空間と色。遊び心あふれる建築家の自邸

2024.01.26

シリーズ“Private View”では、魅力ある住まいに暮らす方を訪ね、豊かな暮らしについて考えます。

今回訪ねたのは、建築事務所「プラスマイズミアーキテクト」を夫妻で経営する建築家の真泉洋介(まいずみ ようすけ)さん、真泉絵美(まいずみ えみ)さんのご自宅。このご自宅はおふたりが設計し、2023年の夏に完成したばかりです。

前編では、即決したという土地との出合いや、その土地の特徴を最大限にいかした開放感あるリビングを中心にご紹介しました。

後編では、建築家ならではのユニークな家の構造と色使いについて、また実際に暮らしてみた感想をお届けします。

真泉洋介さん(左)と絵美さん(右)。「プラスマイズミアーキテクト」は集合住宅をはじめ、店舗や病院、福祉施設を手がけ、「グッドデザイン賞」や「日本空間デザイン賞BEST100」も受賞している
傾斜地に建つ真泉邸。その特徴をいかして、リビングは3面に大きな窓を確保。理想の家の条件としていた『小さくても開放的で、明るく風が抜ける家』を実現した

どこにいても家族の気配を感じられる

──こちらのお宅には階段が2箇所あってぐるりと家の中を回遊できるようになっていますね。このユニークなプランは、どのような想いから生まれたのでしょうか。

真泉洋介さん(以下、洋介):この家の設計では、“空間が連続する” ということを大事にしました。
階段を2つ設けることで、動線的に行き止まることのない連続性が生まれます。廊下があって部屋があるのではなく、動線上に居場所が点在している。大きな川が蛇行し、その淀みに小さな生き物が生活しているようなイメージをしました。

リビングから2階へ上がる階段。階段のデザインは、空間の抜けを遮らないようにシンプルに

洋介:こうすることで、部分で完結してしまうのではなく、どの場所にいても家全体の気積(空間)を感じられたり、全体の中の自分の居場所を認識できるようにしたいと思ったんです。
実際に2階のダイニングで過ごしていると、2方向の階段から1階にいる家族の気配を感じられます。別々の場所にいても安心感がありますね。

真泉絵美さん(以下、絵美):最初は『階段は2箇所も必要ないのでは?』という話もしていたんですが、2階に上がりたいとき普段はリビング側の階段から、お客様がいらっしゃるときはキッチン側の階段からと使い分けができ、動線としても便利でした。
2才の息子は、ぐるっと家の中を一周できるのが楽しいようで走り回ってます(笑)

2階には、セカンドダイニングとバスルームが。奥のグリーンの空間はバスルーム。ダイニングは家族で食事をしたり、自宅で仕事をするときに使うことも。奥にもうひとつの階段があり、プライベートスペース、1階のキッチンへとつながる

4つの色を使って空間をやわらかくつなぐ

──2階ではグリーンや紫など、床や壁のカラフルな色使いが目を引きます。これにはなにかデザインの意図があるのですか?

洋介:2階とプライベートスペースは広さや抜けが少ないので、そのままだと暗くなりがちなんです。そうならないよう色を4色、床や壁に取り入れました。
最初に軸として決めたのは、淡い紫。というのも、子どもが最初に名前を覚えた色がこの色だったんです。

──ブルーベリーヨーグルトのようなきれいな紫色ですね。

洋介:ありがとうございます。私たちも気に入っています。
都内のマンションに住んでいたとき、沿線を通る電車の車両にこの色が使われていて。子どもが電車が好きなので一緒によく見に行っていたら、1歳で「バイオレット」という言葉を覚えました。それが心に残っていたので、『この色をどこかに使いたいな』と思ったんです。そんなときにこのリノリウムの紫色を見つけて採用しました。色が次の空間のイントロダクションになるように、配置する場所を決めています。

──次の空間のイントロダクションですか?

洋介:リビングから2階へ上がる途中から、階段の蹴上の一部に淡い紫を、手すりの内側に紫と相性の良い淡いピンクを塗りました。そのまま2階は、床に淡い紫、壁に淡いピンクを塗っています。寝室の壁は黄色にしてより明るく。この黄色はキッチンとトイレの天井の色へと続きます。

──なるほど。隣り合うスペースを色がつなぐ、という意味で“イントロダクション”なのですね。このバスルームだけとても鮮やかなグリーンが使われていますが、この色はどのように決めたのですか?

洋介:バスルームは、バスタブから空が見えるように窓の位置を高く設定しています。青空が強調される濃い色がいいなと考えて、このグリーンにしました。色を使うときに、淡いマイルドな色だけでなく、このグリーンのような少し毒っけのある色を入れたら面白いかなと思ったんですよね。物語にたとえると良い人だけでなく悪者も登場した方が締まるというイメージです。

バスルーム。バスタブの周囲にはシャワーはなく、となりに独立したシャワールームを配置。『髪や体を洗う ”機能” と、浴槽につかる ”リラックス” をわけたかったんです』と洋介さん。バスタブのまわりには生活感を生むシャンプー類など一切おかず、ただ湯に身を沈め空を眺めてのんびりできる、外とつながれる贅沢な場に

──グリーンのほかにも様々なところに色が使われていて楽しいですね。色同士の関係も意識されているのでしょうか。

洋介:一番は、狭く、暗くなりがちな部分を、明るくすることですが、それだけでなく、隣り合う色同士が影響し合って “空間が連続する” ように意識しました。

たとえば、床の紫と壁の黄色は補色の関係になるので、床の紫がはっきり見えます。それが同系色のピンクの壁に面したところだと、紫が少しグレーのようにも見える。空間設計だけでなく、色同士の相対関係の組み合わせでも連続性を感じられるようにしています。

バスルームのグリーンが影響したセカンドダイニングの紫の床。光が反射すると色も反射してグラデーションになっているのが面白い

大人も子どももわくわくできる住まい

──伸び伸びと子育てがしたいと考えて一戸建てを建てられた真泉さんですが、実際に暮らしてみて4ヶ月。いかがですか?

絵美:息子が喜んでくれているのがうれしいですね。もうすぐ3歳になるのですが、家の中に隠れられるところがたくさんあるので、想像力をフルに使って遊んでいます。カウンターの下の端に小さなスペースがあるのですが、怒られていじけたときに、そこに隠れていて。私たちも想定していなかった使い方だったので、子どもの発想に驚かされました。

リビングの棚にはおふたりのお気に入りのものが飾られている。張り子人形が好きで、日本各地に旅行で行った際に買い求めて少しずつ集めているそう

──おふたりのお気に入りの場所や過ごし方を教えてください。

絵美:私はキッチンから、リビングにいる家族の様子を見たり、窓の外の景色を見たりしていることが多いですね。家事をしているときに、自然と目に入るとほっとします。
それと夜、リビングの窓から星空がきれいに見えるんですよ。部屋の電気を消して星空を眺めるのも好きな時間です。

洋介:暑さがやわらぐ秋頃は風が通るリビングの窓辺が気持ちよくて、床に寝転がって子どもと一緒に昼寝をしています。
この家にはテレビを置いていないので、ラジオや音楽を聴きながら窓の外の日の移り変わりを見ながら生活をしているんです。そんなふうに暮らしの中で時間や季節を感じられるのが楽しいですね。

愛聴のレコードコーナー


──真泉さんにとって「住まい、家」とはどんなものでしょうか。また、どんな暮らしが豊かな暮らしだと思われますか。

洋介:家や住まいはもっと色々な形があると思っています。土地を購入して家を建てた私が言うのもおかしいですが、ずっとひとつの場所に定住しなくてもいいと思っているんです。キャンピングカーで自由に移動しながら生活することに憧れもあって。この家を通して、『縛られない暮らし方をしたい』という願いを表現できたかなと思っています。
先日、家に遊びに来た小学生の子どもに『好きな場所で寝る』と話したら『ベッドで寝ないの!?』と、とても楽しそうで。
家の中でもそういう自由な暮らしというか、私たちがわくわくするような住まい方がこのままできたら、子どもにとっても心の豊かさというか、決めつけられていない自由さを感じてくれるんじゃないかな、と思います。

ご自宅から近い一色海岸。『細い路地を折れ曲がった先に広がる海へのアプローチが素敵で、好きな場所です』と洋介さん


家族のつながりを感じながらも、いたるところにある居場所で、それぞれが自由に過ごせる真泉さんの自邸。枠に捉われない発想から生まれた個性豊かなお宅には、ご家族やお子さまへの想いが詰まっていました。これからご家族で過ごす時間が刻まれていくことで、さらに魅力ある住まいになっていくことでしょう。



前編はこちら
風と光が抜ける自由なデザイン。建築家が建てた葉山の自邸  

DATA

株式会社 プラスマイズミアーキテクト

https://maizumi.net/
一級建築士事務所 東京都知事登録番号 第60985

真泉 洋介|Yousuke Maizumi
代表取締役 / 建築家
東京理科大学工学部建築学科後、千葉大学大学院へ進学。栗生総合計画事務所で、美術館、博物館の設計に関わる。2013年に、株式会社プラスマイズミアーキテクト設立。集合住宅をはじめ、店舗や病院、福祉施設を手がける。

真泉 絵美|Emi Maizumi
建築家
東京理科大学工学部建築学科後、大手ハウスメーカーへ入社。インハウスデザイナーとして数多くの住宅設計に携わる。プラスマイズミアーキテクトに合流。

Text by Tomoko Yanagisawa
Photos by Eiji Miyaji
         

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