現代の暮らしを彩る、新ブランド「山形緞通」のカーペット

2025.03.14
今年(2025年)創業90周年を迎えるハイエンドな絨毯ブランド「オリエンタルカーペット」。その歴史とものづくりの姿勢についてお伝えした前回に続き、後編では新たな展開について常務取締役の渡辺 篤志さんにお話を伺いました。

現物と対峙し、そのストーリーを知る

渡辺さんをお訪ねしたのは千代田区東神田にある「山形緞通(だんつう)東京ショールーム」。山形緞通はオリエンタルカーペットが2012年に立ち上げた個人顧客向けのブランドです。

入り口のある1階から階段を下りていくと、まるでギャラリーのようなスペースが広がっていました。

商業建築を多数手がける「トラフ建築設計事務所」の監修によるモダンな空間デザイン。

――本当に素晴らしい空間ですね。足を踏み入れただけでワクワクしてきました。

渡辺:東京ショールームは2020年にオープンしました。「山形緞通」という新しいブランドの “浸透の場” が何よりも必要でした。私たちのものづくりに関心を持ってくださった方々に、直接想いを伝えたい。製品だけではなく、その背景や歴史も含め、ご案内をしています。

――たしかにこちらに伺うと『百聞は一見にしかず』という感じがします。

渡辺:完成された製品はもちろんですが、私たちの絨毯の付加価値は、人であり、工房であり、歴史です。ものづくりの内面を伝えることはとても重要だと思っています。

――時代の変化もあるのでしょうか。

渡辺:コロナ禍を経て、特に感じています。制作現場である山形の工房の “空気感” をこのショールームで感じていただけることが理想ですね。

――そうした深い部分を知ることができると、たしかにブランドに対する信頼感が高まりますね。

今も使われている絨毯づくりの道具。
絨毯の色見本。

女性職人が活躍する山形の工房

絨毯づくりを実際に見学することができるのも、オリエンタルカーペットの魅力のひとつ。1940年代に建てられた山形の工房は、現在もメンテナンスを加えながら大切に維持されています。

渡辺:90年前に伝授された絨毯づくりの技術は、今なおこの工房で受け継がれています。また、当時の「女性の雇用を創出したい」という理念のもと、現在も職人さんは全員女性です。

「山形緞通」というブランドが誕生し、メディアに取り上げられる機会が増えたことで、職人を志す若い女性がここ数年でぐっと増えたそう。

渡辺:絨毯づくりの技術を習得した、10代から60代の幅広い年代の女性たちが私たちのものづくりを支えています。

実際に絨毯をご自宅で使用されている方が工房へ見学に来ることもあるそう。どのような背景で製作されているのか知りたくなるほどの絨毯とあれば、その使い心地の良さが想像できます。

空間になじみやすいデザインが人気

――東京ショールームにはどのような方がいらっしゃいますか?

渡辺:私たちのものづくりに関心を持って下さったユーザーの方を中心に、建築やインテリアに携わるプロの方々にも足を運んでいただいています。ウェブ等で入念に下調べを行った上で、色や質感の最終確認に来て下さる方も多いです。

――お客様が、実際にここで見て選ばれるわけですね。では今、山形緞通ではどのようなデザインが人気なのでしょうか。

渡辺:デザイナーズラインの「UMI」は、私たちの染色と織りの技術が生かされた象徴的なデザインでもあり、多くの方々から好評をいただいています。

――「UMI」はアート性のあるデザインですが、一般の住宅にも取り入れやすそうですね。

ニュアンスのある色味と使い込んだ風合い

渡辺:インテリアと調和する無地シリーズも人気です。

そのひとつが「MANYO」。これは東京ショールームの空間デザインを手掛けた「トラフ建築設計事務所」との共同開発で誕生したものです。

渡辺:「MANYO」は、日本古来より根付く、無地の美しさを表現したコレクションです。もともと200色以上あった無地の絨毯から、万葉集に詠まれた伝統⾊に着想を得て、12の歌と⾊を抽出しました。

風流な趣向もさることながら、品質にも相当なこだわりがありました。

渡辺:オリエンタルカーペットの手織緞通に使われるマーセライズ加工の特徴は、織り上げた製品に絹のような光沢とくすんだ独特の表情をもたらす技術です。古くから建築界を中心に最高品質と認めていただいておりました。「MANYO」は製品段階でなく毛糸の状態で加工を施す「糸マーセライズ」を初めて実用化し、深みのある風合いと柔らかな手触りを実現した絨毯です。

――ある種のヴィンテージ加工ですね。

渡辺:製品段階でのマーセライズ加工は原料や染料等の変化により、高コスト化が長年懸念されておりました。毛糸の状態での加工は、山形県工業技術センターと5年の歳月をかけて開発したオリジナルの技術になります。

ニュアンスのある色味と使い込んだ風合いが相まった絨毯は、深みのある美しさで空間を優しく彩ります。このような部屋であれば、居心地の良さも格別なのではないでしょうか。

絨毯を住まいに取り入れるコツ

現代の日本の住空間ではフローリング床が一般的。そこに上質な絨毯を取り入れるコツについてお伺いしました。

渡辺:絨毯は空間を調和する “潤滑油” としてはもちろん、時にはその空間の雰囲気を一気に変えることができる製品だと思います。またここ数年で、住宅をリノベーションされる際に、絨毯を敷き詰めたいというご要望も増えてきました。

――メンテナンスはどのようにすればいいでしょうか。

渡辺:日常のメンテナンスは、掃除機や粘着式クリーナーで表面の汚れを取り除いていただければ大丈夫です。山形の工房では、丸洗いクリーニングを承っておりまして、4,5年に1度絨毯を里帰りさせていただけると永くお使いいただけます。

また少し意外だったのが、ナチュラルカラーを選ばれる方が増えているというお話。

渡辺:自然色をテーマとした「NEW CRAFTON」シリーズは、奥ゆかしく落ち着いた色調で人気があります。微かな色差の糸を染め分け、複数色をブレンドして表現した無地で、住まいに溶け込む6色を選び抜きました。

「NEW CRAFTON」は、ファッションブランドのYAECAとのコラボレーションで実現したもの。

渡辺:絨毯は日常の暮らしの中にあるものなので、現代の生活に合わせたアップデートは常に必要だと思っています。全てにおいて挑戦し続けていかなければいけないなと、つくづく実感しています。

上質なものと一緒に長く暮らす豊かさ

最後に、渡辺さんにとっての豊かさについてお伺いしました。

渡辺:私は絨毯に囲まれて育ったので、オリエンタルカーペットの絨毯が当然のようにあるものでした。“絨毯がある暮らし” が日常であり豊かさであったと思います。オリエンタルカーペットの絨毯が、これから先も多くの人々の生活に、足もとから寄り添ってくれる絨毯であってほしいと願っています。

――メンテナンスもしてくださるわけですからね。

渡辺:はい。“年月の経過とともに蓄積された上質なものと一緒に暮らす” という考えを持てることが、ひとつの豊かさなのかなと思います。

――大量生産、大量消費の時代が長く続いていましたが、『本当に良いものを長く使っていきたい』という方向に変わってきていますよね。

渡辺:当社にとって、それはとてもありがたいことです。もちろん自分自身もそうありたいと願っています。自分が実践できなければ、私たちのものづくりの良さを伝えられないですから。

2回にわたって紐解いてきたオリエンタルカーペットの世界。長い歴史と圧倒的な技術力を背景に、今の時代の価値観を反映した新しい絨毯がとても素敵でした。手づくりのぬくもりを感じられる上質な絨毯を住まいに取り入れて、長く使っていきたいものです。

 

Text by Kyoko Hiraku
Edit by Saori Maekawa
DATA

渡辺 篤志 Atsushi Watanabe

オリエンタルカーペット株式会社 常務取締役
2016年オリエンタルカーペット株式会社入社。東京支店次長、取締役を経て2022年より現職。 山形緞通の営業・企画の責任者としてブランドの認知度向上に努めている。




山形緞通 東京ショールーム

2020年に都内初のショールームとしてオープン。洗練された空間では、全製品のラインナップをご覧いただけるほか、オーダーメイドやメンテナンス等の相談も承っている。 ※ご案内をご希望の方は事前予約がおすすめです。
山形緞通 東京ショールーム
〒101-0031
東京都千代田区東神田1-2-11 アガタ竹澤ビル
TEL03-5829-3887
営業時間10時~17時(土曜は15時まで)定休日:日曜・祝日
yamagatadantsu.co.jp

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