「Ritzwell」の家具が世界に届ける、日本の美学
手しごとと天然素材にこだわり、時とともに愛着が深まる家具を生み出してきた「Ritzwell(リッツウェル)」。静かで凛とした存在感が、上質な空間に調和します。そうしたものづくりの姿勢は国内外で高く評価され、いまや世界的なブランドへと成長を遂げました。今回は世界で愛されるRitzwellの魅力を2週に渡ってお届けします。

夫婦の想いと夢がはじまり
1992年に福岡の地で創業したRitzwellは2003年に東京へと拠点を広げ、2008年に世界的なインテリアの祭典「ミラノ・サローネ国際家具見本市(以下、ミラノ・サローネ)」に初出展。以来、国際的な舞台で存在感を高め続け、2025年には通算15回目の出展を迎えました。今回は株式会社リッツウェル 広報担当の若山良子(よしこ)さんに、ブランドの歩みや大切にしている想い、そして福岡にあるものづくりの拠点「糸島シーサイドファクトリー」についてお話を伺いました。
——Ritzwell創業時のエピソードからお聞かせいただけますか。
若山良子さん(以下、若山):Ritzwellは創業者の宮本敏明が1992年に地元・福岡で立ち上げた家具ブランドです。当時は夫婦2人での創業でした。もともとは別の家具メーカーに勤めており、世界各地で仕事をする中で『体の小さい日本人は海外の家具ではなかなかくつろげない』『日本人が本当にくつろげる家具は、日本人にしか作れないのでは』と感じるようになったそうです。
日本人には素材を選ぶ目、繊細さを大事にする感性、丁寧に仕上げる気質がありますよね。そうした美意識を西洋のモダンなデザインのなかに自然に重ねたいという考えが、Ritzwellのものづくりの原点になっています。

——創業時はどのようなプロダクトを販売していたのですか。
若山:創業当初はオリジナルのデザインや自社工場がなく、椅子などの単品アイテムを仕入れて販売していました。しかし『いつかは自分たちのデザインを世界に届けたい』という強い想いを抱き、夫婦で構想を温め続けていたんです。やがて少しずつ形にしていったデザインが、ソファやダイニングテーブル、ベッドなどのオリジナルシリーズとして実を結ぶと、多方面から評価いただけるようになりました。2003年には東京・青山外苑前にショールームを構えるまでに成長を遂げたんです。
世界に挑んだ、Ritzwellの確かな一歩
——東京進出からわずか5年後の2008年に、ミラノ・サローネに出展されたんですね。
若山:創業者には当初から『世界的なブランドにしたい』という想いがあり、なかでも目標だったのが “家具業界のパリコレ” ともいわれるミラノ・サローネへの出展でした。もちろん簡単に叶うことではありませんが『何年かかっても良いからチャレンジしよう』という気持ちで取り組み続けたんです。
2008年の出展は経済産業省の「sozo_comm(*)」事業のメンバーに選ばれたことがきっかけでした。日本を代表する家具ブランドと合同での出展だった中、まだ歴史の浅かった私たちが選ばれたのは、Ritzwellの独自性や未来に向けた可能性に期待していただけたからではないかと感じています。
*経済産業省が実施していた「生活関連産業ブランド育成事業」の一環。優れたデザインや技術を持つ日本の製品を海外の展示会に出し、ブランド育成を支援する取り組み。

——当時どのような独自性が評価されたと思われますか。
若山:例えば無垢材をオイルで仕上げたり、天然のヌメ革をそのまま使ったりと、素材の質感を活かすデザインにこだわっている点でしょうか。当時はまだ珍しく『扱いづらい』と言われることもありましたが、素材の個性を大切にしながら自然な表情を美しく見せるアプローチをし、徐々にRitzwellの世界観をつくっていったんです。
ミラノの舞台で示した、日本人の美意識
——そこから2025年までに計15回もミラノ・サローネに出展しているんですね。その中での印象的なエピソードを教えてください。
若山:国の支援が終わってからは、自分たちでプレゼンをして出展枠を勝ち取る必要がありました。そこで辞めることもできたのですが、一度得たチャンスを手放したくないという想いで挑戦を続けたんです。2013年には日本のブランドとして初めて「Design Hall(*1)」で単独ブースを構え、2016年にはアジアのブランドとして初めて「Hall 5(*2)」にも出展できました。
*1 ミラノ・サローネの会場の1つ。展覧会の中核とも言え、世界のトップブランドが集まる。
*2 Design Hallの中で最も注目度が高いエリア。世界のラグジュアリー家具ブランドがしのぎを削る。

若山:順調に進んだように見えますが、ヨーロッパの名だたるラグジュアリーブランドと肩を並べて、Ritzwellの世界観を表現するのは難しさがありました。ほかのブランドと同じようにシーンや空間で勝負しても、Ritzwellの本質が伝わらないのではないかと考えて検討を重ね、最終的に私たちはプロダクトそのものの力で勝負することにしたんです。それを象徴するのが2018年の『TOKONOMA』展示で、ブースの外側をショーケースのようにして、家具を目線の高さに配置しました。
細部まで丁寧に仕上げた手しごとの質感には『神が宿っている』と感じる瞬間がありますよね。普段は見下ろされがちな家具を真正面から見ていただくことで、仕上げの美しさや素材の表情まで感じ取っていただきたかったんです。実際この展示は大変好評でした。

——ミラノ・サローネ出展後、周囲の評価に変化を感じることはありましたか。
若山:海外でも注目していただけるようになり、世界的なデザイン賞を受賞する機会も増えました。例えば、世界三大デザイン賞の1つとされるドイツの「iFデザイン賞」や「レッド・ドット・デザイン賞」、アメリカで最も歴史ある「シカゴ・グッドデザイン賞」、そしてイタリアの権威ある「アーキプロダクツ・デザイン賞」などです。世界でも評価いただけることは本当にありがたく、ものづくりを続けてきた私たちにとって大きな励みになっています。

Ritzwellものづくりの源「糸島シーサイドファクトリー」とは?

若山 良子 Yoshiko Wakayama
株式会社リッツウェル 広報 2007年、リッツウェルに入社。営業職を経て、広報部門の立ち上げに携わる。現在は広報・PRを担当。