「日本民藝館」から学ぶ、美への眼差しと手仕事の価値
“民藝” 誕生からおよそ100年。簡素で飾らない美しさと道具としての実用性を併せ持ち、日本のみならず海外からも高く評価されています。現代においても愛され続けている理由と暮らしへの取り入れ方について、「日本民藝館」学芸部広報担当の古屋真弓さんにお話を伺いました。

“民藝” はじまりの場所
目黒区駒場の閑静な住宅街に建つ「日本民藝館」。思想家・柳 宗悦(やなぎ むねよし)らが提唱した「民藝(民衆的工芸)」という “新しい美の概念の普及” と “美の生活化” を目指す運動の本拠として、1936年に開館しました。
“民藝” とは特別な芸術品ではなく、職人たちが日々の暮らしのために作り・日常で使われてきた器や布、家具などに宿る美を見出した思想です。その新たな価値は “用の美” と称えられています。
館内では柳宗悦が日本や諸外国から集めた陶磁器や染織、木工品など約17,000点にのぼる収蔵品の中から、それぞれの美しさを引き立てる独自の構成で陳列。時代を超えて愛される手仕事の魅力を多角的に紹介しています。展覧会は年に5回開催、学芸部が趣向を凝らしてテーマを決める企画展のほか、年に一度は公募による「新作展」も行っています。

――毎回組み合わせを決めるのが大変そうですね。展示方法について、こだわりを教えていただけますか。
古屋真弓さん(以下、古屋):大変でもありますが、とても贅沢で楽しい作業ですね。これだけ豊かな所蔵品があるからこそできることだと思います。一般的な美術館では産地や時代順、素材ごとなどに分類して並べることが多いと思いますが、当館では “取り合わせ展示” が基本になっています。これはもの同士の美しさを引き立て合う組み合わせを探る手法で、開館当初から展示の主軸になっています。柳宗悦は『陳列も一種の制作である。一つの品物が、置かるべき場所に正しく置かれた時、その品物は活(い)き返るのである。』(*)と述べていますが、我々も毎度手を動かし美を引き出そうと試行錯誤しています。
*柳宗悦『蒐集物語』より引用



古屋:日本民藝館の展示には、ほとんど説明書きがありません。『知識で理解するのではなく、ものを直に観てその美しさを感じ取ることが肝要』という考え方からです。見ている内に想像力が働き、当時の暮らしに思いを馳せたり、自分の暮らしに取り入れたくなったり。共感から自分の生活に結びついていく “ものの力” を感じていただけるはずです。

国を超えて共鳴する暮らしの美意識
――最近はどのような方が来館されることが多いのでしょうか。
古屋:自分の生活スタイルをつくっていく時期に差し掛かった、若い世代の方が増えました。東日本大震災やコロナ禍を経て『どう生きるか』『どう暮らすか』と向き合ってきた世代ですよね。
また、AIやデジタル化が進む中で、若い方に限らず、皆さん確かな手触りや温もりのあるものを自然と求めているように感じます。民藝には『触ってみたい』『使ってみたい』と思わせる力がありますし、民藝館もなんとなくやさしい気持ちになれる場所です。その感覚自体を多くの方が求めているのではないかと思います。

――外国人の来館も多い印象があります。
古屋:海外からのお客様は年々増えていて、皆さんここに “日本らしさ” を感じていらっしゃる気がします。当館は展示作品だけでなく、建物も含めて美意識や精神性を宿していますから。ここに流れる空気の中で感じることーーそれ自体が特別な体験になっているように思います。



――日本の民藝品が海外の人々にも自然と受け入れられているのはなぜなのでしょうか?
古屋:人生の中心に “生活” があるという考え方や、自然と向き合うといった価値観が、どの国にも共通してあるからでしょうか。

古屋:実は来月スウェーデンに行くのですが、そこでも民藝運動と時を同じくして “生活の中に美しさを” という生活文化運動が起こったんです。また以前開催した抽象文様の展覧会では、交流のない地域同士でも似たような文様が生まれていることが明白でした。民藝は人の手によってつくられ、“人の根源的な感覚” を呼び起こします。だからこそ、国を超えて共鳴しあうものがあるのではないでしょうか。

空間と暮らしを変える “ものの力”
――どのように民藝を選び、暮らしに取り入れていけばよいのでしょうか。
古屋:なんとなく買うのではなく『仲良くなれる』『目が合った』と感じたものだけを連れて帰ってみてはいかがでしょうか。例えば毎日使うマグカップをたった1つ、心から気に入ったものに変えてみるなど。そうすることで暮らしに思わぬ変化が訪れるのではと思います。

――現代の住まいに民藝が加わることで、空間にはどんな影響がありますか。
古屋:大量生産された既製品とは異なり、人がつくった “体温” のあるものが日常に加わると、それを大切にしようとする気持ちが起点となり、周りのものとの接し方や扱い方が自然と丁寧になる気がします。部屋の空気や温度感、時間の流れまでもを変えてしまう。そんな小さな変容をもたらすのが、民藝のもつ “ものの力” なのだと思います。
――インテリアとして飾る場合のコツはありますか。
古屋:先ほど『展示も創作』というお話をしましたが、それと同じで、まずはご自身でクリエーションしてみることが大切だと思います。マニュアルや正解はありませんし、『なんだか違うな』と感じたらまた動かしてみればいいんです。繰り返していくことで、やがて自分が心地いいと感じる場所や組み合わせが少しずつ分かってくるんじゃないかと思います。


民藝を次の時代へ手渡していくということ
――古屋さんは民藝が今後どのように展開していくと思いますか?
古屋:民藝はこれから、国際的な枠組みで考えていくものだと思っています。海外の美術館関係者から注目されているのをひしひしと感じますので、興味を寄せてくれている美術館での展示を通して、共感の輪を広げていきたいですね。
それからハンガリーの保育園は、温かみのある空間で子どもたちが日常的に民藝品に囲まれて過ごしているんです。生活の中にある伝統的な仕事を、保育室に取り入れることは当たり前のこととして考えられていて、その美意識が健やかな人間形成にとって大切だとされています。日本でも、幼い頃から自分が生まれた土地の文化や手仕事に触れる環境があったら良いですね。民藝は鑑賞物としてだけでなく、次世代の感性を育むことにも貢献できるものだと考えています。

生活のすぐそばで、暮らしの空気や人の気持ちを少しずつ整えていく “民藝”。
その本質は、ものの美しさだけではなく『どう暮らすか、どう生きるか』という問いを私たちに投げかけてくれることなのかもしれません。日本民藝館は、大切なことを静かに気づかせてくれる場所でした。

古屋 真弓 Mayumi Furuya
1974年生まれ。国際基督教大学卒業。 2015年より日本民藝館の学芸員として、主に広報・教育普及・国際関係業務を担っている。

日本民藝館 The Japan Fork Crafts Museum
柳宗悦が日本および諸外国で集めた工芸品を紹介する拠点として1936年に開館。現在はプロダクトデザイナーの深澤直人が館長職を継ぎ、様々な展覧会や調査研究を展開している。 〒153-0041 東京都目黒区駒場4丁目3番33号 TEL 03-3467-4527 FAX 03-3467-4537 開館時間 10:00~17:00(最終入館は16:30まで) 休館日 毎週月曜日(ただし祝日の場合は開館し翌日休館) 年末年始、陳列替え等に伴う臨時休館あり HP:mingeikan.or.jp





