祭りで感じる都会の温度【後編】
~紀尾井町、神宮前、赤坂~
編集部がこれまでにBEARS MAGAZINEで紹介した都心の街で開催される “祭り” を訪れ、普段とは違った魅力をレポートする本シリーズ。神楽坂、麻布十番、六本木を訪問した前編に引き続き、今回は紀尾井町、神宮前、赤坂の歴史ある祭りにフォーカスをあてます。
<今回取り上げる街の過去記事>
江戸の歴史を明日に繋ぐ街「紀尾井町」
動と静のコントラストがある街「神宮前」
都会の愉しみと安らぎのある暮らし「赤坂」
歴史をそのまま現代に残す「山王祭」
最初にご紹介するのは、千代田区永田町にある日枝神社が主催する「山王祭」。1600年代初頭から開催されており、江戸城に入る神輿を歴代の徳川将軍が上覧する天上祭として発展してきました。現在では京都の「祇園祭」、大阪の「天神祭」と並んで日本三大祭にも数えられています。同じく天上祭である「神田祭」と隔年で行われ、例年6月から7月にかけて多数の行事が執り行われます。
今回取り上げるのは、数ある行事の中で目玉とも言える「神幸行列」。神輿や山車とともに総勢500名が列をなして、永田町から皇居や東京駅周辺を経て日本橋までを巡行します。近代的な建物が立ち並ぶ通りを王朝装束を身にまとった人々が練り歩く様は、行列がそのまま江戸時代から現代にタイムスリップしてきたかのようでした。
列を構成するのは神社の総代や氏子青年会など、地元に住みながら神社への支援活動を行っている方々。馬を引く、旗を掲げる、神職の靴を持つなど、それぞれに異なる役割が与えられています。参列者は他の祭りと比較しても若者が多く、真剣な表情が印象に残りました。
日本でも有数の規模を誇る祭りとあって、平日にも関わらず沿道には多くの見物客の姿が。食い入るように行列を見つめる人や夢中になってシャッターを切る人が多く、人の多さに比して現地は静か。行列から響く祭囃子や太鼓の音色、馬の足音が際立ちます。
小さな神社から原宿の街を盛り上げる「穏田神社例大祭」
続いてご紹介するのは、9月7、8日に渋谷区神宮前で開催された「穏田神社例大祭」。渋谷と原宿のちょうど中間に位置する「穏田神社」とその周辺の3つの町会が主催する祭りで、それぞれの神輿が周辺一帯を巡ります。普段は住宅地にひっそりと佇む神社の雰囲気からは想像できないほどの賑わいを見せる行事です。
神輿が廻るのは、穏田神社から出発して表参道を通って原宿駅前まで向かうルート。町会ごとに異なる色の法被を着た人々に担がれて、勢いよく神社の鳥居から飛び出していきます。表参道に出るまでの狭い道は人であふれかえり、担ぎ手たちの熱気に満ちていました。
数ある神輿の中には子どもが担ぐものも。幼稚園児から小学生ほどの子どもたちが、大人に負けない大きな掛け声で堂々と街を進んでいきます。将来は伝統を引き継ぎ、メインの担ぎ手へと成長するのでしょう。
大通りに出ると「表参道ヒルズ」や今年オープンした「ハラカド」の前を通過していきます。ファッションカルチャーの先端を行く街と日本の伝統文化である神輿のコントラストが印象的で、今日が特別な日だということを実感させてくれます。
原宿駅前までたどり着くと、神輿は駅周辺にいる人々の注目を一身に集めます。普段は見られない光景に興味を惹かれた人々が沿道からカメラを向けていたほか、周辺に建つ店舗やマンションから見下ろす人々の姿も。担ぎ手もこの日最大の掛け声をあげ、行き交う人々に神輿の存在を誇示しているかのようでした。
街の過去と現在が交錯する「赤坂氷川祭」
最後にご紹介するのは、9月13〜15日に開催された「赤坂氷川祭」。951年に創建された「赤坂氷川神社」が主催する祭りで、年間神事の中で最も重要な「例祭」の前後に行われます。例年「宵宮巡行」、「子供巡行」、「神幸祭」の3部で構成されており、今回は「神幸祭」を見学しました。
「神幸祭」とは、神社隊列を筆頭に氷川山車5本と宮神輿が神社を出発し、赤坂の街を巡る神事を指します。氷川山車は遠く江戸時代から守り継がれてきたもの。震災や空襲から被害を逃れた部材を修復し、現在の形に至っています。
隊列は一度、今年竣工予定の「東京ワールドゲート赤坂」に集結。式典を執り行ってから、それぞれ別のルートへ進みます。伝統的な行事の中継点として完成間もない建物が使用されるのは珍しい光景です。
その後、隊列は地元のランドマークである「TBS本社」や「赤坂サカス」の前を走る赤坂通りへ。普段はビジネスの印象が強い街ですが、この日ばかりは祭りの華やかな雰囲気が通り一帯を包みます。今もなお開発が進む街を、昔と変わらぬ姿を保つ氷川山車が行く様にこの街の歴史を感じます。
赤坂通りを抜けると、終着点である赤坂氷川神社は目前。神輿や山車は坂道の多い住宅地に差し掛かり、神輿を担ぐ者も山車を曳く者も最後の力を振り絞って登っていきます。神社前の坂を登る宮神輿には、すでに役割を終えた担ぎ手たちも参加。狭い道が人で埋まり、この日最高の熱気にあふれていました。
伝統や文化を守り継ぐ “祭り” がもたらす繋がり
今回取り上げたいずれの街にも共通して見えたのは『伝統や文化を守り継ごう』という意識。地域住民が一体となって向き合う “祭り” の時間は、コミュニティの絆を深めるきっかけとして重要な役割を担っていると言えます。また、変わらず残り続ける “祭り” の存在は、目まぐるしく変化する現代において『愛着のある街』を見失わないための道しるべにもなっているのではないでしょうか?