風と光と鳥の声。都心の森とひとつになる家

2023.10.27

私たちが長い時間を過ごす住まい。家での時間を心地よく過ごせることは、人生を豊かにする大切な要素のひとつです。

シリーズ “Private View” では、住まい手の理想が反映された無二の邸宅など、魅力ある住まいに暮らす方たちを訪ね、本当に心豊かな暮らしについて考えます。

今回は、都心にある森と隣り合う2020年竣工のコーポラティブハウス[＊]にお邪魔し、こちらの一区画を購入されたご家族の奥様にインタビュー。全２回の前編は、物件との出会いや家選びの際に重視したポイントについて伺います。

偶然の出会いからたどり着いたという、風と光に満ちた理想の家とは？

＊コーポラティブハウスとは、入居を希望する数世帯が集まり、建築家とともに共同でつくる集合住宅のこと。入居者から成る組合を結成し、土地の取得や建物の設計依頼、施工会社への発注など、すべての建設行為を主体的に行う。

はじまりはInstagram

──素晴らしいお宅ですね。目の前の森と融け合うような空間に、ここが東京であることを忘れてしまいそうになりました。まずは、こちらの物件との出会いから伺えますか？

出会いのきっかけはInstagramです。私たち夫婦には３人の子どもがいるのですが、子どもたちが成長し、より広い住まいに引っ越したいと考えていたときに、たまたま見かけた写真に目を奪われました。緑の美しさがとても印象的で。当時住んでいたエリアからも近いと分かり、そこからは早かったですね。

この家は５区画から成るコーポラティブハウスなのですが、都心の城南エリアにありながら緑豊かな森に面した立地環境と物件の構想に、他にない魅力を感じました。すぐに現地を訪ね、設計を手がける建築家の方の過去作品や模型なども見て、夫が購入を即決しました。

この物件を特徴づける緑豊かなルーフの設計は、日影規制と北側斜線の制約から生まれたもの。都心の森に面した稀有な立地を活かし、屋内外の空間をシームレスにつなぐため、床スラブ（鉄筋コンクリートの床板）を斜めにせり上げ、ルーフ面を緑化するというユニークなデザインが導き出された

──即決とはすごいですね。以前にも住宅のご購入経験があったのでしょうか？

いいえ、今回が初めてでした。もともと夫婦ともに引っ越し好きで、それまではずっと賃貸派。この家との出会いはタイミングも大きかったと思います。上の子が小学校に上がるのを機に、子どもたちが学校に通う間、腰を落ち着けて同じ場所に住むのもいいかもしれないと。

──タイミングもありつつ、もともと賃貸派だったお二人が購入を即決されたのは、それほどに魅力を感じられたからなのでしょうね。決め手となったのは何でしたか？

やはり、この森の景色と緑の美しさですね。そして、ここでの暮らしがイメージできたこと。森と一体化したようなこの家の完成予想図を見て、屋上へのアプローチを子どもたちが自由に走り回る姿が浮かびました。公園に行かなくても身近に緑を感じられて、家族がのびのび過ごせる家──『こんなところで子育てできたらいいな』と思いました。

緑化したルーフ面の地盤は高木の植樹も可能な厚みを持つ。屋上テラスへの階段は土に差す可動式の網状ステップ。子どもたちは芝生の土手を滑って遊ぶのがお気に入りだそう

緑と風と光を感じる家

──住まい探しにおいて、どんなことを重視されていましたか？

都心でも豊かな緑に触れられて、風が通り、美しい光を感じられる住まいが理想でした。

以前暮らしたタワーマンションでは、安全性の問題から窓を大きく開けられず、空気がこもる感じが気になって。また、地震でエレベーターが止まった際、高層階まで子どもを抱っこして上がった経験があり、『子育てするには、もう少し緑が多くて低層の住まいがいいな』と思うように。

その点、この家はテラスにつながる大きな窓を自由に開けられるため、自然の風が室内を流れ、とても快適です。さらに屋上に上がれば、広い空の下で清々しい風を感じられます。地面に近いのも、災害など何かあったときのことを考えると安心ですね。

森を望む１階寝室への入口。5.5mもの天井高があり、明るい日差しを浴びる木々の姿が目に飛び込んでくる

光に関して言えば、この家はあえて南側を閉じ、森に面した北側に窓を設けています。少し暗めの室内から窓の外の自然光を味わえる設計になっていて、一日を通して安定したやわらかな光を楽しめます。直射日光にさらされないため、暑くならないのもメリットです。

そしてもうひとつ、空間の広さを感じられることも、私たちには外せないポイントでした。そのためには、夫いわく『面積より体積が重要』。この家は天井が高いため、床面積以上のゆとりを感じられます。

２階のLDKは天井高３ｍを超える大空間。窓を開け放てば、木々のざわめきと鳥の声に包まれるよう

──コーポラティブハウスというスタイルについてはいかがでしょう？

まずは、住まい手が暮らしたいように空間をカスタマイズできる面白さを感じました。私たちは住宅の図面や空間を見るのが昔から好きだったのですが、一から住宅をつくるイメージはなかったので、そんな自分たちにぴったりだったと思います。

また、入居者の方たちとの程よい距離感も気に入っています。テラスで顔を合わせれば、フェンス越しに挨拶を交わし、立ち話をすることも。マンション住まいだと隣の人の顔さえ知らないことも珍しくありませんが、ここでは顔を知る人が近くに暮らしている安心感があります。

心地よい風と緑を感じる屋上テラス。隣家との境界は軽やかな縦格子のフェンスで仕切られている。家族が揃う休日には、このテラスで子どもたちとハンモックやBBQなどを楽しむことも多いそう

──住空間のカスタマイズはどんな風に進められたのでしょう？

物件を購入した時点では、まだ建物内側のレイアウトが決まっておらず、設計を手がける建築家の方とたくさん話し合い、自分たちの理想の住空間を考えていきました。家の模型などを見てイメージをふくらませるのは、とても楽しい時間でした。

建築家の方に希望をお伝えしたり、プロの視点からご提案いただいたりと、半年ほど対話を重ねたでしょうか。デザインについては、思い描いた理想をどんな風に叶えるのかはプロの手に委ねるのが一番だと考え、信頼してお任せしました。結果、とても使いやすく美しく仕上げていただき、大満足しています。