世代を超えて愛され続ける「USMハラー」の歩み
オリジナルのパーツによって、キャビネットをはじめとする家具を自由に組み立てられるモジュラーシステム「USMハラー」。スタイリッシュで飽きのこないデザインと優れた機能性が魅力です。世界中のオフィスで採用されており、BEARS本社でも同ブランドのキャビネットを導入していますが、近年は家庭用家具としての人気も高まっています。プロダクトのこだわりや支持を得ている要因を探るべく「USM」の日本法人で代表取締役社長を務めるマルコ・クリヴェリさんにお話を伺いました。
建築デザインから着想を得た家具
――はじめに、USMハラーの成り立ちについて教えてください。
マルコ・クリヴェリさん(以下、マルコ):スイスに拠点を置くUSMは、1885年に錠前製造や金属加工を行うファミリー企業としてスタートしました。USMという社名は、創業者であるウルリッヒ・シェアラーのイニシャルと、創業の地である「ミュンジンゲン」という町の頭文字 “M” を付けたものです。ミュンジンゲンはベルン近郊に位置する小さな町で、現在も変わらず本社工場が置かれています。
マルコ:USMは錠前の製造に始まり、窓用金具や建築用の装飾蝶番、精密板金加工と事業を拡大させていきました。1961年には3代目にあたるポール・シェアラーが入社し、経営に携わるようになります。
彼は時代に合った近代的なオフィスと工場が必要だと考え、スイス人の建築家フリッツ・ハラーにその設計を依頼することにしたのです。彼はスイス連邦工科大学で工学を学び、ル・コルビジェやミース・ファン・デル・ローエといった建築家に傾倒するなど、建築に造詣が深い人物でした。こうしてできた新しい建物が、USMハラー誕生のきっかけとなったのです。
――建物が家具誕生のきっかけというのは不思議ですね。そこからどのようにしてUSMハラーは生まれたのでしょうか。
マルコ:フリッツ・ハラーは鉄骨造のユニットを現地で組み立てる従来の鉄骨モジュラー建築をアレンジし、必要に応じて建物を拡大・縮小できるオフィス棟と工場を建設しました。ガラスと鉄を使用した建物は、当時としては斬新なデザイン。そこでポール・シェアラーはこのオフィスに見合う家具のデザインも併せて彼に依頼しました。
依頼を受けたフリッツ・ハラーは、拡張できる鉄骨モジュラー建築のコンセプトを取り入れて、パーツを組み合わせることで自在に形を変えられるUSMハラーのモジュラー家具システムを開発したのです。
マルコ:当初は自社でのみ使用していたのですが、その機能性と美しさが注目され、1969年にはパリの「ロスチャイルド銀行」から600台のワークステーションを受注しました。それをきっかけに次々と受注が入るようになり、本格的にUSMハラーとしてモジュラー家具の製造・販売を開始することになったのです。
先進的なデザインと機能性
――家具として販売していなかったにも関わらず、大量の注文が入ったのは驚きですね。どのような点が注目を集めたのでしょうか。
マルコ:当時のヨーロッパでは家具といえば重厚な木製のものが主流で、オフィスの本棚なども木製のクラシカルなものが一般的。そんな中、金属製でスタイリッシュなデザインは斬新だったのでしょう。
その上とても機能的で、設置場所に合わせた使い方もできる。より広いオフィスに引っ越しても部品を買い足せば高さや幅を変えられますし、キャビネットをデスク代わりにしたり、空間の仕切りとして使ったりと様々な用途で使えるのです。このような家具は、それまで存在しませんでした。
日本と共通するものづくりの意識
――現在のスイスではどのように使われているのでしょうか。
マルコ:医療機関や銀行、保険会社のオフィスなどでUSMハラーは非常に多く使われています。木製の家具と違って金属製の家具は汚れが付きにくく、清掃がしやすいという利点もあり、とりわけクリニックでの利用は多いですね。もちろん家庭で使われている方も多くいらっしゃいます。私たちの家具は現代的な住居にも、伝統的なヨーロッパ建築にもしっくりと合いますから。おそらくスイスでは全国民の8割、9割がその名前を知っているのではないでしょうか。それくらいポピュラーな存在です。
――日本での展開についてもお伺いしたいのですが、ビジネスをするにあたって本国との違いを感じる点はありますか?
マルコ: “日本のお客様は世界一厳しい” と言われますが、本当にその通りですね。求められるサービスのクオリティーが非常に高く、日本で成功すれば世界中どこの国でも成功できると言われているほど。短納期や充実したアフターケアなども、日本のお客様から得たフィードバックを積極的に取り入れて生まれたサービスです。こうした傾向は、私たちが大切にしている『個々のお客様のご要望にできる限り対応しよう』という姿勢ともマッチしています。
一方で、高品質で細部にこだわったものづくりをするという点で日本とスイスは共通しています。私たちが扱うのがスイス製品だったというのは、日本で受け入れられた大きな要因の1つと言えますね。
オフィスから自宅へ
――日本でUSMハラーはどのような方に人気なのでしょうか。
マルコ:ショールームにいらっしゃるお客様の層は幅広く、ここ最近は女性の方も多くいらっしゃいます。以前はオフィス利用が中心だったのですが、最近はご自宅用に購入される方が増えています。日本上陸当初は売上のうちオフィス利用が7割、家庭用が3割でしたが、現在はほぼ逆転しています。
コロナ禍以降ホームオフィスを構える方が増え、家をより快適な場所にしたいと考える方も非常に多くなりました。そういった背景もあり、機能的でカラフルな我々の家具が選ばれているのではないかと思います。
自由な発想で空間づくりを
――ご自宅でUSMハラーを使いたい方に、何かアドバイスなどありますか?
マルコ:我々の家具は組み合わせ次第で自由な使い方ができるので、マンションのようにあまり広さのない場所では縦に積み上げることができますし、今お使いの家具に合わせて組み立てることもできます。そういった意味でも、USMハラーは日本の住宅にとてもマッチすると思います。ぜひご自身なりの空間づくりを楽しんでほしいですね。
“所有” ではなく “継承” する家具
――これからのブランドの展望について教えてください。
マルコ:幸いUSMハラーは発売開始から半世紀以上に渡って支持をいただけていますので、その強みを今後も強化していきたいと思っています。
開発当初は “収納のための家具” としてデザインされましたが、時が経つに連れて “空間をクリエイティブにデザインするツール” として注目されるようになりました。こうした強みに加えて、これからは世界的に意識が高まっているサステナビリティの概念もより推進していくつもりです。
マルコ:また2025年に開催される大阪万博のスイスパビリオンにて、展示協力させていただくことが決定しています。より多くの方々に私たちの製品を知っていただけるよう、その他にも様々な企画を実施していく予定です。
――最後に、読者の方に向けて何かメッセージをいただけますか?
マルコ:一般的にスチールにサステナブルなイメージはないかもしれませんが、廃棄することなく使い続けられるという意味で、我々の家具は非常にサステナブルです。
先ほどお話ししたように、モジュラーシステムは引っ越し先でも形を変えて使い続けることができます。さらに、これからは家具を “所有する” という概念から、世代から世代に “引き継いでいく” という概念に変わっていくのかもしれません。そんな時代においてUSMハラーを使うことで『自分は持続可能な社会の実現に貢献しているのだ』と自信を持っていただき、そこに快適性も見出していただければ嬉しく思います。
――ありがとうございました。
60年以上前からデザインが変わっていないにも関わらず、今もなおモダンな印象を抱かせる「USMハラー」。時代とともにその解釈が変わっていき、近年はサステナビリティの観点から注目されているということが、とても興味深く感じました。次回は東京・丸の内にあるUSMのショールームにフォーカスを当て、製品の魅力に迫ります。
後編はこちら
不変ながら柔軟。サステナブルなモジュラー家具
マルコ・クリヴェリ Marco Crivelli
USM U. シェアラー・ソンズ株式会社 代表取締役社長 スイス出身。1986年に日本来日後、建築設備、インテリア、ソフトウェアなどさまざまな業種の企業のCEOを歴任。日本市場における戦略の策定や実施、経営再建に従事する。2008年に外部取締役としてUSMの日本支社設立に携わり、2018年より現職。長年にわたってUSM愛好家で、自宅は自身でデザインしたさまざまなUSM家具でコーディネーションされている。