価値あるヴィンテージマンションをつくる。
~管理組合の熱意ある取り組み~

2025.03.21

マンション管理組合の役員は住人が持ち回りで務めることが多く、面倒なイメージがあるものですが、熱意をもって取り組むとマンションはどのように変わるのでしょうか。都内屈指の高級ヴィンテージマンション「クレストコート砂土原」の理事長を3年間務め、現在も理事及び植栽委員長として共用部の改善に力を尽くされているNさんにお話を伺いました。

入居して分かったヴィンテージマンションの現状

企業オーナーの奥様であるNさんは、都心で理想の住まいを20年にも渡って探して続けていたそう。そのN様が “一目で気に入った” マンションが、当時築24年を迎えていた市ヶ谷にある「クレストコート砂土原」です。希望の部屋が空くまで2年待ち、リノベーションに1年を費やした後、2014年に入居されました。

建物には、南アフリカ原産の御影石(インパラブラック)やイタリア原産の大理石(ビアンコカラーラ)を使用し重厚な佇まい。庭が敷地のほぼ半分を占め、植栽が豊かなのも大きな魅力。

「クレストコート砂土原」は1987年に高級賃貸物件としてスタート。当時からエントランスには美しい花が飾られ、素敵な制服を着たコンシェルジュが迎えていたそう。

現在のエントランス。(左)日中はここにコンシェルジュが7時~21時まで在中。夜間も警備員が常駐でセキュリティも24時間万全。(右)エントランスを抜けた先のロビー。正面に中庭の緑が見える。

Nさん(以下N):その後分譲された過程で管理会社が変わり、経年とともに老朽化が目立っていったようです。その状況について、居住者の皆さんは『中古マンションはこんなものだろう』と思われているような印象を受けました。しかし私は『このままにしてはいけない』と感じ、管理組合の理事長に立候補したのです。私はこのマンションが好きだし、磨けば光ると分かっていたから。

管理の素人だからこそ、諦められない

N:マンション管理については全くの素人だったので、それまで管理組合がやっていたことを調べたり、勉強したりするところからのスタートでした。でも何も知らなかったからこそ、色々なことが諦めきれなかったんだと思います。

就任早々、建物の現状についてアンケートを取ったところ『窓が汚れている』『ベランダの水はけが悪い』という回答が。そこでNさんが頼ったのが、以前のお住まいでご縁があった熟練の職人さんでした。

N:その方を介して、古いマンションの問題を自分事として真剣に考えてくださる職人さんたちに出会えたんです。何人かとお話をしているうちに『実はこういう方法がある』と教えていただき、希望が見えてきました。

老朽化の現実を知ることは居住者の務め

特殊な物件であるがゆえに、維持に大変手間がかかるという現実にも直面します。現在進行中の大規模な排水竪管(たてかん)の工事はそのひとつ。

N:「クレストコート砂土原」は1戸が小さくても30坪、大きなところになると120坪あるんです。57世帯ある中で居室は44パターンもある。浴室が2つ3つあるお宅もあるので、広さのある居住空間の排水勾配[*]をつけるために、配管がすごく複雑なんです。

[*]床下を施工する際、トイレや風呂等の汚水が流れやすいように排水管につける緩い傾斜のこと。

N:生活用水がうまく流れなくなったら、住めなくなってしまいます。場合によっては、せっかくリノベーションした内装や浴室を壊さなければいけなくなります。たとえ目を覆いたくなるようなことでも、住んでいる以上は事実を知ることが大切なのです。

決して少額ではない費用をかけて工事を実施できたのは、それでも『このマンションに住みたい』という居住者のみなさんの気持ちが一つになった結果と言えます。

N:建物を良い状態で維持していくためには、こちらに入居されている57世帯全員が建物の状況を知った上で気持ちを合わせて進む必要があるということに気付いたんです。時間はかかりますがその事が最も重要であり、そうしなければそれぞれが持ち主である共同住宅の工事は正しく前に進めないのです。継続は力となり、組合のそのような取り組みは現在の技術を駆使することでピンチをチャンスに出来ると信じています。そしてこの精神がいずれ新しいスタンダードになることを切望しています。

管理会社にすべてを委ねず、管理組合が主導権を持つ

N:他の理事の方から『Nさん、一生懸命にやっていても目的がはっきりしないと誰も動きませんよ』と言われたことがあったんです。そこで “100年続くヴィンテージマンションを目指す!” というキャッチコピーと、そのための理念として “安全・安心・快適な居住空間と資産価値の維持向上を共通の目的とする” というスローガンを掲げました。

――皆さんの共通認識があって、初めて資産価値が担保されるということですね。共有部の修繕をきっかけに管理会社を変更。三菱地所コミュニティとの契約が成立しました。

エントランスのカウンターCCSの文字オブジェが置かれている。「CCS」は “Crest Cort Sadohara” の頭文字を取っている。

――管理会社の変更は大変だったのではないでしょうか。

N:はい、大仕事でした。管理会社数社との面談や説明相見積もりを通して協議を重ね三菱さんに変更することになりました。中には『三菱であれば、全部お任せすればいいんじゃないか』と仰る方もいましたがそれではいけないと。やはり住んでいる方々が声を合わせてやっていくことが大事だと思います。そのことが皆さんにも共感いただけるようになり、現在では大きな修繕をする際に必ず何社かの相見積もりを取るのが約束ごとになりました。時には工事説明会を開き、理事の皆で協議し決定していきます。妥当な数字と内容を皆で確認し進むことで次の工事も管理組合にお任せいただけると思います。理事の活動は奉仕でありながら責任も伴う大事な役割なのです。

理事会は月2回、地下1階のパーティルームのテーブルを囲んで行われる。ここで議論が熱を帯びることもしばしば。

資産価値は居住者の判断にかかっている

――もう情熱大陸みたいですね。ぜひ、このノウハウを広めていただきたいです!

N:私たちのように、みんなで協力しあって良いものを残していく。もうすぐそういう時代になっていくと思いますよ。

――建物を作っては壊すの繰り返しではなく、ですね。

N:はい。愛する建物(資産)がゆえに、維持するため、より良くするために必要なお金を惜しまずかけることは大切なことです。

屋上から市ヶ谷の街並みを望んで。新宿区の保護樹林に認定されている敷地内の木は樹齢100年近いものも多い。

1階ロビーをコミュニケーションの場に

共用ロビーを居住者の交流の場として、さまざまな企画を催しているのもユニークなところ。

N:今までマンションというのは、隣の住民と話さなくてもいいというのが一般的な認識だったと思います。でもこれからは災害時のことを考えても、入居者同士で相談したり、助け合う時代になっていくのではないでしょうか。

ここは子どもたちもいるので、参加型イベントを開催しています。コミュニケーションが生まれることによって、お互いの顔がわかるようになり、挨拶を交わすようになりました。

――ちょっとしたコミュニケーションが大切なんですね。

N:ほどよく安心できる関係を作るということですね。そのために植栽委員会というエントランスのスペースでいろいろな設えを行う委員会をつくりました。季節ごとに居住者の方から雛人形や五月人形、絵画、オブジェなどご提供いただいたものを飾ったり、クリスマスや七夕には子供達にも参加してもらってオーナメントや短冊を飾ったりなど、より楽しい共有空間を作っています。

季節に合わせてエントランスに花を飾るのは植栽委員会の役割。

近い将来、『中庭を読書のできるドライエリアにしては?』『ロビーでマーケットを開いたり演奏会の開催はできないか?』など、植栽委員会に寄せられる希望が励みとなり、今後の発展に夢が膨らむNさん。「クレストコート砂土原」を愛し、ここでの暮らしを楽しく、より豊かなものにしていきたいという想いが伝わってきました。

レンガの壁の家

AI によって生成されたコンテンツは間違っている可能性があります。

クレストコート砂土原を支える管理・工事関係者、そして居住者の全員が一丸となって老朽化の問題を直視し、徹底して納得がいくまで協力し合う。そしてその精神を守り続けて行く。 

“想いが深くないと事は成せない” Nさんが仰ったその一言がとても印象的でした。

Text by Kyoko Hiraku
Edit by Saori Maekawa
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