがあるんですよ。神社のお祭りの子ども神輿だったり、盆踊りだったり、子どものための行事も開催されています。娘は大人になった今も、ここの盆踊りを楽しみにしているんですよ。

Oさんのご自宅周辺は閑静な住宅地ですね。若者で賑わう街に近いのに、これだけ静かなのには驚きました。

O:そうですね、このあたりは住宅地ですし、お寺が多いこともあって、とても静かなんです。夜になるともっと静かですよ。大通りに近いのですが、一本入れば車の音も聞こえません。通りから奥まっているので、住民以外の人通りはほとんどなくプライバシーも保たれていますし、安心して暮らせますね。

いわゆる “都会の暮らし” からイメージするせわしなさはなく、ゆったりとした時間が流れていますね。

O:この街で昔から暮らしている住人からすると、いつのまにか周りが繁華街になっていたという感じです。
昔は、このあたりはごく普通の住宅地だったので、特別都会に住んでいるという意識はなかったんです。私が子どもの頃は、竹下通りは夕方になると暗くて怖いくらい。周りに畑もありましたし、原っぱで鬼ごっこをして遊んでいました。もちろん高層ビルなんてひとつもありません。今の街の様子からは想像もつかないかもしれませんね。

今も、都会でありながら、いわゆる“都会暮らしの冷たさ”のようなものは感じないですね。
ここには地縁のようなものもあって、初めてお会いする方でも、どこかで誰かとつながっていることがよくあるんです。たとえば、娘の同級生の親御さんが、私の兄弟の同級生だったり。長く住んでいる方が多いからこその、世代を超えたつながりですね。

神宮前小学校。商業地と小学校が違和感なく調和している

この街の住み心地はいかがですか?

O:静かな住宅地の良さを残しながら都会ならではの便利さがあるので、とても住みやすいと感じています。地下鉄の駅も近いですし、車での移動もしやすいですね。外苑西通りも青山通りもタクシーがとても多いので、アプリで呼ぶよりも道で探すほうが早く捕まえられるくらいなんです。この便利さは何にも代えられないですね。

私はワイン関係の仕事をしていて外で食事をする機会がとても多いのですが、夜遅くなってもタクシーですぐ帰れるのはいいですね。都内であれば、だいたいどこからでもそれほど時間がかかりません。

ハイセンスなショップが点在する外苑西通り

――まさに都会ならではですね。お買い物などはどうされているのでしょうか。

O:日常的な買い物は、家の近くにオーガニックスーパーがあって品揃えも良いので、よく利用しています。青山通りまで出れば「成城石井」もありますし、最近はイオン系のスーパーもできました。強いて言えば、新鮮なお魚は手に入りくいのですが、近くで手に入らなければ地下鉄で10分かからず渋谷に出られますので、デパ地下で買うことができます。ですので、特別に不便はないですね。

買い物と言えば、家の近くにワインショップやしゃれた紅茶屋、気の利いたお菓子屋などもあることが気に入っています。ちょっと人に差し上げるものを用意したいというときに、近所で買えるのはいいですよね。おしゃれなショップが集まっているのは、この街ならではの良さかもしれません。
私はワインの仕事をしていることもあって、友人に招かれたときなど手土産にワインを持っていくことが多いんです。ちょっと珍しいワインを扱っているお店が徒歩圏あるのは、とても助かります。

――ほかにも、この街に住んでよかったと思うことはありますか?

O:行ってみたいスポットが身近にあることでしょうか。私がワインの仕事をしているのは、ある意味、この街のおかげなんです。
以前、テレビで青山のワインスクールが映っているのを偶然見たのです。調べてみると自宅から歩いて行ける距離にあることがわかり、『こんなに近いなら行ってみよう』と。私は遠いところに通うのが億劫なタイプなので、もし神宮前に住んでいなければワインスクールには入学していなかったと思います。そうなると、この仕事をしていなかったかもしれません。これは、この街に住んでいてよかったことのひとつですね。

――どこかお気に入りの場所はありますか?

O:家の周りの散歩コースは、私の好きな場所ですね。コロナが流行した頃から、家の近くを歩くようになったのですが、意外に緑が多いんですよ。神宮外苑の並木道も近いですし、ちょっとした緑地もあって、季節を感じることができます。

それから、最近私が気に入っているのが「ののあおやま」という複合施設です。都営アパートがあった場所が再開発されて、とても素敵な施設になりました。ショップやレストランがあり、ウッドデッキにテラスもあって、草花もきれいに植えられています。
家から少し散歩して、ランチやお茶を楽しんで帰ってこられる―こんな過ごし方ができるのも、この街のいいところですね。

――Oさんにとって、神宮前はどんな場所ですか?

O:一言で言うと、“ほっとできる場所” でしょうか。東京には他にも素敵な街はたくさんありますが、どこへ行っても、神宮前の自宅に帰って来ると、『自分の場所に戻ってきた』と安心するんです。私にとってここは “居やすい街” 、“落ち着ける街” ですね。

――これからこの街でやってみたいことはありますか?

O:今後は自宅でワイン教室を開催したいと考えています。また、ワインの仕事のほかに、自宅で茶道を教える活動もしているのですが、最近は『もっと多くの方に茶道を楽しんでいただきたい、この街から日本の伝統文化を発信していきたい』という思いが強くなりました。神宮前は海外の方も多くいらっしゃる場所なので、色々な国の方に来ていただけたらうれしいですね。生徒さんから、『お稽古の後、表参道でショッピングを楽しんでいる』という声も聞くので、神宮前の地の利の良さは、集客する上での強みになっていると思います。

――最後に、Oさんにとって “豊かな暮らし” とはどんなものか、教えていただけますか?

O:豊かさとは、 “ささいなことを楽しむ心のゆとり” ではないでしょうか。それはつまり、 “家で過ごす時間を楽しむこと” とも言えるかもしれません。具体的には、家に自分の好きなものを設えたり、季節の花を飾ったり…そういったちょっとしたことを楽しむことです。
私は以前は仕事が忙しく、家で過ごす時間がほとんどありませんでした。それが、コロナ禍の影響で家での時間が増えて、 “暮らしを楽しむことの大切さ” に気づいた気がします。また、家から一歩出て、近所を散歩して季節の移ろいを感じること、自分が住む街と向き合ってみること――そんなことも、豊かさと言えるのではないかなと思っています。

都会でありながら緑が多く、落ち着いた雰囲気が漂う。ケヤキ並木は明治神宮創建後に植えられ、現在も街の人たちに大切に守られている

Oさんのお話を伺った後、神宮前の街を歩いて、あらためて感じたのは、この街には “変わるものと変わらないものがある” ということ。たくさんの観光客、できたばかりの商業施設、工事中の建物と変化にばかり目がいきがちですが、ここには昔から変わらないものもたくさん残されています。街路樹から季節を感じたり、古いお寺や神社をお参りしたり…。路地をただのんびりと歩くだけでも、ゆったりとした時間を過ごすことができます。

都会の真ん中で静かで落ち着きのある暮らしができるのは、「神宮前」ならでは。にぎわいと静寂、最先端のスポットと歴史あるもの。そんな “動と静” のコントラストを楽しめる暮らしは、人生に潤いを与えてくれるのではないでしょうか。

Text & Photos by Sayoko Murakushi
         

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