一枚の絵から創造する未来。
山口奈津さんが表現する「BEARS VISION」

2025.11.14

東京・丸の内にあるBEARSオフィスの壁一面には、大きなイラストが描かれています。架空の街とそこで暮らす人々を描いたこの作品、表現されているのは弊社が掲げる『企業ビジョン』です。原画を手がけたイラストレーターの山口奈津さんに、作品に込めた想いや完成までの道のりを伺いました。

会社として目指す理想の姿『BEARS VISION』

オフィスの壁に描かれた『BEARS VISION』。日々仕事に取り組む社員たちの目にふれる。

土地や建物、マンションや商業ビルなど、国内のあらゆる不動産の可能性発掘と価値向上に邁進する株式会社BEARS。企業として目指す方向性、実現したい未来の理想像として、下記のようなビジョンを掲げています。

BEARSが手がけた一室から、マンションの価値が上がり、やがて周辺のマンションしいては街全体の価値が上がっていく。そうやって一室から日本全体が豊かにしたい。住む場所だけにとどまらず、カフェやホテルなどさまざまな開発をBEARSが手がけた理想郷「BEARS CITY」。そこにはあらゆる世代の多種多様な人々がこころ豊かに、幸せに暮らしている。

このビジョンを見事に一枚の絵で表現してくれたのが、イラストレーターとして活躍中の山口奈津さんです。ラグジュアリーからカジュアルまで、さまざまなブランドとコラボレーションやタイアップをしてイラストを制作し、国内外にファンを増やしています。

イラストレーター・山口奈津さん。

スタイリッシュでありながら温かみのあるタッチで描かれているのは、ヨーロッパ調のクラシカルな建物や、その前を行き交う人々。よく見ると「BEARS」の囲いやシートに覆われた建設中の建物や、遠くには都会の街並みも見え、遊び心のある一枚です。

着色など最終的にはデジタル処理が行われていますが、1点1点のイラストはすべて山口さんの手によって描かれたもの。貴重なラフ画や原画を拝見しながら、詳しい制作過程を伺いました。

“アートは身近なもの” と捉えるBEARSの姿勢に共感

取材の場に持参していただいたイラストの数々。繊細な仕事に思わず見入ってしまう。

――今回、BEARSのビジョンをイラストで表現していただきました。どのようなきっかけで制作をすることになったのでしょうか。

山口奈津(以下、山口):代表の宅間さんが私の絵に興味を持ってくださって、企業ビジョンの表現にアートを取り入れたいとご連絡をいただきました。後に、実際に宅間さんとお会いする時間をいただいて、じっくりと話し合いながら作品の方向性を決めていったんです。

お話を伺う中でとても共感できた部分が、BEARSさんが “アートを身近なもの” として捉えているということ。BEARSさんが過去に手がけられた空間を拝見しても、ただモノとしてではなく、景観や質感を含めてアートを意識されていると感じました。私の作品もその1つとして取り入れていただけることは、とても光栄だなと思いました。

作品の要となるのは制作前のヒアリング

ヒアリング内容を基に、頭の中のイメージを具現化していく。

――そこからどのように制作を進めていきましたか。

山口:私がクライアントワークをするときは、まず “相手がどんな方なのか” を知るところから始まります。それが作品をつくる上で一番のキーになるので、とても重要な工程です。

今回もじっくりと時間をかけて、宅間さんにさまざまな質問をさせていただきました。好きなもの、国、食べ物は何か。どんな音楽を聴く?乗っている車は?宅間さんがどんなものに惹かれ、どんなセンスを持っている人なのか。それら一つひとつの要素を頭に入れながら、作品のラフ案を制作していきました。

建設中の建物、カフェ、街路樹……理想の街の姿に近づけていく

ラフ案に書き込んだ細かな修正指示。全体の雰囲気は完成作品と大きく変わらない。

――どんな点を意識しながらラフ案を制作されましたか。

山口:人物よりも建物を重視した作品がいいかなと思い、絵を見たときにまず建物が目に入ってくる構図を意識しました。ラフ案に対して宅間さんからは『建設中の建物を入れてほしい』『カフェ、お花屋さん、街路樹を足したい』『下を向いている人やスマホを見ている人は減らしたい』といった細かな要望はありましたが、ありがたいことに大きな修正は入らなかったんです。

それらのレスポンスを反映した時点でおおむね内容は固まり、細かい調整と着色で完成となりました。ちなみに多様な街を表現するために、遠く向こうに都会のビル群が見える構図は宅間さんのアイデアが基になっています。

完成したイラスト。カラーバリエーションも複数あったが、ライトブルー×ペールオレンジに決定。

――確かに、最初のラフ案と完成した作品を比べてみても、全体像は大きく変わってはいません。とてもスムーズに決まっていったんですね。

山口:そうなんです。最初に、全く異なるパターンのラフ案も提出していましたが、こっち(完成版)のデザインをとても気に入っていただいて。宅間さんご自身も「僕が1回目でOKを出すのは珍しい」とおっしゃっていました(笑)。

老若男女が思い思いに過ごす、現代のリアリティー

山口さんが一点一点描いた建物たち。手描きならではのナチュラルな線の強弱が作品の魅力に繋がる。

――制作の中で苦労したことはありましたか。

山口:このような構図は私にとってチャレンジングで、考えるのに一番時間がかかりました。普段あまり作品に対してアドバイスを求めることはないのですが、今回は同業者や美大の同級生に『違和感ないかな?』と意見を聞いたり。

建物や人物の大きさなど、実は正確なパースではないんです。あえて不正確さを入れることで、ちょっとした “だまし絵” のような、イラストならではの表現を楽しんでもらえたらと思っています。

――街の人たちも多種多様で、思い思いに過ごす様子がとても魅力的です。人物を描くうえでこだわったことはありますか。

山口:今の時代のリアリティーは意識しています。モデルのようにスタイルがいい人は少なめに、キッズやおじいちゃん、おばあちゃんがいて、ジェンダーも様々で、パッと見て『色々な人がいるんだな』と感じてもらえたら嬉しいですね。

じっくりと向き合った、思い入れある作品に

約半年かけて作品が完成。

――今回の作品を描き上げた感想を教えてください。

山口:イラストレーターの経験として、とても勉強になりました。最初にお話をいただいてから完成まで約半年ほどと作品と向き合う時間がとても長かったので、個人的にも思い入れのある、お気に入りの一枚です。建物系のイラストの中でも代表作の1つになったと思います。

この絵が、見る人をワクワクさせるような作品になっていたら嬉しいですね。何回も見て『この人はここに向かっているのかな』『この人はこういう生活をしているのかな』とバックグラウンドまで想像し楽しんでいただきたいです。

*イラストは今後ポストカードステッカーに展開予定。

街行く人を惹きつけるアートの力

『100メートルを超える大きな作品にも挑戦したい』と語る山口さん。

――山口さんは広告やウォールアートなど、不特定多数の方が目にする作品を手がけていらっしゃいますね。街中にイラストレーションがあることで、その街や人にどんな影響を与えられると思いますか? 

山口:例えば、小さな子どもがショーウィンドウのドレスを見て『このドレス素敵だな』と憧れるというストーリーって、よく聞きますよね。そんなピュアな感情を、街中のイラストレーションでも想起させられるんじゃないかと思っているんです。

静岡駅の地下通路に飾られた山口さんのイラストには、街行く人々や静岡のランドマークが描かれている。通路を通り抜けた先には2024年秋に開業した商業施設「cosa」があり、感性を刺激する新たなスポットと、街の歴史や人々の暮らしを繋ぐ役割をアートが果たしている。

――街中に当たり前のようにある絵が、見た人の心を動かすということですね。

山口:はい。『色がきれいだな』とか、『この絵は何を表現しているんだろう』という何気ないことでもいいんです。少しでも街行く人の興味を惹きつけられれば、それがアートの力だと思います。下ばかり見て歩いている人たちが、ふと顔を上げるきっかけが私の作品だったら嬉しいですね。

――またこういった作品にチャレンジしてみたいと思われますか?

山口:そうですね。 “街に寄り添う絵” は今後も取り組みたい作品の1つです。私が生きていく中で実際に会える人数には限界がありますが、街中に私の絵があれば、見てくれる人は無限にいますから。人の生活の一部に触れるような絵を、これからも描き続けていきたいと思います。

「大きな絵でも小さな絵でも、手描きならではの温かみを大事にしたい」と自身の制作スタイルを語る山口さん。

山口さんが描く『BEARS VISION』は、趣のある美しい建物と人々の息吹、豊かな自然と洗練された都会の空気が共存する “理想の街の姿” でした。ファンタジーであり、どこかにありそうなリアリティーも忍ばせたこの作品には、『ここに描かれた景色を目指して、これからも成長を続ける』という、BEARSの大きな希望と決意が込められています。

Text by Naomi Haga
Edit by Saori Maekawa
DATA

山口 奈津 Natsu Yamaguchi

イラストレーター。大阪府出身、東京都在住。2011年京都精華大学デザイン学部イラストレーションコース卒業。文化書道学会 師範免許取得。
19世紀から20世紀初頭のアートムーブメントに影響を受けながらも、東洋独自の文化である書道を技術的なベースとして制作活動を行っている。筆致を活かすために水彩と墨を主体としたミニマムな表現を用い、人物画や静物画、ドローイングなどを描きながら、影響を受けた東洋と西洋の美的共通項を作品の中で表現し続ける。

Instagram :@natsuyamaguchi

natsuyamaguchi.com

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