フランス料理を家族で楽しむ “ゆとり”「白金台」
港区の高台に位置する都内屈指の高級住宅地、白金台。ここはフランス料理店の数が多いことでも知られる場所です。では、この地でフレンチのテーブルを囲むのは、いったいどんな人々なのでしょうか。一昨年(2022年)白金台にオープンしたハイエンドなカウンターフレンチ「CIRPAS」の若き実力派シェフ、吉田能(よしだたかし)さんに伺いました。
扉絵:東京都庭園美術館 本館 正面玄関(画像提供:東京都庭園美術館)YouTubeの登録者数100万人
国内外でフランス料理のエスプリと技術を会得した吉田シェフ。コロナ期間中に「George ジョージ」の名でスタートしたYouTubeの料理動画配信が話題を呼び、現在はチャンネル登録者数100万人を数える新進気鋭の人気シェフです。
「CIRPAS(サーパス)」では、クラシックなフランス料理を現代のスタイルに昇華させた“新しい定番”を皿の上に表現。「CIRPAS」という店名には、新たな流れ(circulation)を、大いなる熱量(passion)をもって生み出そうという思いが込められています。
600年前からハイソなエリアだった
ではここで、白金台の歴史をひもといてみましょう。
現在の白金台一帯は、平安時代から南北朝時代にかけて豪族が屋敷を構えていました。その中のひとり、南朝(現在の奈良県吉野にあった朝廷)の役人だった柳下上総介(やなぎしたかずさのすけ)が1394年~1428年頃にこの地を開拓。柳下氏が大量の銀(シロカネ)を持つ長者であったことから、この一帯はいつしか白金村と呼ばれるようになりました。武蔵野の自然の面影を残す「国立科学博物館付属自然教育園(以下、自然教育園)」内には白金長者邸跡が残っています。
吉田茂の公邸となった「旧朝香宮邸」
白金台のランドマークとも言える「東京都庭園美術館」は「自然教育園」に隣接した施設。「自然教育園」と同じ屋敷地をルーツとしながら、こちらはまったく違う歴史を歩んできました。
「東京都庭園美術館」は「旧朝香宮邸」とも呼ばれます。朝香宮(あさかのみや)家の鳩彦(やすひこ)王は、明治天皇第8皇女允子(のぶこ)内親王と結婚。ご夫妻で訪れた1925年の「パリ万国博覧会」で感銘を受け、帰国後約8年をかけて朝香宮邸を建設しました。允子妃は残念なことに竣工の年(1933年)に逝去されてしまうのですが、鳩彦王は1947年の皇籍離脱までこの邸宅で暮らしたのです。
朝香宮家が退去後は、総理と外務大臣を兼任していた吉田茂が公邸として1954年まで使用。その後は、1974年まで「白金迎賓館」という名称で、国賓、公賓をもてなす役割を担いました。
「東京都庭園美術館」として一般公開されるようになったのは1983年のことです。世界に現存するアール・デコ様式の個人住宅の中でも特に質が高く、季節ごとに表情を変える庭園をめぐるのも来館の楽しみとなっています。
歴史を辿ると、白金長者の時代から600年以上に渡って時の富裕層や上流階級の人々に愛されてきた白金台の姿が浮かび上がってきました。そして、「朝香宮邸」の内装を手がけたのは、アール・デコ様式の第一人者だったフランス人室内装飾家アンリ・ラパン。白金台にフランス料理店が多いのは、そんなところにもゆかりがあるかもしれません。
都内主要エリアへ20〜30分の好立地
現在の白金台に目を移してみましょう。
以前は車移動が中心の場所だったのが、2000年の地下鉄「白金台駅」の開業で利便性が飛躍的に向上。大手町、表参道、銀座や二子玉川など、都内の主要なエリアへは所要時間20〜30分の好立地となりました。
首都高速「目黒インターチェンジ」も近いので、家族旅行やゴルフ、二拠点生活など、車で遠出するにもこの上なく便利なのも大きな魅力です。
また、白金台交差点付近にはスーパーをはじめ、生活に必要な商業施設が充実。しかも広々とした街並みは“駅前の喧騒”がまったくないので、ゆったりと買い物をすることができます。
教育環境を理由に白金台を選ぶ
さらに特筆すべきは、名門校へのアクセスが非常に良いことです。
白金台駅から聖心女子学院(初等科・中等科・高等科)へは徒歩10分の距離。慶應義塾大学三田キャンパスの最寄駅である三田までは2駅、約6分。慶應義塾幼稚舎へは、白金台5丁目からバスで10分程度。この教育的に恵まれた立地を理由に白金台を居住地に選ぶ富裕層が多いのも事実です。
白金台駅を出てすぐ、目黒通りに面してゲートがある東京大学医科学研究所附属病院も見逃せません。ここの敷地は東京ドームの1.5倍の広さがあり、春はサクラ、秋は紅葉が見事。知る人ぞ知る散歩コースとなっています。
クラシックとモダンの二面性が魅力
では、吉田シェフの目に映る白金台はどのような街なのでしょうか。
「CIRPAS」があるのは、白金台交差点から目黒通りを清正公に向かって下り、細い道を聖心女子学院の方向に入ってすぐの場所。エントランスを入ると、モダンなカウンター席とオープンキッチンが迎えてくれます。
吉田能シェフ(以下、吉田):お寿司屋さんのような感じの距離感ですが、接客は専任の担当者に任せて、僕は料理に集中させてもらっている感じですね。オープンキッチンで料理が仕上がっていくところをご覧いただいて楽しんでいただきたいなと思っています。
吉田:ドミニク・ブシェと言う非常にクラシックなスタイルのフランス料理のシェフのもとで働いていたので、僕もベースはクラシックなんですよ。
基本にクラッシックで上質なスタイルがあり、それが現代的にアップデートされているという点は、白金台の街にも相通じるところ。
――白金台にはどんな印象を持たれましたか?
吉田:『上品な街だなぁ』というのが第一印象でした。近隣の小学生が、学校帰りにラルフ・ローレンの話をしながら歩いていたのはびっくりしましたね(笑)
銀座と白金台のお客様の違いとは?
――YouTubeで吉田シェフを知って来店されるお客様が多いそうですが、このあたりにお住まいの方もいらっしゃいますか?
吉田:そうですね。いらっしゃっていただいています。私の動画配信をご覧くださっていて、偶然、白金台にお住まいだったと言う方が約半数。たまたまこの辺を通りかかって見つけてくださった方にご来店いただくこともありますね。
――ご夫婦でいらっしゃる方が多いですか?
吉田:はい、年配のご夫婦がお二人でお越しになるか、もしくはお子さんも大きくなっておられて、ご家族4人で食事をされるケースも多いです。シーンで言うと記念日に利用されるケースがほとんどです。
――以前、厨房に立っていらした銀座のお店にいらっしゃるお客様と、白金台のお客様の違いは何かありますでしょうか?
吉田:銀座のお客様は土地柄、何かしらのお仕事の関係でいらっしゃってくださるお客様がほとんどです。一方こちらの白金台の店は、近隣にお住まいのご家族の他、20代〜40代の経営者の方、遠方からお見えになる若いカップルのお客様もいらっしゃいます。
現在のメニューはコースのみ。一人40,000円ほどのバジェットが必要です。若い人にとっては勇気が必要な金額。ご家族連れであれば、まとまった出費になります。それでも客足が絶えないのは「純粋に吉田シェフのお料理を楽しみたい」「せっかく伺うのであれば、気心知れた人と楽しみたい」というお客様の心を掴んでいるからと、お見受けしました。
田舎で自給自足が一番豊か
最後に、吉田シェフの考える“豊かさ”について伺いました。
吉田:極論ですが、田舎で自給自足が一番豊かなような気がします。最近お客様にすすめられて見始めたんですけれど、海外の老夫婦が人里離れたところで自給自足をして料理を作る動画配信があるんですよ。それを見ているうちに「ゆくゆくは、そういうことができるといいな」と思い始めました。
アゼルバイジャンの老夫婦がYouTubeで配信するCountry Life Vlogは登録者数600万人の人気コンテンツ――ルールに縛られずに、自分で時間も決めるし、やることも自分で決めるという暮らし方ですね。
吉田:そうですね。それができると非常に有意義だなぁと思います。
――ぜひ実現させてください。吉田シェフの今後の展開を楽しみにしています!
いかがでしたか。
古くからハイソサエティに好まれた美しい住環境と、記念日には家族でフレンチを楽しめる贅沢なゆとり。吉田シェフのお話から、白金台に暮らす方々のライフスタイルの一端を垣間見せていただいた気がしました。
吉田 能(よしだ たかし)
CIRPASシェフ。埼玉県出身。東京都内のホテルレストランでキャリアをスタートした後、渡仏。パリ「ドミニク・ブシェ」で修業し、帰国後は「ピエール・ガニェール」に勤務。以降「ドミニク・ブシェ トーキョー」に入り、グループのエグゼクティブシェフとして活躍する。趣味で始めた料理動画You Tubeが話題となり、現在の登録者数は100万人超。作る喜びも伝えられる料理人として人気を集める。 https://www.youtube.com/@GeorgeLABO
CIRPAS
2022年11月にオープン。白金台の裏通りに面する小さなカウンターフレンチ。時代に流されることなく「レストランは誰のため?」の解を求め、“新しい定番”を皿の上に表現する。ミシュランガイド東京2024「セレクテッドレストラン」に選出。
https://cirpas.tokyo/
東京都港区白金台4-2-7 1F
SPICA
吉田シェフがメニューを監修するイタリアンダイニング〈SPICA(スピカ)〉が2024年3月6日、表参道ヒルズにオープン。
https://spica.im-transit.co.jp/
東京都渋谷区神宮前4-12-10 表参道ヒルズ本館 3F