「ハルビア」CEOが語る、癒しを超えたサウナの魅力
今年2月、フィンランドに本社を置く世界的なサウナ&スパブランド「ハルビア」の東京ショールームが港区赤坂にオープンしました。近年のサウナブームもあり、日本でも自宅やオフィスにサウナを取り入れたいという方が増えています。
リラクゼーションの代名詞ともいえるサウナは、私たちの暮らしにどのような効果をもたらしてくれるのでしょうか。前編の今回は、マティアス・ヤーネフェルト氏に、フィンランド人のサウナの楽しみ方や世界のサウナ事情について伺いました。
フィンランドの世界的サウナメーカー「ハルビア」が日本上陸
フィンランドの首都・ヘルシンキから北へ約260キロ。美しい湖が点在する地方都市・ムーラメに本社を構えるハルビア。サウナメーカーとして世界シェアナンバーワンの座を誇ります。創業は1950年で、創業者のタパニ・ハルビア氏は小さなガレージでサウナヒーターを製造していました。当初は年間100台規模の生産でしたが、品質の高さと優れたデザイン性を武器に、半世紀で世界規模の企業へと成長します。
サウナはフィンランド人の生活になくてはならないもの
――フィンランドでは、サウナが人々の暮らしに根付いていると伺いました。サウナ大国とも言われていますが、はじめに、フィンランドの人々とサウナとの関わりについて教えてください。
マティアス・ヤーネフェルト氏(以下、マティアス):フィンランドは人口が約600万人ですが、サウナは300万もあります。この数だけでも、フィンランド人にとってサウナがどれだけ重要かお分かりいただけるかと思います。私たちの国では、車の所有台数よりもサウナの方が多いのです。単純計算で、2人に1人がサウナを所有していることになります。たいていの場合は一家に一つサウナがありますし、都市部の集合住宅に住んでいて自宅にサウナがない人でも、別荘には必ずサウナがあります。
マティアス:フィンランドにおけるサウナの歴史はとても古く、1万年以上前の氷河時代には、人々はすでにサウナに入っていたことがわかっています。当時は地面に穴を掘ってストーブを焚き、動物の皮で穴の上部にお椀型のテントを作ってサウナにしていたようです。これだけ長い歴史があるので、私たちにとってサウナは「あって当たり前のもの」なのです。
――氷河時代からとは驚きました。フィンランドでは、なぜそれほどまでにサウナが長く愛されてきたのでしょうか。
マティアス:フィンランド人は森を愛し、自然体でいることを重んじる国民性なので、サウナでリラックスする時間を大事にするのは、とても理にかなっているのだと思います。サウナで親しい人とおしゃべりを楽しみながらのんびりと過ごすのは、私たちにとって大切な時間なのです。サウナは健康によいというエビデンスがありますが、科学的に証明される前から、私たちフィンランド人は長い歴史の中で、サウナの効能を肌で感じて理解していたのです。
マティアス:フィンランドは世界幸福度ランキングで6年連続1位を獲得していますが、これにはサウナ文化も大きく関係していると思います。もちろん、充実した社会福祉など他の要因もありますが、サウナのある暮らしは身体や心がリラックスするだけでなく、社会的な活力をも得ることができるので、幸せを感じられるのです。
日本のサウナブームはホームサウナにシフトすると期待
――近年、日本でもサウナ愛好家が増えています。日本のサウナブームについて、どのようにお考えですか?
マティアス:日本でのブームについては存じています。日本は温泉文化がある国なので、もともとサウナとの親和性が高いのでしょう。公共サウナもたくさんありますが、私が日本のマーケットで注目しているのはホームサウナです。東京の高層ビルの上層階にあるような高級サウナだけでなく、家庭で楽しむサウナはこれからもっと増えていくでしょう。
マティアス:数か月前、私は札幌を訪れたのですが、札幌にはサウナを設置できるスペースのある家がたくさんありますね。私たちの製品には、屋内用だけでなく屋外に簡単に設置できるサウナキャビンというものもあります。家庭でも簡単に楽しむことができるので、日本のサウナマーケットは今後ますます拡大していくと思います。
といっても、ブームは日本だけではありません。実は今、世界中でサウナブームが起こっているんですよ。
世界のセレブリティがサウナに夢中
――北欧以外の国でも、サウナが人気なのですか?
マティアス:そうなんです。今、世界各国でサウナ愛好者が急増していて、世界的なブームとなっています。なかでも、イギリスはサウナブームが目覚ましいです。
また、セレブリティの世界でもサウナ愛好者が増えています。たとえばサッカー選手のクリスティアーノ・ロナウドは、サウナに入るオフショットをインスタグラムにアップして、3億6千万人のフォロワーに共有しました。他にも、同じくサッカー選手のネイマールや、歌手のレディーガガもサウナに入る姿をインスタグラムにアップして話題を呼んでいます。世界的なブームはまだまだ続いていくと思います。
プライベートでもビジネスでも、サウナが良き交流の場に
――マティアスさんご自身もサウナを楽しんでいらっしゃるのですか?
マティアス:もちろんです。だいたい、週に5日くらいでしょうか。私には十代の子どもが3人いますが、サウナは家族との良いコミュニケーションの場になっています。子どもたちだけでなく私達大人もそうですが、現代人はいつでもスマートフォンを見ていますよね。でも、サウナの中にまでスマホを持ち込むことはない。だから、一緒にサウナに入ると、自然と色々な話をする機会が生まれるのです。
マティアス:また、フィンランドでは家族以外とサウナに入ることも一般的です。ビジネスでは、商談をした後にその相手と一緒にサウナに入って親交を深める、といった交流が自然と行われていますし、フィンランドの国会議事堂にも当然のようにサウナがあります。サウナでは、堅苦しいスーツを脱いで人対人のコミュニケーションができるので、相手の人となりを知ったり、お互いを理解したりできるのです。
左:港区南麻布の駐日フィンランド大使館に設置されている大使専用サウナ。この他に職員用のサウナもある。右:バルコニーに設置されたフィンランドのブランド EcoFURNのエコチェア&オットマン。
――サウナを生活に取り入れると、プライベートでも仕事でもよい効果がたくさんあるんですね。最後に、日本人に向けて、サウナの楽しみ方についてのアドバイスをいただけますか?
マティアス:「Have a sauna!」この一言です!まずはサウナに入ってみてください。そして、ぜひその素晴らしさを実感してください。
――ありがとうございました。
日本では、サウナというと入浴施設や旅先で楽しむものというイメージがありますが、フィンランドでは自宅にサウナがある人がほとんどで、公共のサウナ施設は少ないのだとか。日常の一部としてサウナを活用することは、幸せな生活を送るための秘訣なのかもしれません。
ハルビアでは現在、ホームサウナの普及に力を入れているとのこと。次回の後編では、日本法人のCEO・笠間聖司さんが語るサウナの魅力や日常的な楽しみ方について、実際にショールームを回りながらお届けします。
マティアス・ヤーネフェルト
ハルビアCEO。経営工学修士。1974年生まれ、フィンランド国籍。 通信インフラ設備大手ノキア・コーポレーション管理職、建設現場用製品大手ヒルティ・グループの北欧・英国事業CEO、ソーシャルヘルスケアサービス大手9Livesグループのフィンランド事業CEOを歴任、2023年6月より現職。自身もサウナ愛好家で、週5回サウナに入る。3児の父でもあり、家族とサウナに入る時間を大切にしている。