400年続く神社の宮司が見つめる、変わりゆく街「表参道」の姿
明治神宮の参道として始まった「表参道」。名だたるブランドの旗艦店が立ち並び、日本有数のトレンド発信地として知られています。この地を長きにわたって見守ってきたのが、美容、技芸上達、縁結びの神様を祀る「穏田神社」です。宮司を務める船田睦子さんに、街の変遷とこの街で暮らす人々の結びつきについてお話を伺いました。
表参道の歴史を見守ってきた「穏田神社」
街の喧騒から一歩離れ、ひっそりと佇む「穏田神社」。表参道のほど近く、キャットストリートを抜けた住宅街に建ち、創建400年を超える歴史を持ちます。かつて「穏田原宿村」と呼ばれたこの土地の産土神(うぶすながみ)として信仰され、江戸時代には「第六天社」と称されていましたが、明治期に穏田神社に改名。戦時中に社殿が焼失したものの、その後再建されます。1996年に老朽化に伴い全面的に改築し、歴史と伝統を感じさせながらも街の雰囲気に自然と溶け込む、現在の姿に至りました。

祀られているのは、整った容貌を司る「淤母陀琉神(おもだるのかみ)」、畏れ多い女性を象徴する「阿夜訶志古泥神(あやかしこねのかみ)」、そして相殿として縁結び・疫病除けの神とされる「櫛御食野神(くしみけぬのかみ)」。美容や技芸の上達、夫婦円満や縁結びなどのご利益があるとされ、日々多くの参拝者が訪れています。毎年9月に催される例大祭では、お神輿が表参道をはじめとする氏子地域を巡るのが恒例。威勢の良い担ぎ手たちの声が響き、きらびやかなお神輿の列が練り歩く光景は、街の風物詩となっています。

船田さんは2018年に亡くなられた先代宮司であるお父様の跡を継ぐかたちで、2020年4月から正式に穏田神社の宮司を務めています。宮司として、またこの地で生まれ育った一人の住民として、船田さんは表参道という街をどのように捉えているのでしょうか。
“注目を集める街” だと感じていた
――街のシンボルである「表参道ヒルズ」の開業が2006年。当時、船田さんはまだ小学生だったと思いますが、その頃の思い出や街の印象を教えてください。
船田睦子さん(以下、船田):現在の表参道ヒルズに隣接している「神宮前小学校」に通っていたので、よく覚えています。表参道ヒルズの建設前は、同潤会アパート(同潤会青山アパートメント)がありました。私が4年生の時にアパートの取り壊しが始まり、6年生になるまでずっと工事をしていましたね。

船田:表参道ヒルズの建設中に、表参道の通りで生徒の作品展覧会を行ったことがありました。企画自体はよくあるものですが、場所が表参道ということで少し注目されたんです。街行く人が自分たちの作品を見ているのを目の当たりにしたとき、『この街はいろんな人が訪れて、いろんな人に注目される場所なんだ』と実感したことをよく覚えています。表参道という街の “ブランド力” のようなものは、子どもの頃からなんとなく感じていました。

コロナ禍で先が見えなくなったことも
――ほかに印象に残っていることはありますか。
船田:大学生の頃、サークル活動の一環でファッションスナップをよく撮っていました。特にラルフローレンの前「表参道まちかど庭園」付近はスナップの聖地になっていて、よく行きましたね。自分たちの手で楽しいこと、面白いことをしようという人やお店が多かったという印象です。

船田:しかしそれも、2020年の新型コロナ流行の影響で大きく変わりました。街から人がいなくなり、お店はどこも閉まっていて。美容室やアパレルショップの開店や新しい建物の建設などが立ち止まってしまったため、「開店清祓(きよはらい)式」や「地鎮祭(じちんさい)」などの出張祭典を執り行う機会も減り、いつもの通りも空きテナントが目立つようになりました。寂しかったですね。
ちょうどその頃神社を継いだばかりだったこともあり、『どうなるんだろう、この街は』と途方に暮れつつも、ここで動いていれば何かに必ずつながるチャンスだと、いろんなことを施策してチャレンジしていきました。コロナ禍中に考えたことは、今の神社を支える基盤になっています。

人々が神社を訪れる理由
――表参道ヒルズ開業前からコロナ禍に至るまで、街の変化を間近で見て来られたんですね。コロナ禍以降の変化はどのように感じていますか。
船田:大きく変わったのは、やはり海外の方がこれまで以上に増えたことでしょうか。当社のように小さい神社にも、毎日外国の方がいらっしゃいます。日本人の普段の生活や文化に触れたいという方が多く、『この神社の神様にはどんなご利益があるの?』『神道と仏教の違いって何?』など、とても熱心に質問してくださいます。日本文化を知ろうとしてくれていること自体が嬉しいですし、日本人とは違う感覚に触れることが、街をさらに活性化させるヒントに繋がるのではと感じています。


(右)お守りやおみくじを授与する際には『今日はどうしてこちらにいらしたんですか?』など参拝者との会話を楽しむという船田さん。
――日本人にとっては当たり前のことでも、外国の方の目には新鮮に映るのかもしれませんね。
船田:そうですね。もちろん参拝にいらっしゃる日本人の方も老若男女さまざまです。日課として手を合わせに来てくださる近所の方や、毎月御朱印をお受けされることを楽しみしてくださる方、アニメ作品の聖地にもなっているので『作品をきっかけに穏田神社を知って、毎月来るようになりました』という方もいらっしゃいます。
また『仕事の合間や休憩時間に心を落ち着かせるために来ている』という方もとても多いです。境内に大きな木があって、静かで、風が通り抜けて……この環境が心地良いと言っていただいています。この神社がいろいろな方の日常や生活の一部になっていることがとても嬉しいです。神社はただ祈るだけの場所ではなく、“自分と向き合うための場所” でもあるんだと、改めて気付かされました。
船田さんが語るこれからの表参道とは?

船田睦子 Mutsuko Funada
穏田神社宮司。1993年、東京都渋谷区生まれ。白百合女子大学 文学部フランス語フランス文学科を卒業。ファッション系企業、法律事務所を経て、先代である父の死をきっかけに跡を継ぐことを決意。2020年4月に穏田神社の宮司に就任。コミュニティ形成としての神社運営に尽力する。体調を崩したことをきっかけに植物療法を学び、現在はフランス植物療法普及医学協会AMPP認定の植物療法士としても活動。ワークショップやオリジナルプロダクトの販売、コラボレーションなども行っている。ライターやモデルとしても活動をはじめ、仕事の領域を増やしている。

穏田神社
東京・原宿に位置する、美と縁結びの神を祀る神社。お宮参り、厄除け、七五三など各種祈祷も請け負う。季節限定の御朱印やオリジナルの御守りなども頒布している。 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-26-6 TEL : 03-3407-7036 / FAX : 03-3407-7080 HP:onden.jp instagram:onden_jinja




