世界が注目する「ブラジリアン・モダニズム」家具の魅力とは?

2025.06.20

近年、世界的に注目を集めている「ブラジリアン・モダニズム」の家具。文化や伝統、地理的な特性を反映させながらも、そのアート性の高さが魅力です。今回はその基本情報から、日本の住まいへの取り入れ方についてお話しを伺いました。

知られざるブラジル家具の世界

先日「ブラジリアン・モダニズム」の代表的なデザイナー2人の作品を一堂に集めた展覧会「セルジオ・ロドリゲス&リカルド・ファザネロ展 -異彩なブラジリアンモダニズムを探る」が青山の駐日ブラジル大使館で開催されました。

今回の展示は『これだけの数の作品が一度に見られることは本国でもない』という貴重な機会。来場者が熱心に作品を見る姿からも関心の高さが伝わってきました。

では、今まで紹介されることがほとんどなかったブラジリアン・モダニズムの家具とは、どんなものなのでしょうか。展覧会を主催したギャラリー「CASA DE(カサデ)」の中里恭宏(なかざとみつひろ)さんに伺いました。

――なぜ今、ブラジル家具が注目されているのでしょうか。

中里恭宏さん(以下、中里):世界トップクラスのデザインギャラリーがブラジル家具の取り扱いを始めたことがきっかけです。具体的には、「Carpenters Workshop Gallery」[*1]、「Galerie Downtown」[*2]などが挙げられます。

[*1]ロンドン、ニューヨーク、パリ、サンフランシスコに拠点を置くコンテポラリーデザインのギャラリー。[*2]パリのデザインギャラリー。シャルロット・ペリアンのヴィンテージを広めたことでも有名。

中里:注目され始めたのは2016年、2017年あたりですね。SNSの効果もあり、ここ10年ほどでパッと広がりました。現象としては、「サザビーズ」、「クリスティーズ」など海外オークションでブラジルのヴィンテージ家具に高値がついたことが大きかったと思います。

――それだけブラジル家具に価値を感じる人が増えてきているということですね。

中里:そうですね。デザインとアートの間位のオブジェとして捉えられている印象があります。使えるアートといいますか。見ていても楽しいですし。

©Atelier Ricardo Fasanello

――たしかにアート性が高いですね。

中里:イタリア家具のようにある程度スタイルが決まっているわけではなくて、一つひとつの個性が強いんです。そういったデザイナーが集まっている印象です。

©Atelier Ricardo Fasanello

もともと富裕層向けにつくられた最高級品だったというブラジリアン・モダニズムの家具。デザインに品格があるのも魅力になっているように感じました。

モダンデザインの “粋” を集めた首都ブラジリアの建設

ここでブラジルの基本情報を確認しておきましょう。

ブラジルは世界で5番目の広大な国土をもつ国。赤道に近い北部にはアマゾン川が流れ、南側にはサンパウロ、リオデジャネイロがあります。1960年に首都がリオデジャネイロからブラジリアに遷都。何もなかった高原地帯にゼロから新しい都市を建設するという、世界的にも類をみない大規模なプロジェクトが始動しました。

中里:ブラジリアは都市計画をルシオ・コスタ[*3]、公共建築はオスカー・ニーマイヤー[*4]という2人の建築家が手がけたことで有名です。20世紀のユニークな都市づくりが評価され、1987年に世界遺産に登録されました。誕生してからの期間が短く、近代都市が世界遺産になったというのはかなり珍しいケースだと思います。

[*3]近代建築の巨匠ル・コルビュジエを師に持つフランス出身の建築家。[*4]リオデジャネイロに生まれ、ブラジルのモダニズムの父と呼ばれる建築家。

――今回の展覧会で紹介された家具のデザイナーもブラジリアで活躍していたのでしょうか?

中里:そうですね。セルジオ・ロドリゲスは、ブラジリアの公共施設の家具をオスカー・ニーマイヤーから依頼されたデザイナーです。ブラジルの土着的な文化、伝統をモダンデザインに落とし込んだ作風ですが、ブラジリアには政府の施設が多いので、ラグジュアリーで品のあるデザインが特徴といえます。

セルジオ・ロドリゲス(1927-2014)の作品。アーティストの父を持つ芸術一家に生まれ、1952年にリオデジャネイロ国立建築大学を卒業。『ブラジル民族の精神』を体現したデザインは、ブラジル文化を世界に伝える象徴的な存在。

中里:もう1人のリカルド・ファザネロは、もともとインダストリアルデザイナーとして列車や車を手がけていました。ブラジルの多くのデザイナーは木材を使用していますが、彼はグラスファイバーを使っています。そのような特色から、ブラジルのモダンデザインの中でも異色のデザイナーとして捉えられています。

©Atelier Ricardo Fasanello
リカルド・ファザネロ(1930-1993)の作品。独学で家具デザインを学んだアーティスト兼デザイナーで、自ら製作も手がける職人でもあった。未来的なデザインと人間工学に基づいた快適性とを両立させた製品は、独自の存在感を放っている。©Atelier Ricardo Fasanello

日本の住空間に取り入れるには?

DATA

中里恭宏 Mitsuhiro Nakazato

2008年に英国にてアンティークのバイイングコーディネーターとして活動を始める。2010年に東京でビンテージ家具を扱うATELIERを設立。2014年に家具だけでなくアートや美術品を取扱う「Objet d’art」を立ち上げる。その後「CASA DE」などいくつかのギャラリーのディレクションを行い、国内外の店舗やイベントスペースにてインテリアのスタイリングや設計・デザインを手がけている。また、著名建築の保全活動なども行っている。

CASA DE

Art Modern Japan 株式会社が運営するギャラリー「CASA DE」はミッドセンチュリー期のデザイナーズ家具を現在も引き継ぐアトリエの現行品を取り揃えるギャラリー。家具の輸入販売をメインに、空間スタイリング・内装設計などを行っている。
gallerycasade.com ※ショールーム:ご予約制
〒173-0037 東京都板橋区小茂根2-13-10

家具は以下の企業で取り扱いがあります。
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