中央線で異色を放ち、醸成された文化がある街「阿佐ヶ谷」

2025.01.24

四季折々の表情が楽しめるケヤキ並木、多くの住民が集い活気溢れる商店街。都心へのアクセスもいい立地でありながら、自然が豊かで落ち着いた雰囲気がある「阿佐ヶ谷」。家族でも単身でも住みやすいと評判の街でもあります。今回はそんな阿佐ヶ谷にスポットを当て、実際にお住まいのAさんに街の魅力を伺いました。

著名な文士たちが集い、語らった街

鎌倉時代は名もない地だった阿佐ヶ谷が「あさがや」と呼ばれるようになったのは南北朝時代といわれています。徳川家康が江戸に入府すると、阿佐ヶ谷一帯は「阿佐ヶ谷村」、以降は「杉並村」とも呼ばれていたそう。昭和に入って東京都が23区制になると、この街は再び「阿佐ヶ谷」と呼ばれるようになりました。伝統的には「阿佐ヶ谷」ですが、駅名は「阿佐ケ谷」、住居表示は「阿佐谷」と、文字使いが複雑な街でもあります。

JR阿佐ヶ谷駅南口から徒歩1分にある「阿佐ヶ谷パールセンター商店街」。

街のシンボルといえば「阿佐ヶ谷パールセンター商店街」。かつては鎌倉と北関東地域を結ぶ「鎌倉街道」の一部で、江戸時代に入ると堀之内の妙法寺へ通じる “参詣の道” として親しまれていたそう。

商店街の中ほどには300年前に建立された「青面金剛像」と「地蔵菩薩蔵」が、その頃の名残として残っている。

また、阿佐ヶ谷は文士たちに愛された街でもあります。大正11年に中央線が開通して交通の利便性が向上したことをきっかけに、多くの文士が阿佐ヶ谷に移住。中央線界隈に住んでいた井伏鱒二や川端康成などが将棋や酒食を楽しむ「阿佐ヶ谷会」を発足し、交流も盛んに行われていたそう。そんな彼らに影響されて太宰治などの文士がさらに集まり、やがて「阿佐ヶ谷文士村」と呼ばれるようになりました。

そういった歴史背景があるからか “サブカルの聖地” とも呼ばれる中野や高円寺に比べると、どこか落ち着いた大人の雰囲気を放つ阿佐ヶ谷。その一方で、駅前には下町情緒を感じる商店街や飲屋街などもあり、どこか懐かしさも覚えます。独特な文化と生活利便性が絶妙に同居する街と言えるのではないでしょうか。今回はそんな阿佐ヶ谷に2017年からお住まいのAさんに、この街に住む魅力をお聞きしました。

あらゆる面においてバランスが取れた街

―― そもそも、なぜ阿佐ヶ谷に住むようになったのですか。

Aさん(以下、A):独身時代は世田谷や目黒に住んでいました。結婚&出産をきっかけに家を購入しようと思ったのですが、20代後半の私たちにはその辺りはすごく高くて。そんなときに阿佐ヶ谷の物件を紹介されて内見に行ったら、想像以上によくて即決でした。

―― どんなところが想像以上だったのか、具体的に教えてください。

A:物件がよかったのはもちろんですが、「阿佐ヶ谷パールセンター商店街」の活気とアットホームな雰囲気がすごく気に入って。「中杉通り」のケヤキ並木も美しいですし、とにかく阿佐ヶ谷が私たち好みの街だったんです。それまで一度も遊びに行ったことがなかったので、まさに一目惚れでしたね。

「阿佐ヶ谷パールセンター商店街」は、生活に欠かせない住民憩いの場
「中杉通り」

―― 馴染みのない土地で家の購入を即決するとはすごいですね。

A:内見のときに街を歩いていたら、美味しそうな飲み屋さんがたくさんあったんです。私たちは夫婦で飲みに行くのがすごく好きなので、そういう生活が想像できたというのも決め手になりましたね。とはいえ、住んでみて気に入らなかったら、さっさと売って世田谷に戻ろうと思っていました(笑)。リセールを考えて、2路線使えて駅徒歩10分以内、間取りも売れやすさを意識して作ったくらいですから。

商店街から一本入ると閑静な住宅街が広がっている。

―― 今も阿佐ヶ谷に住んでいるということは、本当に気に入ったんですね。実際に住んでみていかがでしたか。

A:同じ阿佐ヶ谷で家を買い替えようかと思っているほど、この街が気に入っています。東京や大手町といった都心部へも電車一本でアクセスできますし、ハイソサエティすぎず気軽に過ごせるところもいいですね。

あと、サクッと飲みに行ける環境なので、夫婦の時間も増えたと思います。ほどよく中央線カルチャーも感じますし、阿佐ヶ谷って本当に色々な人がいるんです。そんな “多民族な街” というのが面白いですし、温かい人も多い気がします。

あらゆる面においてバランスが取れた街

―― 人付き合いが希薄になっている現代において、人の温かさを感じられる街というのは素敵ですね。ちなみに阿佐ヶ谷ならではのイベントはありますか?

A:「阿佐ヶ谷七夕まつり」と「阿佐ヶ谷ジャズストリート」という大きなお祭りがあるのですが、街がものすごく盛り上がるんですよ。8月上旬に開催される「阿佐ヶ谷七夕まつり」は日本三大七夕まつりの1つで、商店街がメイン会場になります。アーケードの天井には商店街の各店や小学校の生徒などが趣向を凝らした色とりどりのハリボテが吊るされ、それを見てまわるのがとっても楽しいんです。

A:10月下旬に開催される「阿佐ヶ谷ジャズストリート」は、地域密着型のストリートジャスの祭典です。商店街や駅前の広場、カフェなどが会場となり、街にジャズが溶け込んでいる感じがして心地いいんです。どちらも家族で毎年楽しみにしているお祭りです。

―― Aさんのお話を聞いていると、阿佐ヶ谷に興味が湧いてきました。ちなみに子育てをする上ではどうですか。

A:子育てもしやすいですね。子供が小さいと区役所に行く機会が多いのですが、「杉並区役所」は南阿佐ヶ谷の駅前にありますし、子供を遊ばせる場所もたくさんあります。よく行くのは「善福寺川緑地」です。川の横が緑道になっていて、お花見したりお散歩したり、季節の移ろいも感じられるところが家族みんなお気に入りです。吉祥寺の「井の頭恩賜公園」のような大きい公園はないですが、街のそこかしこに小さな公園があるのも魅力ですね。

紅葉が美しい善福寺川の緑道。

―― 阿佐ヶ谷のお気に入りのお店を教えてください。

A:阿佐ヶ谷は個人経営の美味しいお店がいっぱいあるんですよ。なかでもよく行くのは、「博多鉄なべ餃子 なかよし」。いつ行っても混んでいますが、並んででも入る価値があります。

福岡の「博多祇園鉄なべ」の暖簾分け店。鉄鍋にぎっしりと詰まった焦げ目も香ばしい絶品餃子は、一度食べてみる価値あり。

A:「手打ち蕎麦 やの志ん」もよく行きますね。古民家を改装した趣ある名店で、雰囲気がいいですし、味も間違いありません。お蕎麦から一品料理まで、なにを食べても美味しいんですよ。

風情ある入口も素敵な「手打ち蕎麦 やの志ん」

―― どちらも気になります! 他によく行く場所はありますか?

A:私が阿佐ヶ谷を気に入っている理由の1つでもあるのですが、ローカルの激安スーパー「アキダイ 阿佐ヶ谷店」はよく行きますね。その向かいに「TAKANO」という精肉青果店があるのですが、2店舗が価格競争をしていてすごく安いんです。もちろん扱っている食品も新鮮ですし、どちらも子育て世代には嬉しいお店ですね。

A:あと、駅前の喫茶店「gion(ギオン)」もおすすめです。店内はネオンやランプでギラギラしていてわけがわからないんですけど(笑)、それがなんだか落ち着くんですよね。阿佐ヶ谷名物でもあるので、訪れた際にはぜひ足を運んでみてください。

ネオンや植物で彩られた入口も印象的。

――最後に、Aさんにとって “豊かな暮らし” とはどんなものなのか、お聞かせください。

A:仕事や家庭、みんなといる時間、一人でいる時間など、私は常にバランスを大事にしています。そのバランスが崩れると、なんだか居心地が悪くなってしまう。逆にいい塩梅で整っていると、幸せや安心感を覚えるんです。阿佐ヶ谷だからそれが叶えやすいわけではないですが、自然が近くにあって、仕事場へのアクセスもいい。そう考えると、阿佐ヶ谷は私にとってバランスがいい場所なんですよね。 “豊かな暮らし”とはどういうものなのか考えたことなかったですが、ここでの暮らしがきっとそうなんだろうと思います。

自然が身近で文士たちが育んだ独特な文化もあり、下町のような親しみやすさもある。そして肩肘張らずにありのままの自分でいられる街。Aさんのお話を聞いて、なぜ人々は阿佐ヶ谷に魅了されるのか分かった気がします。

Text by Kyoko Chikama
Edit by Saori maekawa
この記事をシェアする

MAIL MAGAZINE

   

こだわりの住空間やライフスタイルを紹介する特集、限定イベントへのご招待など、特典満載の情報をお届けします。

JOIN US

ベアーズマガジンでは記事を一緒に執筆していただけるライターを募集しています。

   
ページの先頭へ戻る
Language »