はじまり——「コープオリンピア」にて

2022.02.17

2021年12月上旬 ひんやりと澄んだ空に神宮への道は、朱く篝火のように円を描きます。
和やかで高らかに輝き照らす陽の光。淡い桃色から茜色へ切なく包む陰の光。やがて暗がりが拡がると遠くの月に見守られた樹々は、イルミネーションで華やかに煌きます。まるで寄り添いながら歩む人々を眺めているかのようです。

何気ない一日の移り変わりも四季のある国らしい有機的な色彩、対照的にデジタルで無機質に切り替わる視界、その両面を器用に持ち合わせる首都・東京。今夏、TOKYO2020オリンピック・パラリンピックも開催されました。世界的なパンデミック、地球環境やエネルギーの転換、差し迫る食糧危機、バーチャルとリアルの共存社会……めまぐるしく時代が変わっています。

そんな “いま” を感じられる立地トレンドの中心地に佇むある歴史的な建築物の中で、私たちは豊かな都市のこれからを考えていました。

いまや原宿・明治神宮駅前の風景の一部となった「コープオリンピア」。昭和40年、東京オリンピックの翌年に建てられた日本で最初の億ションです。当時だれもが驚くほど高級であっただけでなく、近代建築家の巨匠ル・コルビュジエがフランスで設計した有名である「ユニテ・ダビタシオン」を模して造られています。

Photo by Akito Goto

“職住近接” のコンセプトを実現する建築物。メインストリートに馴染むように斜面を利用し、地下階に配したテナントやレストラン、ホテルライクな有人管理フロント、360°展望の屋上へは自由に出入りできます。さらに開放的なランドリースペース、画期的であったプールなど設備に贅を尽くし、巨大な共同住宅として街を形成しています。

記念すべきオリンピックイヤーの次の時代へ、ラグジュアリーの新たな形を投げかけた挑戦。当時の著名人や資産家に支持され、表参道の優雅で洒落た暮らしを半世紀あまりかけて刻んできた、街と共に生きているマンションです。

この場所で弊社はリノベーションプロジェクトをスタート。コープオリンピアのメゾネット住戸を活かし、細部にも妥協なく都心で暮らしながら、自然と共生しているような心地よい住まいを──とプロジェクトは始まりました。

コープオリンピア
Photos by Keishin Horikoshi / SS Tokyo

建築設計は「小大建築設計事務所」へ依頼。「隈研吾建築都市設計事務所」出身で和の美徳を表現されることにも長けており、現在では海外でも高い評価を得ています。心の充足が得られる居心地を目指し、映える様な豪華さや短期的な快適さではなく、経年変化を愉しみ温かく手触りのある空間を追求。天井・壁・床その全てに木と土を使用しています。

天上には香川県にある工場で、未だに研究者の熟練の手で配合を調整している「四国化成」の珪藻土を採用。滑らかで柔らかな月明かりのような反射となるよう、曲線を職人技で仕上げていただきました。また素材の良さを引き立てドラマティックに演出するライティングは「大好照明」により特注で製作され、そこに住まう方を配慮して設置され、穏やかに灯しています。

Photo by Akito Goto

壁には古くは縄文時代より防腐防虫になることで重宝され、雨風にも強く鉄道の枕木にも使われる栗材を選定。独特の削り痕を残す日本古来の加工技術、名栗(なぐり)を伝承されている創業100年「橘商店」により、壁面はナチュラルアートとなりました。

Photos by Keishin Horikoshi / SS Tokyo

希少な物件とコンセプトに共感いただき、施工前に関わらず早々にご購入者が決まってしまいましたが、物件のお披露目は予定通り可能に。そもそも映像などのクリエイティブな世界では一般制作発表会や完成披露試写会はよくあることですが、不動産や建築の世界で関係者以外へ過程を共有することは珍しいそうです。

ましてや、今なお愛され続けるヴィンテージマンションの大規模リノベーションを丸ごとお見せできることに不思議な縁を感じます。入居前にも関わらず気前よく了承いただいたオーナー様のお心遣いに深く感謝すると共に、こういったことを良しとされる粋な方々がこの建物を継いでいかれたのかもしれないと肌で感じました。

「業界関係者というよりも、建築現場に触れたことのない方々に見て知ってほしい」
そんな想いから単なる内覧会ではなく『このプロジェクトに携わる方々のストーリーを訊くことが必要なのでは?』と急遽、対談イベントを企画しました。このような建築リノベーションのリアルを伝えることで、この国の住宅リテラシーが変容し、暮らしの選択肢が拡っていくよう美意識と創造の足跡をアーカイブしていくことができるのではないでしょうか。

日の当たる表舞台には出てこないけれど、名前のある人の手によって造られていくこと。
住まうためにだれかが手入れし、どなたかへ受け継いでやっといまここに在ること。
そこに護られた営みと彩りのある生活の智慧があること。
そんな住環境の光の裏側にあるささやかでたわいも無い情報をお伝えし続けていけたなら。

すべてが機械的に流されていく時代でも、人は静かに眠り光を浴びて活動します。だからこそ新たな明日を見つけ、大切な人を守り癒すための居場所は必要です。だれかが創り、所有し、維持し、受け継ぎ、それを分かち合う。そうして都市は形成され続けるのです。

そのちょっとしたきっかけになれるのではとBEARS MAGAZINEを立ち上げました。
どうぞよろしくお願いいたします。

Text by Haruka Koike
TOP Photo by Kensuke Yamaguchi
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