空間を洗練させるハイエンドな照明「FLOS」
「FLOS(フロス)」はイタリアのブレシアに拠点を置く照明のブランド。1962年の創業時から現在に至るまで、著名なデザイナーや建築家によるアイコニックな照明を次々に生み出してきました。世界的な美術館の永久コレクションに選ばれている製品も多数。その魅力を前後編に分けてご紹介します。
洗練されたモダンなデザインで世界中に多くのファンを持つFLOS。住宅をはじめ、ホテル、商業施設、オフィス、美術館など、あらゆる空間に取り入れられています。BEARS社の新オフィスでも、2022年に発表された新しいペンダント照明「Skynest(スカイネスト)」を採用しました。
FLOSの日本での展開は1980年代から。今年(2024年)5月には、フロスジャパン社の新しい試みとして都内にショールームが移転オープン。話題の場所について話を伺うべく、PR&コミュニケーションマネージャーの井出 美保さんを訪ねました。
モダンな家具に合う照明
――FLOSはどのように始まったのでしょうか。
井出美保さん(以下、井出):1950-60年代、イタリアにはモダンな家具はあったのですが、その家具に合う照明がありませんでした。“それらに合う照明をつくりたい” という想いから始まったのがFLOSというブランドです。
その想いを実現させるべく動き出したのが、イタリア・モダンデザイン界を牽引していた2人の大物。
井出:「Cassina」の創業者チェーザレ・カッシーナとイタリア発の家具メーカー「Simon(シモン)」の社長ディノ・ガヴィーナです。この2人が、ミラノ生まれの建築家でデザインユニットとしても活動していたカステリオーニ兄弟に声をかけて、照明作りが始まりました。
創業のきっかけになった “Cocoon”
FLOSにとってエポックメイキングな出来事だったのが、“Cocoon(コクーン)” と呼ばれる素材との出会いです。
――初期の照明はどんなものでしたか?
井出:FLOS創設のきっかけになった素材が “Cocoon” です。当時、アメリカ軍が使用していた特殊な樹脂で、これをカステリオーニ兄弟が照明に転用したのです。
井出:FLOSはラテン語で “花” の意味。そのような背景から、創業当初はプロダクトに花の名前をつけていました。コクーンを使用してデザインされた照明の「TARAXACUM(タラクサカム)」という名には、“タンポポの綿毛” という意味があります。
「TARXACUM」の造形的な美しさと詩的なネーミングに、FLOSの創業の理念を感じ取ることができます。
FLOSの代表作となる「ARCO」
井出:カステリオーニ兄弟はその後も、インテリアデザインの常識に囚われない自由な発想で、イタリアを驚愕させる美しいデザインとテクニックを次々と発表していきました。
その中のひとつが、のちにFLOSの代表作となる照明「ARCO(アルコ)」です。
井出:「ARCO」はイタリア語で “アーチ” という意味。この照明は街灯の形にインスパイアされています。天井に穴を開けずとも設置でき、移動も容易なダイニング用のペンダント照明を作れないかという問題提起から生まれました。
――「ARCO」はどのように広まっていったのでしょう。
井出:「ARCO」は今までにない斬新な形でありながら、機能性にも優れていました。たとえば大きく弧を描くアーチは、ダイニングでの人の動きを考慮して設計されています。FLOSは、このカステリオーニ兄弟の挑戦的な発想を受け入れて生産を決めました。それが結果的に人々にも受け入れられ、どんどん広がっていったのです。
「ALCO」と同じく1962年に発表された「TACCIA(タッチア)」もまた、今ではFLOSを代表するプロダクト。こちらもカステリオーニ兄弟がデザインを手掛けたもので、シーリングランプを逆さにするというユニークなアイデアから生まれました。
古代の柱を思わせる台座も「TACCIA」の魅力。この形状は、ランプ自体から放たれる熱を分散する機能を追及した中で生まれた偶然の産物でした。しかし、LED光源が主流となって熱の問題が解消された今もなお、プロダクトの象徴的なデザインとして採用され続けています。
MoMAの永久コレクション入り
「ARCO」の成功とともに、FLOSの名はイタリア国外でも知られるようになっていきます。1965年にはニューヨーク・タイムズ紙に取り上げられ、アメリカにもファンが増えるきっかけとなりました。
井出:1972年には、MoMA(ニューヨーク近代美術館)がデザイン展「イタリア、ザ・ニュードメスティックランドスケープ展」を開催。カステリオーニ兄弟の作品を始め、FLOSが出展した照明の多くは、MoMAの永久コレクションに加えられました。
斬新なデザインのシャンデリア「2097」
FLOSには「ARCO」の他にも、多くの名作照明が存在します。「2097」と名付けられたシャンデリアもアイコニックなデザイン。
――この照明を見たことがある方も多いのではないかと思います。
井出:「2097」は、ジノ・サルファッティというイタリア人デザイナーによる作品です。この方は「Arteluce(アルテルーチェ)」という会社のオーナーでもあり、そこで自身のデザインを販売していました。1973年にリタイアした際、FLOSに権利を譲ったという経緯があります。
1958年にデザインされたというこのシャンデリア。今見ても全く古さを感じさせない、タイムレスな魅力に溢れています。
和の空間にも合う「Glo-Ball」
1990年代に入ると、2代目社長のピエロ・ガンディーニと新しいデザイナーたちとの協業が始まります。
井出:ジャスパー・モリソンは90年代からFLOSとともに歩んでいるデザイナーです。開発に4年の歳月をかけて1998年に誕生した「Glo-Ball(グロボール)」は、その後ロングセラーとなりました。
新しいベストセラー「IC Lights」の登場
FLOSは60年の間に大きく成長し、クリエイティブな才能を発掘する優れた能力をさらに発揮しています。現在、FLOSの中心的なデザイナーとして活躍しているマイケル・アナスタシアデスもそのひとり。
井出:この10年で1番の販売数を記録したのが、マイケル・アナスタシアデスと協業して2014年に発表した「IC Lights(アイシーライト)」です。彼が加わったことにより、新たなステージが広がりました。
――「IC Lights」には何かインスピレーションの基となったものがありますか。
井出:“ジャグラー” です。マイケルが動画で見たジャグラーのパフォーマンスから、落ちそうで落ちないボールを表現したのが「IC Lights」です。
井出:最近では、都内のラグジュアリーホテルの客室に採用されました。モダンなインテリアにはもちろん、和室にも合うデザインです。マイケルの照明は「IC Lights」の他にも多数あり、どれもとても人気があります。
受け継がれるDNA
軍で使用されていた素材を照明に転用したカステリオーニ兄弟の時代から、既成概念にとらわれない進取の精神で数々の魅力的な照明を生み出してきたFLOS。オーナー企業だった時代を経て、現在は世界有数の高級デザイングループである「Flos B&B Italia Group」の一員となっています。
――新体制になって何か変わったことはありますか。
井出:今までにないものに挑戦し、それが結果的に世の中の定番になっていくという点は、昔から何ら変わっていません。一方で、新しい体制になったことにより、更なる成長も遂げています。最新の革新的な技術とともに、詩的でモダンな照明デザインを牽引するプロダクトをこれからも提供し続けていきます。
新しい才能の目覚ましい活躍で、ますます目が離せないFLOS。次回の後編では、今年渋谷に誕生したショールームをレポート。マイケル・アナスタシアデスの数々のデザインや「Skynest」など、FLOSの近年の作品にフォーカスしてご紹介します。
FLOS JAPAN SHOWROOM
東京都渋谷区に位置し、2024年5月に移転オープン。 イタリア本社がデザインを手掛け、立体・面・光のラインが折り重なった奥行きのある空間で構成されている。FLOSのアイコニックな作品から最新作まで多彩なラインナップの展示を見ることができる。 japan.flos.com 東京都渋谷区渋谷1-3-3 ヒューリック青山第二ビル 2F 営業時間 :11:00~17:00 土・日・祝日定休 夏季冬季GW休業あり *予約制