「トミタ」が伝える世界最高級の壁紙・インテリアファブリックの真髄
創業100年の歴史を誇る壁紙・インテリアファブリック・家具の専門店「トミタ」。BEARSがリノベーションを手がけた「クレストコート砂土原」では、壁紙やリビングソファのクッション、ベッドスローなどに同社が取り扱うファブリックを採用させていただきました。
「トミタ」はヨーロッパを中心に、世界各国の最高級ブランドを取り扱うほか、近年は日本の伝統技術を活かしたオリジナル商品の開発にも力を入れています。創業から現在までの軌跡、日本のインテリアへの思い、今後の展望などについて、取締役副社長の富田州正(とみた くにまさ)さんにお話を伺いました。
3万点以上の品揃えを誇るショールーム「tomita TOKYO」
東京都中央区の複合施設「京橋エドグラン」1階にあるトミタのショールーム「tomita TOKYO」。ガラス張りの壁面から太陽光が気持ちよく差し込み、高さ8mの吹き抜けのある解放感ある空間が広がります。壁面に設けられた大小さまざまなグリッドシェルフには、世界の最高級ブランドの壁紙、ファブリックなどが飾られ、まるで美術館のような佇まいです。
――まずは、このショールームについて教えてください。
富田州正さん(以下、富田):このショールームは2016年にオープンしました。弊社が取り扱う商品数は数万点にのぼりますが、そのうちの約3万点をショールームに展示しています。ここでは、海外のブランドの壁紙や日本の伝統技術を活かしたトミタオリジナルの壁紙、ヨーロッパを中心としたインテリアファブリック、家具、ラグなどを実際に手に触れて質感を体感することができます。
―ショールームには創業当時の看板も飾られていますが、トミタの歴史について教えてください。
富田:江戸時代、私の曽祖父にあたる初代の富田彦四郎が京都で襖紙(ふすまがみ)や金襴緞子(きんらんどんす)を扱う商いを始めました。お客様のお屋敷に伺って、しつらえのご相談を受ける仕事です。時代が変わり、明治になると天皇陛下が京都から東京へ移られたので、彦四郎も上京。1923年に現在ショールームがある京橋の地で、「富田商店」として創業しました。
2代目は襖紙の生産を始めるなどして事業を拡大し、3代目の代から輸入事業を始めました。3代目社長は私の父にあたります。父は若い頃アイスホッケーをやっていて、オリンピック日本代表選手として海外遠征も経験しました。その中で海外の美しいインテリアに触れ、それらを日本に紹介したいという思いを抱くようになって壁紙の輸入を始めたのです。
その後、私の兄が4代目社長、私が副社長となって、家族経営を続けています。現在は壁紙だけでなく、インテリアファブリックや家具、ラグも扱っています。
人との縁で広がっていった海外事業。ビジネスパートナーとは家族ぐるみのお付き合い
――現在は世界の一流ファブリックメーカーの製品を数多く取り扱っていらっしゃいますが、何かきっかけがあったのでしょうか。
富田:今から40年ほど前、私の母が自宅用のインテリアファブリックを探したことが最初のきっかけです。母は当時インテリアビジネスには関わっていなかったのですが、ただ美しいものが好きだったんですね。なかなか気に入ったものが見つからず、あちこち探す中でヨーロッパ製の生地に出会い、当時の日本にはないデザインや質感の美しさに魅せられたといいます。
その後母は、トミタの事業としてヨーロッパの生地を扱いたいと考え、単身フランスに渡りました。何のつてもない中で、なんとか住所を調べて最高級の老舗ブランドを訪ね、『ぜひうちの会社で取り扱わせてほしい』と直談判したのです。突然の訪問でしたが、母の情熱が通じたのか、フランスを代表するファブリックメーカー「ピエール・フレィ」と取引を始められることになりました。「ピエール・フレィ」は家族経営の会社なのですが、今でも家族ぐるみのお付き合いをしています。
――そんな経緯があったのですね。世界的な老舗企業とそのような温かい交流があるのは素敵ですね。
富田:人とのつながりは宝物ですね。ほかにも、こんな話があります。同じくフランスのファブリックメーカーの「メタフォール」は、エルメスグループが母体のファブリックブランドとしても知られていますが、弊社との出会いは偶然から始まりました。
母がイタリアのヴェニスで開催された展示会に参加したときのことです。一人で大きなスーツケースを引いて歩く姿があまりに大変そうに見えたのか、通りすがかりの男性が手を貸してくださいました。母がお礼とともに、『これから展示会に買付けに行く』と説明すると、その方が『今夜、色々なブランドが集まるディナーがあるからあなたもぜひ』と招いてくださいました。その方がメタフォール社の社長だったのです。これをきかっけに「メタフォール」との取引が始まっただけでなく、多くの方を紹介していただきました。
――人と人との縁でビジネスが広がっていったのですね。家具についても、何かエピソードがあるのでしょうか。
富田:現在弊社が力を入れているイタリアを代表する高級家具ブランド「プロメモリア」も、ファブリックブランドの方からの紹介で出会いました。会社を経営しているソッツィ家とは家族ぐるみのお付き合いをしています。特に私は、年齢が近いこともあって、創業者のロメオ・ソッツィさんの息子であるダヴィデ・ソッツィさんと親しくしていまして。
実は、このショールームを設計するにあたって彼がたくさんアイデアをくれたんですよ。ここにまだ何もなかった頃に訪ねてくれて、イメージをその場でさらさらとスケッチしてくれたのです。これを元に、現在のショールーム1階のデザインが完成しました。
『ほんとうにいいものは、使い続けるほどに愛着が増していく』
――インテリアの楽しみ方について、読者の方に何かアドバイスはありますか?
富田:部屋のインテリアを変えたいと思っても、イメージがわかずに悩んでしまうこともあるかもしれません。そんなときは、クッションから変えてみるのも一つの方法です。お気に入りのクッションカバーを選んで、『これに合うカーテンの色はどんなものだろう?』『どんなソファに置くとよいだろうか』などと、クッションから全体を決めていくのです。
クッションの生地を選ぶとしたら、たとえば弊社では、17世紀に創業しヨーロッパの王室で愛用されてきたフランスの老舗メーカーの生地も扱っています。このメーカーの生地は、マリーアントワネットの時代からヴェルサイユ宮殿に納められてきたものです。つまり、時代が時代なら王族しか使えなかったような高級生地を、今、日本のご自宅で使うことができるわけです。そう考えると、ワクワクしてきませんか?
気に入った生地を選び、フランスから取り寄せてクッションに仕立て、部屋のアクセントにする―そんな楽しみをぜひ味わっていただきたいですね。クッションは生地が1mもあればつくれますから、はじめての方でも冒険しやすいのではないでしょうか。
――現在の日本のインテリア事情について、どのようにお考えですか?
富田:現在の日本で販売されている壁紙の99%がビニール製の量産品です。職人さんがこだわりを持ってつくった壁紙というのは、全体の流通量からするとごく一部でしかありません。量産品が悪いというわけではなく、戦後、日本は焼け野原から復興して急速に近代化していくために、安価で手に入りやすい壁紙が必要だったのです。
しかし、その時代はもう終わったはずです。ご自宅のインテリアをご自身で自由に考え、心地よいと感じるものを選び、長く大切に使うというスタイルが主流になってもよいのではないでしょうか。
ショールームにお越しくださるお客様の中には、世界中の良いものを見てきた方もたくさんいらっしゃいます。そんな方々をはじめとして、価値あるものを選んで生活に取り入れたいという方が増えていると感じます。今後そのようなスタイルの方がもっと増えて行ったらいいなと思いますね。
――日々の暮らしを彩るインテリアに長く関わってこられた富田さんが考える “豊かな暮らし” とは、どんなものでしょうか?
富田:自分が納得したものに囲まれて、家族や友人とともに良い時間を過ごすこと。これが私にとっての “豊かな暮らし” ですね。
私は仕事を通じて出会ったイタリア人から、ものづくりやインテリアだけでなく、生き方についても教えてもらいました。彼らは、家族や友人と一緒においしいものを食べて、楽しい時間を過ごすことをとても大切にしています。そういった価値観を持つ彼らとの出会いは、私の人生を豊かにしてくれたと思っています。
――「トミタ」では、たくさんのファブリックや壁紙、家具を取り扱っていらっしゃいますね。ご自宅のインテリアにはこだわりがあるのでしょうか?
ちょうど、私の家をリフォームしたばかりなんです。子ども部屋は、娘に『自分の部屋のインテリアをどうしたい?』と考えさせて、スケッチしたものをもとに部屋の装飾をつくりました。
私も子どもの頃、両親が壁紙のサンプル帳を見せてくれて『この中から好きなものを選びなさい』と自分の部屋のインテリアを考えさせてくれたので、娘にも同じように、自分で考えてほしかったのです。
自分が好きなもの、心地よいと思うものを選ぶということは、大事なことだと考えています。また、私が選んだ家具は、いつか子ども達に託そうと思っています。世代を超えて長く使える家具というのは、心豊かにしてくれる存在ですね。
――最後に、これからやってみたいこと、力を入れていきたいことなどありましたら教えてください。
富田:2023年にトミタは創業100年の節目を迎えました。これからの新しい時代は、オリジナル商品の開発にもっと力を入れて、日本の伝統技術を世界に発信していきたいと考えています。フランスなどでは、国が伝統工芸をとても大切にしていますが、日本のものづくりの現状は厳しく、日本の宝物であるはずの技術がどんどん衰退しています。伝統工芸は一度途絶えたら終わってしまうものなので、何とかして守っていきたいですね。
冨田さんは、『工場生産の量産品は、新品はきれいに見えても、長く使うと経年劣化してしまう。一方、一流の職人さんが手作業で作った製品は、使い込んでも品質は落ちない。むしろ使い込むほどに味が出てくる』と教えてくださいました。よいものを選ぶということは、単に長く使えるというだけでなく、その製品への愛着が年々増してくるということなのでしょう。そのようなものに囲まれた毎日は、きっと心を豊かにしてくれるに違いありません。
富田州正|Kunimasa Tomita
株式会社トミタ取締役副社長
https://www.tominet.co.jp/
1969年生まれ。小学校から大学まで、アイスホッケーに打ち込む。1994年に大学卒業した後、イギリス、フランスでインテリアやデザインを学ぶ。1999年に帰国し、株式会社トミタに入社。営業販売等の実務を経て、現在は会社経営に携わる。2016年、トミタのショールーム「tomitaTOKYO」を立ち上げる。趣味は釣り、車、レコード。音楽が好きで、「tomitaTOKYO」のBGMは、今も交流の続くイギリス留学時代の音楽仲間がセレクトしてくれている。