高輪の緑を望む大空間を住み継ぐ。
「理想の住まいを追求したドルフ・ブルーメンの美学」

2022.10.21

品川駅から徒歩5分ほど、由緒ある高級住宅地 “旧高輪南町” に建つ「ドルフ・ブルーメン」は、地下1階付き・地上10階建てのヴィンテージマンション。BEARS社と小大建築設計事務所(一畳十間)が協働し、高輪の豊かな緑を望むワンフロア物件のリノベーションを進めています。

その全容に迫る連載の第1回は物件の周辺を散策し、江戸・東京の発展の歴史とともに歩んできた “港区高輪エリア” の魅力をお伝えしました。

第2回となる今回は、高度経済成長期に “理想の住まい” を追い求めた「ドルフ・ブルーメン」と、同マンションシリーズをご紹介します。

現在のマンション外観と新築分譲時のパンフレットの建築パース画。いかにきれいに維持管理されてきたかがよく分かる

周辺環境に調和する、気品ある佇まい

「ドルフ・ブルーメン」は1974年、鹿島建設の設計施工によって建築されました。

「品川プリンスホテル」に隣接する約990m²の敷地に、広めの平面駐車場と芝生、建物がゆとりを持って配置されています。規模に対して総戸数は15戸のみ。ワンフロアに多くても2住戸、各戸の専有面積は最低でも120m²超という贅沢さです。

高輪の地で半世紀近い時を重ねたその佇まいは、周辺環境に調和するような落ち着きと気品を感じさせます。

青空に映える煉瓦色のタイル、バルコニーやピロティの優美な曲線が目を惹く

ヴィンテージマンション「ドルフ」シリーズ

同マンションは、フジサンケイグループに属するフジランド社と鹿島建設が組み、1970年代に展開した高層分譲住宅「ドルフ」シリーズのひとつです。

ドイツ語で「村」や「郷」を意味するその名には、ドイツのものづくりの合理性と重厚感、素朴な心のふれあいを大切にしたコミュニティづくりへの想いが込められているそう。

他に「ドルフ高輪」「ドルフ目黒」「ドルフ都立大」などがある同シリーズは、1950年代から食と住をテ-マに事業を展開してきたフジランド社の暮らしの哲学と、鹿島建設の高い建築技術が掛け合わされ、重厚な建築構造、白や煉瓦色を基調とする外観デザイン、温かみのある共用部やプライバシーへの配慮、良好な管理体制などが魅力として知られています。

昭和レトロな丸窓は「ドルフ」シリーズを象徴する意匠

“おしきせ” ではない “理想の住まい” への想い

中でも「ドルフ・ブルーメン」は当時最先端のコンセプトのもと建てられました。

機能一点ばりになりがちな現在の住居の傾向に対して、「本当に理想的な住まいとは何か」という真剣な追求の結果生まれた、この《ドルフ・ブルーメン》は、住まいのもたなければならない個別性、快適性、美しさをすべて備えたものとして、必ずや皆さまにご満足いただけるものと存じます。

(新築分譲時のパンフレットより)

その特長のひとつが『3PS』(Perfect Participate Planning System)と名づけられた、専有空間のカスタマイズの自由さ。“本物の住居空間” を提供することを目的に、従来の制約を可能な限り取り除き、居住者が設計施工の専門家と一緒になって、思い思いの住まいを創り上げる──当時としては先進的な試みがなされました。

同パンフレットよりフロア図面。新築分譲時、居住者は自身のライフスタイルに合わせて、専有空間を自由にカスタマイズすることができた

さらに、オートロックの共用玄関やフロアごとのゴミ捨て場、ディスポーザーを備えたキッチン、管理人室と会話できるインターフォンなど、当時では画期的だったであろう充実の設備を揃え、暮らしの利便性が追求されています。

私たちは、ますます過密化が進んで行く東京の中で、住居空間のあり方を真剣に考え続けてきました。集合住宅はあきらかに、その一つの方向を示すものです。しかし、もともと画一的、没個性的な性質を持っているこの住居形式は、異なった構成、趣味、生活の歴史を持っている個々の家庭に対して、本当にフィットした住居空間を提供しているのだろうか。私たちは、この疑問を持ち続けてきました。ここにお届けする《ドルフ・ブルーメン》の計画は、長い間の私たちの課題に対する回答としてお示しするものです

パンフレットより)

高度経済成長期に進んだ街の過密化や、大量生産・大量消費社会、画一的な居住空間への疑問。洗練された優美さと温かみを同時に感じさせるこのマンションに足を踏み入れると、「人間らしい理想の住まいとは何か?」を真摯に問うた、施主たちの想いが随所に感じられるようです。

同パンフレットより「ドルフ・ブルーメン」での暮らしを描いたイラストレーション

『花束』は新しいコミュニティのシンボル

マンション内には、数々の芸術作品が点在しています。

敷地の入口に立つ、花束を掲げた二人の少女像は、戦後の彫刻界を牽引した本郷新が1972年札幌オリンピックのために制作した名作『花束』。新しいコミュニティのシンボルとして、ドイツ語で「花束」を意味するマンション名「ブルーメン」の由来にもなりました。

エントランスは、外壁と同じ煉瓦色の高級タイルで仕上げられ、開放感のあるピロティから絵画や彫刻が飾られたガラス張りのロビーへと続いています。これだけの数の芸術作品や調度品に囲まれたマンションは珍しく、分譲当時のグレードの高さが伺えます。

芸術味あふれるサロンは交歓の広場

1階共用部には、居住者のためのサロンスペースがあります。

“良き隣人たちとの交歓の広場” として設けられたこの部屋は、マンションに住まう15世帯の共有広場であり、客人をもてなす応接間としての役割も。

南側の芝生に面し、陽光を柔らかく取り入れた空間は、由緒ある彫刻や絵画、シャンデリア、応接セットなどがゆったりと配置され、芸術味あふれる温かな雰囲気に包まれていました。

サロンに配された芸術作品や調度品の数々

さて、マンションの魅力を紐解いた第2回はいかがでしたか?

次回はいよいよ現在リノベーション中の居住空間へ。工事が進む内部の様子とともに、一畳十間が手がける空間のコンセプトや設計プランをご紹介します。
どうぞお楽しみに。

Text by Jun Harada
Photos by Jun Harada, Misaki Matsumoto
         

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